道士とキョンシーちゃん
「こんのっ浮気者がァァァ! 」
「ガハッ!? …ちょっ、待て待てェ! 誤解--」
「何で私を生き返らせたんだゴルァ!! 」
「ギャアァァァァァ!!!! 」
“ポンコツ道士”と不名誉な呼ばれ方をされる俺は、そう馬鹿にする奴らを見返す為、生前は「美人だった」…らしい死体が眠る墓の前に来ると、師匠に教えられた術を唱え、死体を生き返らせた。
土を掘り上げ、起き上がった死体は、確かに“美人”だった。
「……ガキじゃなきゃな…」
「どゅわれが“ガキ”だってェェェ!? 」
「えっ? ちょっ…待て待てっ! つぅーかキョンシーって心の中覗ける能力でも持ってんのォ!? 」
「へぇー……。つまり千さんは…いっっつも、私の事を、そーやって見下してたんだァ? 」
「見下してないっ! 見下してないィィっ!! つか俺の質問に答えてないよねっ! 鈴ちゃん!? 」
「……質問…? 」
首を傾げ、頭上で「?」を浮かべる少女に、ホッと胸を撫で下ろす。キョンシーは、戦闘に於いては一級品だが、それ以外はポンコツで、特に頭脳に於いては問題が多いと聞いた事がある。
つまり、少しでも思考の世界へ追いやれば、此方の勝ちなのだ。
「ねえ、千さん」
「何? 」
「千さん、なんの質問したっけ? 」
「あん? …えーっと……キョンシーって、心の中を覗ける能力があるのかって………あっ! 」
サーっと血の気が引くのを感じる。バッと、鈴の方を見ると、怖い顔で此方を睨んでいた。
「りっ…、鈴ちゅあん…? 」
「千さんにイイ事教えてあげる。千さんがずっと心の中だと思ってるソレ…全部口に出てたよ」
「…まじでかっ!? 」
黄金の右腕を後ろへと引いた鈴は、その美人だと言われた所以だろう綺麗な笑みを浮かべると、「こんのっポンコツ道士がァァァっ! 」と言い様、後ろで待機していた黄金のソレを俺へ目掛け発射した。
殴り飛ばされた反動で宙を舞ってる時、師匠の教えをふと思い出す。
『呉々も、女性だけは生き返らせちゃ駄目ですよ。奥さんになってもらうなら別ですけど、軽い気持ちで生き返らせると……逆に、殺されちゃいますから』
なぁ、師匠。俺、あの時ちゃんと、アンタの話を聞いときゃよかったと後悔してるよ。だって、今ならその理由がわかるもん。
女を生き返らせたら--
「千さんはっ、私だけを見てればいいのよっ! 他の女と仲良くしている所を見ると……千さんもっ…その女もっ…殺してしまうかもしれないわっ…」
生物の理から外れた事による生き返らせの代償なのか、キョンシーは理性が欠落してる。その上で嫉妬深いときたから、少しでも他の女に目を向けた時点で、あの世逝きだ。
それを自覚してるらしい鈴は、確かに強い力で俺を殴り飛ばすも、本気では拳を振るってない。
俺に膝枕をして、此方を見下ろす少女の顔は今にも泣きそうで……だったらこんな事すんなやっ! と怒りたい気持ちも失せる…。
というのも、自分の見栄でコイツを無理矢理生き返られた俺が悪いのだから。
「千さんはっ…悪くないっ! 」
「…あり? 俺、また……」
「思った事、駄々漏れよ」
「っ……あっ…あのなっ……」
「生き返らなきゃ、私は現代を知らなかった。生き返らなきゃ、現代の料理や食べ物や、美味しかったモノなんて知らなかったっ。生き返らなきゃっ……千さんに出逢えなかったわっ! 」
「! ……」
「だからっ…そのっ…きゃっ!? 」
それ以上、少女に何か言わせてなるものかと、上体を起こして鈴を抱き締める。彼女の顔を己の胸に押し付け、その耳元へ「それ以上言ったら喰うぞ? 」と囁く。
すると、バッと顔を上げた鈴は、照れて紅い顔--ではなく、キョトンとしていた。
…あれ? 結構俺、恥ずかしい事言ったよね? つか、今良い雰囲気だったよね!? とパニクっていると、「千さんも血が主食なの? 」とこれまた素っ頓狂な問い掛けが。
其処で、キョンシーの特徴を思い出し、俺は溜息を吐いた。
「千さん? 」
「…一つ聞いときたい事あんだけどさ」
「なに? 」
「鈴ちゃんってそのぉ……子供の作り方とかって、知ってる? 」
「むっ…! まぁーたっ、私を馬鹿にするつもり…? 」
「違うっ! 違うゥゥゥっ! 馬鹿にするというかっ…確認というかっ…? 」
「なんの確認よ……はあっ…」
「ちょっ…、その溜息やめてっ! 地味に傷付くからァっ! 」
「変な事聞く千さんが悪いからでしょ? 」
「っっ…」
「………、知ってるわ…っ」
「………えっ…? 」
「赤ちゃんの作り方っ…! 」
「…まじでっ? 」
「…やっぱり、馬鹿にしてるのっ!? 」
「そーじゃねぇって! ……じゃあ、俺が“喰う”つぅ意味ぐらい解るだろ? 」
「はぁ? だから、人間の血ィ吸って--」
「赤ちゃんを作る行為で嫌がる女が結構いっから、その際に使われる比喩が“喰う”つぅーんだよっ!! 」
「!」
「だからっ、“男が狼”とかって言われんの。おめぇの時代にも、そーゆう年頃の娘になったら気を付けろ的な教訓、母ちゃんとかに教えられたろ? 」
「知らないわ……母さんは…私がちっちゃい頃に、病気で死んだから…」
「っ……わりぃっ…」
「? 何で千さんが謝るの? 」
「いやっ…だってほらっ…そのっ……」
「……ふふっ……私、千さんのそーゆう処が好きよ」
「っ……あぁーっ…だぁかぁらぁっ!! 」
「赤ちゃんは出来ないけど、意味のある行為なの? 」
「………へっ……? 」
「だって私、死んでるんだよ? 赤ちゃんなんて、出来るわけが無いわ…」
「………」
淡々と、感情の籠らない口調でそう語る鈴に、俺は抱き締める腕に力を入れた。
「……良いじゃねぇか、別に」
「っ…千さっ……! 」
「〇〇し放題とかっ、男にとってはロマン--」
「こんのっ変態がァァァっ! 」
「ぎゃあぁぁぁあぁぁっっ!!!! 」
本日二度目…しかも、続けて殴られた事により、気が遠くなる。その寸前、見えた鈴の顔は真っ赤で、可愛いなァ…と思ったと同時に、意識を手放した。
なぁ、鈴。女好きだし、甲斐性無しだし、金が入れば直ぐに酒やギャンブルに使うロクデナシな俺だけどさ、お前がもし、色んな男を見た上で俺を選ぶなら、俺はお前と一生を供にしたいと思ってる。
それは、生き返らせた事による責任とかじゃなくてっ…俺は、お前を「 」だから。
了
後書き
糖度高めを抑える為に、下品にしたのかなぁ… ( -᷄ω-᷅ ).。oஇ