閑話 政姫視点
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私は、政略結婚で今川家に嫁いだ。宰相様は、とてもご立派なお方で、高身長で他の女中達も憧れるようなお方だ。その上に、日の本一の大大名だ。兄上に挨拶する際に何度か面会した事もあり、兄上に促されて共に昼食をとったことがある私が魅力的に感じていないわけがなかった。兄上に彼の方に嫁ぐように言われた時は嬉しかった。私は宰相様に恋をしていたのだ。
例え、政略結婚だと言えど、わくわくしていたし、幸せな生活が待っているのだろうと思い込んでいた。私は将軍家の娘として生まれたと言えど、この時代の将軍家は貧乏な上に力がない。そのせいで、何度も京を追い出されることもあった。場合によっては私たちは捨て置かれ、場合によっては共に向かった。それだけに、安定した立場になれるというのは嬉しいことだった。
実際に、駿府に行く道も歓待されて、駿府に着くのがとても楽しみだった。駿府に着くとわくわくが止まらなかった。しかし、宰相様は挨拶に来てもすぐに帰ってしまわれたし、私にあまり興味がないようだった。婚姻の時も少し不満そうな顔をしていた。誰か恋人とか愛されている側室でもいるのだろうか。そのような噂は聞いたことがないけれど。
婚姻を結んだ日の夜、宰相様が、寝室に参られた。部屋には一枚の布団しかなくて、私は共に過ごせることが、嬉しくて、楽しみで仕方がなかった。しかし宰相様は予想外の発言をした。
「うちの家臣がすみません。すぐに、新しい布団を用意させます」
「別に私は気にしませんよ」
それどころか嬉しい。そう私は心の中で叫んだ。憧れていますと伝えたかった。もちろんはしたないから言うわけは無かったが。
「政姫様、ありがとうございます。しかし、私が、共に寝るのはおこがましいですし、朝早いので迷惑でしょう」
私は、なんで宰相様は私を避けている様子なのかが気になった。恋人でもおられるのだろうか?だとしたら、いじめないから私も少しでいいから愛してほしい。受け入れるから。私も武家の女として育てられているからわかっている。なんで私を避けるの。初夜ぐらいいいじゃないのと思いたかった。幸せな結婚生活を思い描いていた私にとって現実を受け入れるのは厳しかった。
「今川宰相様、私は別に良いです。後、私のことは、政子と呼んでくださいませ。夫婦なのですから」
私は、宰相様と仲が良くなりたいし、夫に呼び捨てにしてもらいたかったのでそう頼んだ。兄上の頼みも受け入れていたし、まあしてくれるだろうと思った。
「それは無理です」
しかし、結果は断りだった。すごく辛かった。嫁げると聞いた時は嬉しかったのに。地獄に落とされた気分だ。
「兄上にはできるのに?」
「はい、政姫様に対してはご容赦を。私は、仕事があるので、失礼いたします」
そして、宰相様はどこかへ行ってしまった。私は泣きたいけれど我慢した。そんなの知られたらどうなるかわからない。これは政略結婚だから仕方がない。そう割り切る必要があった。振り向いていただく為には私がもっと魅力的になる必要があるみたいだ。頑張らなければ。
そうして、迎えた初夜で、宰相様は私を抱かずに何処かへ行かれた。ずっと私を将軍家の姫として扱っていたし、妻として見ているようには思えなかった。抱いてもらうどころか、同じ布団まで拒否された。私は悲しかったけれど、魅力的に映るために頑張ろうと決心した。
初夜の日、仕事をしてくると言われた後帰ってくることはなくて、寂しかった。私は宰相様が大好きで愛している。私も宰相様からそう愛されたい。まあ政略結婚だから仕方がないのは薄々わかっているけれど、もう少し親しくなって、今川家と足利家の間に綻びができないように頑張らなければ。私の使命は両家を繋げることなのだ。宰相様もそれはわかっているから無碍にはされないだろうし。




