閑話 放置されている政姫の気持ち
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私と宰相様の初夜は行われなかった。それから2ヶ月経った。初夜が行われるはずだった日の次の日に、佐野二郎様がやってきて、私に謝った。彼は宰相様の側近なんだそうだ。宰相様の小姓からこのことを聞いて、非礼を詫びに来たと言っていた。私は許したが、京から連れてきた老婆や侍女は怒っていた。足利家の姫君にこのような仕打ちなんて、蛮族だと。でも今川家を蛮族にしてしまうと足利家も同じだから文句言えないと思う。今川家も足利家も怪しい源氏の血筋ではなく、きちんと立証できる源氏の家だ。そこらの蛮族と一緒にはするべきではないし、何より私が慕っている宰相様が非難されるのは嫌だった。
そして、私は結婚してから毎日おいでになるのを待った。昼間は花を愛でたり、刺繍をした。今川家の庭は京の御所よりも整備されていて、快適だ。一様、尊重してくださっているのだろう。私が望めば、欲しいものはいただけたし、着ている服などは返って豪華になったほどだ。将軍家も昔と比べればマシになったが、今川家の富裕さは予想を超えた。このようにするために、宰相様の治部卿様も励まれているのだろう。それに、宰相様は家督を来年継がれるらしい。そのこともあって忙しいのだろうが、悲しい。宰相様は私の元に一度も参られることはなかった。侍女の話だと、宰相様は一度も、この区画にもおいでではないらしい。この区画は奥だ。男性もあまり入れないし、必ず監視がつく。しかし、今まで、一度も来られていないのなら、愛人の可能性は低いだろう。愛人がおいでならば、屋敷に住まわせるはずだ。私だって、将軍家の娘、高貴な身分のため、宰相様に側室がいても文句は言わない。しかし、ここまで蔑ろにされるのはきつい。宰相様が、初夜の時に言った仕事が忙しいというのは私を傷つけずに、愛されている方のところに行くためではなく、本当のことだったのだろうか。
でも、もうすぐで結婚から3ヶ月だ。私は宰相様に会えていないことが悲しくて、治部卿様に会いに行った。治部卿様は話を聞いて少し驚いていたが、息子がすまんと謝られた。注意しとくと。しかし、それでも状況は変わらなかった。私は、その日の夜も待ったし、1週間待った。宰相様はおいでにならなかった。そこへ、表が大騒ぎになっていた。
「姫様、来客です。」
「通しなさい」
1人の男が入ってきた。誰かはよくわからない。
「政姫様、初めてお目にかかります。今川家家臣、福島伊賀守真正と申します。若殿の命にて参りました。太守様に若殿との仲を申されたそうですね。若殿はとても忙しく、姫君に会う時間はございませぬ。若殿は今日から視察に参られるとのこと。また、家督を継ぐためにとても忙しくされており、姫君の相手はできませぬ。そのことをよくよくご存知願いたい。」
「福島伊賀守、私は宰相様の妻です。いささか無礼では?」
「私が忠誠を誓っているのはただ1人、若殿だけです。私が申すことは以上です。くれぐれも太守様に文句を言うことは控えていただきたい。」
「しかしながら放置は酷くありませんか。」
「その件は申し訳ございませぬ。しかし若殿は多忙なのです。わかってくださいませ。」
「もういいわ。宰相様を連れて参りなさい。」
「それは無理です。若殿は視察に参られます。駿府においでなのかはわかりませぬ。先ほどは準備をなさっていましたが、大変忙しいお方で、書類などを裁く必要もありますし、某も若殿の命にて、こちらに来た後は行う任務があります。」
「しかし何故、宰相様はそこまで私と会うことを拒まれる。」
「ここだけの話ですが、若殿は女性に興味がございませぬ。かといって衆道も好まれず、我々もそこは手を焼いています。若殿の興味は、銃に向いておいでなのです。興味がないものにはとことん冷淡なのが若殿です。領地経営などは、興味がござるようで、とても優秀です。更には、商売にも手を出されるなどと多才なお方。多才ゆえ欠けているところがあるのでしょう。それが恋愛だったのかと。」
「そうですか。残念です。今日のところはわざわざきてくださりありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ急な訪問で申し訳ございませぬ。某は下がらせていただきます。」
福島伊賀守殿は、何が言いたかったのはよくわからないが我慢してくれということだろう。しかし寂しいのに。待遇が悪いわけでもないけれど、蔑ろにされていていい気分がするわけはないのに。しかし宰相様は急に使者を寄越してくるなど、何かあったのだろうか。それとも何かとても忙しかったのだろうか。謎だなあ。まあ宰相様に愛されて、幸せに暮らすのが私の望みだ。これだけ放置されていてもそれは変わらない。




