第157話
「若殿、恐れながら、上様より使者が参られました」
「こんな夜分にか?既に酉の刻を過ぎているが?」
「はっ、その通りなのですが、到着を知らせる使者を送り、すぐにではありませんが、一度使者が退出し、こちらに戻って来たのちに急にやってこられまして。若殿だけでいいので至急出仕して欲しいと。服装は気にしないそうです」
「ということは今のような服装で気にしないと」
「はっ」
「そうか。しかし馬鹿にされるわけにはいかぬ。羽織をだれかもって参れ。行くぞ」
「はっ」
なんで義兄上は急にこんな夜遅くに僕を呼んだ?どうせ明日も行くし明日でいいと思うのだが。何が起きたのだ。謎すぎる。三好は僕が5000の供を連れて京に入った以上簡単に動けないはずだ。京にいる今川家の軍勢は8000ほどいるわけだし、すぐに1万2千ぐらいは集められる状況だから、何か武力を行使するとは思えない。まあ警戒するには重要だが。
僕は家紋がついた羽織を着ると、直ぐ目の前にある、将軍家御所に向かった。とはいえど一瞬で着く。
「今川宰相様、よく参られました。上様がお待ちです」
玄関には、義兄上の側近で、将軍家直臣の中でもかなり偉い、評定衆どころか、現在は政所のおさも任じられている、細川殿が待機していた。義兄上はかなり僕に合うのを焦っているのかもしれない。
そのまま義兄上が待っている部屋に入ると、少し痩せたように見える義兄上がいた。
「義兄上、お久しぶりにございます」
「彦五郎、こんな夜分にすまないな。人払いをしてくれ」
「はっ」
完全に部屋から人がいなくなったし、近くにもいないようだ。
「どうしたのですか。痩せているようですし、疲労が溜まっているのですか」
「ああ、三好だ。三好のやつが調子にのっている。かなり危ない。彦五郎が京にいる限り大丈夫だと思うが、かなり心配だ。そこで頼みがある。輝若丸を預かってくれ」
「若君をですか」
「そうだ。京は危険だ。彦五郎は輝若丸の叔父だ。それに信用に値する。このままだと、輝若丸がいつ三好に取られるかわからない。今日三好に迫られた。今まで伸ばしていた、輝若丸の養育をするものを決めることを。それを三好にすることを。しかしそれは受け入れられない。受け入れたら、すぐにとは言わないもののある程度育つと余が殺されて、輝若丸が跡を継ぐだろう。余はそのようなことを起こしたくない。考えた末、彦五郎に任せることを考えた。彦五郎ならば、安心して任せられる。それの了承が欲しい。このままだと、かなり危ない。三好が急に圧力を強めた。恐らく、我が子の誕生ゆえだろう。余は今川派だ。そして、それが気に食わないのだろう。それゆえに輝若丸を三好派に育てたいようだがその思惑にはのせさせられぬ。彦五郎頼む。この通りだ」
そう言って、義兄上は急に頭を下げた。将軍なのだから、臣下にするべきではないのに
「義兄上、まずは頭を上げてください。具体的にはどこで育てればいいのですか」
「内心は京が良いが、それは危険だ。駿府で良い。政子に任せれば良いだろう。後、いずれは政子と其方の間に生まれた娘を許嫁にしたい。」
「わかりました。独断では決められないのですが」
「明後日には発表したい。三好は明日も迫るだろう。だから、明日頼むのは危険だ。それゆえに今日わざわざ呼び寄せた。すまぬな。旅で疲れているだろうに」
「いえ、それは良いのですが提案です。父上の許可を得る必要がありますが、来年には私が後を継ぎます。そしたら正式に養育ができるでしょう。それまでは、大和にて養育しましょう。大和は、京に近く、今川領です。そして多くの寺社があります。寺社もうでを口実に会いに行けますし、叔父の覚慶様もいます」
「そうだな。それで頼む。彦五郎、本当にありがとう。三好の横暴は許せないが、対抗しきれずな」
「理解できます。いくら2カ国を支配しようと力が圧倒的に強い三好には抵抗しきれないでしょう」
「そうなのだ。彦五郎の援助でどうにかだ。困ったものだ。後彦五郎、今川中納言を大納言に昇進させ、其方を中納言にしよう。養育のお礼だ。後は、堺の収益の4分の1をやろう」
「官位の件はありがたく受けさせていただきたいです。養育費は辞退させていただきます。幕府の財政に負担はかけたくないですし、その代わりにお願いがあります。我が家臣の松井七郎と佐野次郎に官位をください」
「養育費を受けろ。これは命令だ。これだけは譲れない。これ以上の恩はこちらが心苦しい。官位はもちろんやろう。適当な国司位に推薦しておく」
「ありがとうございます。養育費は大丈夫です。今川家は貧乏でないのでお金には困っておりません」
「これは譲れぬ。まあ良い、輝若丸に会ってみろ。すごく可愛いのだ。ついてこい」
「はっ」
三好はなんて面倒なことをするんだ。しかし最近の三好は圧力を凄いかけているようだ。何があるのか気になるな。詳しく調べさせるか。




