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「ほぅ」

「兄様、どうしたの?」



 ある日のことである。兄様が興味深そうに本を読んでいた。

 その本のタイトルは、『聖女』というただそれだけである。『聖女』様って聖なる女性? どういう人なんだろう。どういう立ち位置の人なのか、僕は知らない。




「ちょっと面白いことを知ったんだ。『聖女』についてなんだけど、これは興味深い。というか、俺、『聖女』がもしこの世界にやってくるなら会ってみたい」

「『聖女』様ってどういう人なの?」




 僕は『聖女』様と呼ばれる存在がどういう存在なのかいまいちぴんとこなかった。

 不思議そうな顔をしている僕に、兄様は面白そうに笑って言う。





「『聖女』について教えようか。ほら、隣座れよ。クレイズ」

「うん」




 僕は兄様の隣に座り込んで、兄様と一緒に本を覗き込む。




 そこには神官服のような藍色の服を身にまとっている、長髪の女性が描かれていて、何だかキラキラとしたマークが周りに描かれている。

 それだけ神秘的で特別ということを示している絵なのだろうと思えた。





「――『聖女』はこの世界にとって重要な存在である。それは何でかっていうと、この世界では時折魔が溢れかえる。所謂魔物が増殖する時期がくるってことだ。俺もクレイズも当然、魔物は見た事がないけれど、魔物ってのは恐ろしいんだって言われている。その魔物が増えると人々は命の危機に苛まれるから、『聖女』っていうのは重要だな」

「へぇ……。『聖女』様ってすごいんだね」

「そうだな。凄い存在だ。世の中にはこうやって凄い存在が沢山いるんだぞ。特にこの世界はファンタジー世界だから、一人の力で国を揺るがせたりも出来るからなぁ」

「そっかぁ……。でも兄様も凄いよ!」

「はは。俺より凄い存在なんて山ほどいるからな? でだ、『聖女』についての続きを説明するぞ」






 兄様は僕の言葉に笑いながら、続きを話してくれる。

 兄様は凄い存在が世の中には沢山いると、自分よりも凄い存在は沢山いると――そんなことを言うけれども、僕にとって、僕の世界の中で一番凄い人は兄様だ。






「『聖女』っていうのは、異世界からやってくることも多いらしい」

「異世界?」

「そう。こことは異なる世界。その世界からやってきた『聖女』はこの世界で大事にされ、幸せに過ごしているって言われてるけど、本当かなぁ……」

「兄様は本に書かれていることを疑っているの?」

「そりゃあ本当に幸せになっている人もいるだろうけれど、本に書かれているものが真実だとは言えないだろう。クレイズも気を付けるんだぞ。世の中には真実ではないことを本当だと言い張って広めるような連中だっているんだから。だから人から聞いた情報はまず疑ってかかった方がいい」

「それって兄様の言葉も?」

「そうだな。俺が本当だと思って言っている言葉も、実際は違う可能性もあるだろう? 人を信じることは良いことだけど、妄信的に信じることはしない方がいい」

「もうしんてきって?」

「ええっと、その人が絶対に正しいと思い込むことだ」





 僕は本に書かれているものは全て真実なように、そんな風に思っていた。だけれども、本に記載されていようとも本当ではないことなんて沢山あるらしい。





 兄様の言葉は僕に沢山の気づきを与えてくれて、兄様はやっぱり凄いなと僕はそればかり思ってしまう。

 兄様は兄様の言っている事も信じ切らない方がいいなんていうけれど、僕は兄様が大好きだから兄様の言うことなら信じてしまう気がする。





「話がずれたな。戻すぞ。それで『聖女』は異世界からやってくることも多いわけだが、丁度、今の時期に『聖女』がやってくる可能性が高い」

「え、そうなの?」

「ああ。周期的に『聖女』はこの世界にやってくるものらしい。もうすぐこの世界に『聖女』がやってくると思うんだ。……俺は『聖女』に会いたい」

「『聖女』様に会いたいの?」

「うん。『聖女』に会えたら俺たちの現状をどうにかする事も出来るだろうし」




 兄様はそう言いながら楽しそうに笑っている。

 なにか企んでいるような、だけど何だか楽しそうな笑み。そういう笑みを見ると、兄様だなぁって思う。




 兄様はこうやって企んでいる表情も楽しそうで、いつもそういう笑みを浮かべた時は何か凄いことをやるんだ。それにしても『聖女』様に会えたらこの状況をどうにかすることが出来るってどういう意味なのだろうか。




 僕には兄様が何をどんなふうに考えているかはさっぱり分からない。




 それに僕の世界は、兄様と使用人たち以外いないから、『聖女』様という外の世界の人の事を言われてもあまりその人が現実にいるという実感が湧かないというのもあるのかもしれない。

 それから僕は兄様に『聖女』様のことを沢山聞いた。



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