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「ねぇ、兄様、これからどっちに向かうの?」
兄様は僕の言葉に、ポケットから何かを取り出す。それは紙である。それは地図みたい。兄様はちゃんと『聖女』様がどこにいて、どうしたら会いに行けるかっていうのを事前情報を集めているのだ。
兄様に歩きながら説明される。
「俺が何かあった時は、一人でも『聖女』の所に行くんだぞ」
「……兄様、そんな悲しいこと言わないで」
「そんな泣きそうな顔をするな。俺だってそういうつもりはなるべくないよ」
兄様はそう言って笑った。
なんだろう、その笑みを見ると安心するけれど兄様がいざって時には僕に一人で行けっていっているのが分かって僕は悲しくなった。
僕は兄様と一緒がいい。ううん、一緒じゃなきゃ嫌だ。
兄様が一緒にいてくれるからこそ僕はこうして外に出ているんだから。兄様がいなかったら僕は何も疑問に思わずにただあの屋敷から出ようなんて考えていなかっただろう。
「この地図をちゃんと覚えてほしいんだ。何かあった時のためにな」
「……うん」
「クレイズ、覚えられるか? 今はな、此処にいるんだ。俺たちは。スーディン公爵家の別邸で、放置された屋敷だ。幸いなことにこの場所から『聖女』の元はそこまで遠くない。まぁ、街は違うから馬車とかでの移動は必要だけど、急げば数日でつく。その程度ならどうにかできるって俺は思っている。だからさ、クレイズ、頑張ろうな」
「うん」
兄様の言葉に僕は頷く。
僕は兄様とタレスとミズと一緒に夜の道を歩く。何だか暗いし、何か出てきそうな気分になって怖くなる。
僕は兄様と手を繋いでいる。
怖さもあるけれど、兄様と手を繋いでいるとその怖さもなくなっていく。
兄様と一緒に馬車に乗り込む。
はやくこの街を出た方がいいんだって。この馬車は兄様がどうにかやりくりしてタレスたちの力を借りて準備したものらしい。やっぱり兄様は色んな事が凄い。僕は馬車というのを知識としては知っていたけれど、乗るのは初めてだった。
タレスが御者をつとめてくれて、僕と兄様とミズは馬車の中に乗る。
タレスが人が少ない道を選んでいるというのもあるだろうけれど、整備がそこまでされていない道だからか、結構揺れる。
僕はその揺れに驚いてしまう。
「兄様、結構揺れるね」
「ああ。俺も想像以上だ。俺が外で自由に出来るようになれたら、馬車を改良とかしたいなー。やっぱり知識チートとか、定番だし」
「改良? そんなのできるの?」
「んー。やろうと思えばできるんじゃねって思ってるよ」
やろうと思えばできるのではなんて軽く言う兄様。そういうことを簡単に言える兄様に僕は笑った。
僕と兄様がそうやって会話を交わしていると、ミズが優しい目で僕たちの事を見つめていた。
そうやって会話を交わしていたら、僕は眠たくなってきた。
「クレイズ、眠いなら寝ていいぞ」
「兄様はぁ?」
「俺も眠くなったら寝るさ。だからクレイズは安心して寝ろよ」
兄様は僕の身体を倒して、僕の頭を膝に乗せる。上を見れば兄様の水色の瞳が僕を優しく見ている。
その優しい目を見ながら、僕は眠りについた。
こうして揺れられる馬車で眠るのは初めてだったけれど、いつもなら眠る時間だから僕はすぐに眠ってしまったのだった。