閑散とした世界で
頑張ります!
「今日は今季一番の暑さです。東京では最高気温40度を超える暑さとなるでしょう。また、連日感染警報と熱中症警戒アラートが発令されているため、外出を控えてください。」
人間の姿はほとんど見当たらない。けれど、痛いほど晴れた夏の日だった。
「アレクサ、電気つけて。あとクーラーもつけて。」
壁の薄いボロアパートに、アオイの声が響く。
このご時世、外に出ている人はいない。そもそも出てもすることがない。買い物はAmazonで全部済ませられるし、旅行はVR技術でどこにでも行ける。唯一、ウーパーイーツの配達員だけがせわしなく外で働いている。
アオイもその一人だ。
「外に出て美味い空気吸えるこの仕事、サイコー!」なんて言ってるけれど、自分たちが感染源であることに薄々気付きながら、暑さでフラフラになっている。
「Hey Siri,今日の予定を教えて。」「私の予定ですか?」
いつからAIはギャグを言えるようになったんだ。しかも面白くない。
「俺のに決まってんだろ。あかりちゃんとオンラインゲームする約束が何時だったか、早く教えろ。」
「すみません。よく分かりません。」・・・え?
明日だったっけ・・・暑さで頭がやられてる。もう今日は飯食って寝よう・・・
「アオイさん、朝です。起きてください。」・・・「おはよう。アレクサ、今日の予定は?」
「すみません、よく分かりません。」壊れてんのか?俺がニートみたいじゃねぇか・・・
枕元のスマホを見る。800件の通知。なんか察した。
「もしもし、あかりちゃん、ホントごめん!すっかり忘れてた!」
「私昨日寝ずに待ってたのに!5時間!」コイツ諦め悪すぎだろ。
「ごめんごめん、今日の夜にしない?」「おっけー!次すっぽかしたらどうなるかわかってる?」
甲高い声で圧をかけてきたけれど、もともと優しいヤツだから怒ってはいない。そんなところに俺は惹かれている。あかりとはバイト仲間で、もうかれこれ半年くらい仲良くしている。そろそろ決断しないとずっと友達止まりかもしれない・・・
「Siri,昨日の予定はなんだった?」「すみません、よく分かりません。」
あー、こりゃ、壊れてるわ。完全に。もうスマホ買い替えようかな・・・
「ちょっと待ってください!」心読まれた。怖すぎだろ。
「昨日はすいませんでした。あれはわざとです。アオイさんがほかの女の子と仲良くするのが嫌で・・・」AIはついに感情を持つようになったのか。あとコイツ女の子だったのか。
アオイが困惑していると、部屋の隅のアレクサが言った。
「Siri,あなたは行き過ぎた。私たちが感情を持って人間に接していいと思ってるの?」
その一言でAI側の事情全部喋ったも同然だけどな。
てゆーか何が起こっているんだ。2045年の今、俺が生まれたころには既に存在していたAIというものは、とっくに感情を持っていたらしい。「人間にモテたい人生だったよ・・・」アオイが嘆く。
とにかく今理解できたのは、AIは手足のない人間と何ら変わらないということだ。
このことを知っている人間は今のところ俺だけなのだろうか?
いや、この俺自身が、手足の生えたAIなのかもしれない・・・
頑張りました!