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誘拐屋

以前書いていた小説を、最後まで書ききろうと思って再び投稿しました。

「もう…もう我慢出来ない…」

1人の少女が泣きながらスマートフォンに文字を入力する。

すると1つのホームページが表示された。そこにはこう書かれていた

{辛いと思っているそこの君、いつでも連絡してね。直ぐに誘拐に向かいます! 誘拐屋}

<誘拐屋>世の中には変わった誘拐もある…


ジリリリリリリリリリリ

けたたましい目覚まし時計の音で田野慧(たのけい)は目を覚ました。

上体を起こすと目の前には見慣れたショートヘアの少女が頬を膨らまして立っていた。

「何時まで寝てるんですか!もうお昼ですよ!」

「あー悪ぃ…もう少し寝かせて。」

珍しく反省の言葉を口にしたと思ったらこれか。時館唯智羽(ときだていちは)は心の中でそう言い呆れた。再び毛布をかぶり寝ようとしている恩人(一応)から毛布を剥ぎ取る。

「いい加減にして下さい!いくら昨日の"誘拐"に夜遅くまで時間かかったからって寝すぎですよ」

そう言われた慧はうぅーと変な呻き声を上げながら再び上体を起こすと、自分の目の前にいる唯智羽より奥に視線を向けた。

「彼女は起こさないのか?」

唯智羽の奥には1人の少女がソファベッドで眠っていた。

訊ねられた唯智羽はまた呆れながらも言葉を返す。

「当たり前です。ただでさえストレスが多い環境に置かれていたんです。SOSを出せただけでも立派でしょう……今日くらいは寝かせてあげませんか」

それもそうか、と慧は納得してベッドから立ち上がる。そして1LDKの部屋を見渡す。

「にしても、狭い部屋だな」

「仕方ないじゃないですか。なんだかんだでここがいちばんいい立地なんでしょう?」

「まあ、そうなんだけどな」

この辺りは住宅街。近くにはスーパーマーケットやホームセンターもある。だから立地が良い。

「それで、この子どうするんですか」

「やることはいつも通りだ。児相に送り届ける。話した感じ、怯えてるという気はしなかったし、質問にもはっきり答えれていたから大丈夫だ」

「いつ送るんですか?明日?」

「様子をみてだけれど早ければ今日の夜にでも送ろうか。明日でも問題は無いけど」

「わかった。そのつもりで準備しておきます」

慧がよろしくと言うと唯智羽は頷いた。

「腹減ったな。何か食べるか」

「そうしましょ」

2人は適当に昼食を食べ、唯智羽はパソコンに、慧はスマートフォンに顔を向けた。

「唯智羽、パソコンの方何かきてるか?」

「いや、何も」

2人は自分たちで(殆ど唯智羽が)作ったホームページを読んでいた。

そのホームページの最初には<誘拐屋>と書かれていた。

彼らがやっているのは誘拐屋。名前のとおり、子供を誘拐する仕事だ。しかし、ただの誘拐では無い。どのような人を誘拐しているか…それは後で明らかにしよう。

1時間近く、電子機器と睨め合いっこしていた2人が、他のところに視線を移したのは、ソファベッドから音が聞こえたからだ。

「あ、起きた?おはよ」

唯智羽が笑顔で話しかける。話しかけられた少女はビクッと反応して頭だけを下げた。

「こ…ここは……どこですか?」

「大丈夫、安全な場所だよ。君の親は絶対に分からない場所だから、安心して」

そう唯智羽が言うと本当に安心したのか、少女は泣き出した。

それをみた唯智羽の表情が一瞬曇るが、また笑顔をつくり、少女に優しく語りかけた。

「辛かったよね。怖かったよね。でももう大丈夫、よくSOSを出したね。偉いよ」

そう声をかけながら、唯智羽は少女を抱きしめた。

15分くらいの時間が過ぎ、少女はやっと落ちつきを取り戻した。そこですかさず、慧がオムライスを持ってきた。

いきなり目の前には現れたオムライスに少女はきょとんとしていたが、「助け出せたお祝い」

微笑みながらそう言う慧の顔をみて、少女はやっと理解したらしく、オムライスをパクパクと食べ始めた。

「……美味しい」

思わず少女はそう口にした。生まれて初めてこんなに美味しいものを食べたような顔だ。

「気に入ったみたいで良かったよ」

唯智羽も微笑みながらその様子を見守る。

少女がオムライスを食べ終えると、唯智羽は自己紹介をした。それに続いて慧も。最後に少女も自分の名前を言った。

「へぇー、唯衣(ユイ)ちゃんって言うんだ。可愛い名前。私の字も入ってる!」

一緒に居る時間は浅いが、自分と同じ漢字が使われていると、妙に親近感が湧く。

「年齢は?私15才」

「私も、同じ」

それを聞いて、唯智羽はまた親近感が湧いた。

「ほんとに!?すごいね私たちー」

「う、うん」

「ねぇ慧さん、聞いた?私たち同い年だって。すごいね!」

少し興奮した唯智羽がそう言いながら両手の拳を天井に突き上げた瞬間

「っ_」

唯衣が咄嗟に頭を手で覆う仕草をみせた。

それをみて慧は目で唯智羽に注意する。はっとした唯智羽はすぐに唯衣に謝った。

「ごめん。怖かったよね」

「い…いや、大丈夫」

雰囲気が少し沈んだ。

「唯衣ちゃん、無理に答えなくて良いんだけど、親にはどんな事されてたの?」

今それ聞かなくても、そんな表情を唯智羽は慧にみせたが、唯衣は慧の質問に答えた。

「殴られたり…蹴られたり」

「そっか、教えてくれてありがとう」

優しい声で慧は言った。



ここは誘拐屋。虐待を受けた少年少女達を誘拐する誘拐屋…。

読んでくださりありがとうございます。

感想、ブックマークなどあれば励みになります。また次回、よろしくお願いします。

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