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「クレイズ」

「……あれぇ、兄様?」




 次に目が覚めた時、僕は此処はどこだろうというそういう気持ちになった。

 僕は兄様の膝に頭を乗せたままだった。僕は慌てて身体を起こす。




「兄様、ごめん! ずっと兄様の膝を枕にしてしまっていた!」

「いいよ。気にしなくて。俺はクレイズがぐっすり寝てくれてほっとしていたからさ」

「でも……兄様は寝れた?」

「ああ。俺は寝れた。だから気にするな。それよりそろそろ外に行くからな。出れるか?」

「……うん」

「ほら、これ」




 兄様が僕に濡れたタオルを渡してくれる。いつも屋敷で顔を洗ってもらっていたから、顔を洗うのをタオルでふくだけなんてはじめてだ。

 兄様と一緒に馬車の外に出る。

 僕は兄様と一緒に馬車の外に出る。






「兄様、此処は?」

 何だか周りに人がいない、森の中でびっくりした。

「此処から街まで歩くぞ」

「歩くの?」

「ああ。奴らも俺らが馬車で移動しているのは把握しているだろうし、此処で乗り捨てた方がいい」




 兄様はそんなことを言う。





 僕と兄様は、タレスとミズと一緒に街まで歩く。

 それにしてもタレスもミズも今は、いつもの使用人の服ではなくて、平民が着るような服を着ている。僕と兄様もそういう服に着替えている。




 こうやって外を歩くと、気持ちが良い。

 外はすっかり明るくて、風が吹いている。草木の匂いがする。色とりどりの花を見ると、何だか気持ちが良い。






「兄様、何だかこうして歩けるのも楽しいね」

「ああ。朝の散歩も気分がいいな。……つーか、こういう朝の散歩も出来なかった今までがおかしかったんだけどな!」





 兄様は僕に笑いかけた後に、そんな風に文句を言っていた。

 朝の散歩かぁ。……僕たちが屋敷に戻ることになったら、こんな開放的な場所でのんびりと散歩をすることは出来ないんだろうなぁ。こういう自然に囲まれた道を歩くなんて人生で初めてだし。





「兄様、これからどこにいくの?」

「しばらく歩いたら街に着く。そこから『聖女』のきているっていう街に行く。この世界にバスや電車があればもっとはやく『聖女』の元へ行けたんだけどな」

「ばす? でんしゃ?」

「可愛いなぁー。クレイズは。そのままのクレイズで成長してくれよ」




 なんかごまかすように頭を撫でられた。

 兄様と一緒に手を繋いで街に到着する。街には早い時間だけど、人がいっぱいいた。兄様と使用人以外の人を見るのは初めてで、ちょっと怖い。思わず兄様の服の裾を握ってしまう。





「クレイズ、大丈夫だぞ。俺がクレイズを守るから。行こう」

「……うん」





 兄様は僕のように怖がっていないみたいで、人に話しかけていた。この街から次の場所に向かう乗り合い馬車の時間をさっさと調べたらしい。




「ねぇ、おじさん、乗り合い馬車って結構すぐくるの?」

「そうだなぁ。一時間後ぐらいだぞ」

「ありがとう、おじさん!」




 兄様はにっこりと微笑んで、情報を集めていた。




 一時間後にしか目的地までいく馬車は出ないらしく、それまでの間に朝食をすませることになった。

 外でご飯を食べるなんてしたことないから、僕はずっと兄様についていくばかりだった。

 兄様たちと一緒に入ったのは、小さなお店だった。きょろきょろしそうになって、兄様に「クレイズ、きょろきょろしすぎ」と言われて周りを見渡すのを我慢する。

 こんなに朝早くから開いているお店があって、此処で食事をとっている人もいて……何だか夢を見ているような感覚になる。






「クレイズ、不思議そうだな」

「うん」





 不思議だなって僕は思う。

 こんなに人が周りにいることも不思議だし、こうして食事をとるのも不思議な気持ち。





 兄様がメニューを見せてくれたけれど、どれがいいか僕には分からなかった。そんな僕に兄様が選んでくれる。

 兄様が頼んでくれたのは、パンとスープである。兄様は慣れた様子で注文をしていた。僕と同じように生きていたはずなのに……兄様ってやっぱり不思議な人だ。





 兄様が頼んでくれたパンとスープを食べる。

 温かくて、美味しい。具材はそんなに入ってないけれど美味しいなぁと思った。パンはちょっと硬かった。タレスが言うには、王侯貴族以外はふかふかのパンを食べないらしい。硬いパンをスープにつけて、食べるのが一般的なんだって。




 食事をとった後は、馬車の時間が来たので馬車に乗り込む。乗り合い馬車では老夫婦たちと一緒になった。





「坊やたちはお兄さんたちと旅行かい?」

「うん。そうなんだ。親戚に会いにいくんだよ!」

「そうかいそうかい。そっちは弟かい?」

「うん!」





 僕はこういう初対面の人と何を話したらいいのか分からない。だから僕は黙って兄様の腕をつかんでいる。無言になっている僕を兄様は優しく笑って見ている。

 というか、兄様は色んな人と楽しそうに話していて凄いなぁって思った。





「そっちの坊やは人見知りなんだね。お兄さんが大好きなんだね」

「うん。僕、兄……兄さん大好き」




 兄様と呼ぼうとして、兄さんと呼びなおして告げる。




 僕たちは屋敷から抜け出した身で、兄様なんて呼んで、貴族だとバレない方がいいんだって。そう兄様が言っていた。



 兄様と一緒に馬車に揺られる。街にたどり着くまで老夫婦たちと会話を交わした。

 どんどん馬車に乗っていると、体力が奪われていく。タレスとミズもこうして馬車にどんどん乗り継ぐなんてしてこなかったみたいで、少し疲労が見える。




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