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 それから僕と兄様は、『聖女』様の元へ向かうための準備を始めた。





 僕は兄様ほど器用に動けないので、兄様の手伝いをしながら屋敷から抜け出すための穴を遊びと称して少しずつあけたり、周りから『聖女』様の情報を集めたりする。

 僕は魔法の使い方が分からないから、兄様と一緒に『聖女』様の元へ向かうとしても足手まといになってしまうのではないかというそういう心配も沸いていた。




 だけど兄様は、「クレイズを此処に置いて俺だけで行くと人質に取られたり大変なことになるだろう。一緒に行く以外の選択肢はない」とそんな風に言われた。

 なんだか兄様と一緒に『聖女』様の元へ行くには、僕は力不足な気持ちになる。だけど兄様はそんなことは気にしなくていいとそういって笑ってくれる。





「ねぇ、兄様、『聖女』様って面白い名前をしているんだね」





 僕は周りから異世界より現れたという『聖女』様の名前を知った。その『聖女』様の名前は、ノザワフミという名前らしい。ノザワが家名で、フミが名前なんだとか。こういう名前って不思議な気持ちになる。






「『聖女』の世界では当たり前の名前だと思う。というか、やっぱり俺絶対『聖女』に会いたいな。『聖女』はこの世界にとっても影響力が強い存在だから、どうにかなるはずだ。それに話したいことも沢山あるし」

「兄様はまるで『聖女』様を知っているかのように話すね」

「……本人は知らないけれど、知っていると言えば知っているというか、なんか説明難しいなぁ」





 兄様は不思議なことを言っていた。



 兄様と『聖女』様の間には、何の繋がりもないだろうに、何かつながりを思わせるような発言だった。

 そんな兄様と一緒に僕は、『聖女』様の元へ行く準備を進めていく。

 とはいっても大体が兄様が進めていた。やっぱり兄様は凄いなって兄様と一緒に『聖女』様の元へ行く準備をしながら思った。





「兄様、これは?」

「それはだな……」




 僕は兄様に質問をしながら、少しずつ『聖女』様の元へ向かう準備が進んでいった。





 それにしても兄様は前々から何かあった時にためにずっと準備していたらしい。僕なんてのほほんと過ごしていただけなのに、兄様は僕たちが外に出るための準備をずっとしていたのだ。





 お金の準備もしていたらしい。僕は兄様やタレスたちからお金の情報は聞いたことはあるけれど、実際にお金を使って買い物というものをしたことはない。だけど兄様はお金を使ったこともないのにお金の使い方を知っているらしい。兄様ってどうしてそういうことを知っているんだろう。

 お金を使って買い物をするってどんな感じなんだろう。自分でお金を稼いでお金を使うってどんな感じなんだろうか。知識としては知っていても、実際には僕はそれを知らないからどういうものなんだろうかと不思議な気持ちになった。






「外に出れたら自分でお金も稼ぎたいよな。でもこの世界だと労働基準法どうなってんだろうなぁ。子供でも稼げるものがあったらいいけど」

「ろうどーきじゅんほう?」

「働くためのルールみたいなやつ。多分この世界はそんなにそれが決められてないと思う。まぁ、俺も外を知らないから分からないけど」




 兄様はそう言って笑う。




 働くためのルールかぁ。そんなこと考えた事もなかった。でもそういうルールがなければ働くってことも大変なのかもしれない。

 兄様はよく分かっていない僕を見ても、ただ笑っていた。








 そしてそうやって過ごしている間に、僕たちは『聖女』様の元へと行くことにした。



 準備は兄様と一緒に進めていただけれども、いざ、外に出るということを考えると僕はドキドキしてしまった。何だろう、僕は外を知らないから、外のことを考えると不思議な気持ちになる。




「ねぇ、兄様、『聖女』様の所、ちゃんと行けるのかな」

「行けるのかじゃなくて、行くんだよ。こういうのは気持ちの問題も大事だぞ、クレイズ。やるって決めて、とことんそれを突き止めた方がかっこいいだろー?」

「うん。かっこいい。兄様もかっこいい」

「ははっ、折角だから俺はかっこいい自分でいたいからな。少なくともクレイズにとってかっこいい俺でいること。それが俺の人生の目標だから」




 十分兄様はかっこいいのに、もっとかっこよくなろうとしている。やっぱり兄様は僕にとってキラキラしていて、とっても眩しい。





 兄様はタレスと侍女としてこの屋敷に仕えているミズを味方につけたらしい。他にも使用人たちはいるけれど、兄様が信用出来ると思ったのがこの二人なのだろう。それに何人も連れ歩くとすぐに僕たちの父親の手の者が追い付いてくるかもしれないって兄様は言ってた。




 兄様は難しい顔をしている。タレスやミズだってそう。




 僕たちが『聖女』様の元へと向かう道のりは、決して優しいものではないのかもしれない。それでも僕は兄様が一緒に行こうといってくれたから、外へと一歩踏み出すのだ。兄様がいるから、僕は外に出るのだ。





 他の人には隠していた穴から、兄様と一緒に屋敷の外に出る。外に出たのは、夜の暗い時間だ。いつもなら眠っている時間。





 兄様が子供は早く寝た方がいいっていってる。僕が中々寝付けない時は物語を読んでくれたり、一緒に沢山会話をしたり、子守歌を歌ってくれたりする。そういう時間が僕は好きなんだ。

 だからちょっと今も眠かったりする。

 穴から外に出ると、真っ暗でびっくりする。屋敷を囲う塀の外に出るのは初めてで、何だか現実味が湧かない。兄様と僕の見た目は目立つってタレスもミズも言っている。だから僕たちはフードを深くかぶっている。兄様が茶色で、僕は薄緑色の色違いのフード。なんだか兄様と色違いの服装で移動するのも冒険みたいでワクワクする。





 ああ、でも兄様は難しい顔をしているから、こんな風にワクワクした気持ちになるのは不謹慎なのかもしれない。





 空を見上げれば、青く輝く月が光っている。

 いつも屋敷の部屋の窓からしか見た事がなかったけれど、外から見ると少し違う感じに見える。



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