1 依頼
クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「ヘンリエッタ狂想曲」より
18:00に皇帝ホテルのラウンジのカフェで依頼人に会う事になっている。
地下鉄を降りて足早にホテルに向かう。
車は先日のカーチェイスで大破し、免許も取り消しは免れたが停止中だ。
日本では探偵をする事に資格はいらないが、かわりに食べてゆくことが難しい。
何かあれば、すぐ警察沙汰になるし浮気調査した相手から訴えられる事もある。
では何故そんな事をしてるかって?
簡単に言うと戻れなくなったからだ。
世界の裏側を覗いてしまったら、日常には戻れない。
そして何故かそんな裏側を探索する需要がある。
需要があれば供給者も必要だろ?
だから俺は、こんな仕事をしている。
俺がホテルのラウンジに着く直前、依頼人から15分程遅れるとメールが入った。
今時メールと思うかもしれないが、SNSを覗いていたソウルにいた管理者が発狂し、大事件を起こしてしまう事があってからはメールにしている。
古風なメールならSNS程リアルタイムで覗けはしないからだ。
皇帝ホテルのラウンジに着き、俺は辺りを見回す。
この仕事は訳ありな事は当たり前だ。
いきなり銃で撃たれたり、致命的な攻撃を受けたりする事がある。
先日も同業者が頭のおかしくなった依頼人にダイナマイトで自爆され果てた。
今回それは杞憂だったが、問題はこのラウンジのコーヒーが一杯1400円もする事だ。
経費では落ちるかは微妙だろう。
「初めまして、あなたが八木さんですね。」
きっちり15分遅れて現れた依頼人は松本アネットと名乗った。
向こうもこちらを警戒していたのかも知れない。
渡された名刺には[アンドレア財団]とある。
もちろん会う前から調べてはいるが、こんな若い女性が現れるとは思っていなかった。
松本女史は持っていたヴァイオリンケースを隣の椅子に大切そうに置くと依頼内容を話始める。
俺は話を聞きながら[アンドレア財団]について調べた事を思い起こしていた。
[アンドレア財団]は400年以上の歴史を持つイタリア系の財団で、特にヴァイオリンの所有に重きを置いている。
アマティ、グァルネリ、ストラディバリウス、名器と呼ばれる楽器を数多く所有し、演奏家に審査の上、有料で貸し出している事で有名だ。
演奏家の審査は非公開だが厳格で知られ、貸し出しが許可される事は一流の演奏家であるステータスを示す。
そんな財団が日本の私立探偵に依頼とは、裏の匂いしかしない。
「これは[ヘンリエッタの寝床]です。」
松本女史が椅子の上有ったヴァイオリンケースをテーブルに載せ開けて見せる。
ケースの裏蓋には古い意匠の五芒星の様な印が見てとれ、ケース内には一挺のヴァイオリンが眠っていた。
「見ての通り、160万円位で買える安物です。一応手入れはされていて良く鳴りますけどね。」
「ちなみにヘンリエッタなら、オークションでも250万€スタートでしょう。」
俺には安物でも充分高価だ。
このホテルといい住む世界が違うと実感させられる依頼人。
「八木さん。ヘンリエッタの回収をお願い致します。期限は再来週の水曜日まで、それまでに回収出来なければ外交問題にもなり得るスキャンダルです。」
「勿論、極秘でお願いいたします。そう警察にも……。」
示された€での報酬が日本円で今、幾らなのか計算しながら、俺は契約書にサインをした。
「ヘンリエッタ狂想曲」はハウスシナリオです。
友人にシナリオネタの協力依頼をするにあたり、その一文だけ入れて欲しいと言われ、前書きに入れました。
私の黒歴史がまた1ページ。
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」




