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「んー。五歳児だとまだまだ難しいな!」
「兄様、何でそんなに走っているの?」
「体力をつけるためだな! なにかあった時に俺はお兄ちゃんとしてクレイズを守りたいからな」
「じゃあ、僕も走る!」
僕と兄様は限られた場所だけを生きている。屋敷の外――あまり手入れのされていない庭はかろうじて僕たちが顔を出せる場所だ。この屋敷は大きな塀に囲まれていて、僕と兄様はその外に出た事はない。
庭を走り回る兄様について回って、僕も走り出す。
兄様は屋敷にばかりこもっているよりも走った方がいいと言って、よく走り込みをしている。思いっきり身体を動かすと楽しい気持ちになると兄様は言っていた。僕も兄様の真似をして走ることはたまにやっている。
兄様の言うように身体を思いっきり動かすと、料理もより一層美味しく感じられるし、ぐっすり眠れるのだ!
「兄様、走ると気持ち良いね」
「ああ。気持ち良い」
僕の言葉に兄様はにこにこと笑ってくれる。
兄様は体力も僕よりもあるけれど、それだけじゃなくて魔法も使えたりする。魔法を使えるのは、貴族ばかりらしい。僕たちは貴族の血を継いでいるから魔法と呼ばれるものも使うことが出来ると言う話だ。僕にも魔力はあるみたいだけど、僕は今の所、魔法を使うことが出来ない。
兄様はそれこそ赤ん坊のころからずっと魔力を練る訓練をしていたらしい。そうやって人目につかないようにずっと訓練をし続けて、兄様はそれだけの能力を手にすることが出来たらしい。兄様はやっぱり凄いよね。
「兄様、魔法を使う時ってどんな風な感覚がするの?」
「そうだなあ。なんか自分の中から何かが抜けていくようなそんな感覚はするぞ。あんまり使い過ぎると倒れるからその辺は気をつけた方がいいな。でも俺のやっていることって中々自己流だから……クレイズはちゃんと習った方がいいかもな」
「そうなの?」
「うん。俺、結構危険なこと、多分やっているから」
「……僕、兄様が危険なの嫌だよ?」
「大丈夫。俺はチートあるから。だから安心しろよ。絶対にクレイズを幸せに俺はするんだから」
兄様はいつだって自信満々である。
その自信に満ち溢れた瞳を見ると不思議な気持ちになる。僕と同じ、水色の瞳で、僕と兄様は双子だから当然そっくりなのだけど、何だかそういう表情は僕と兄様が別の人間なのだとよく分かる。
兄様が一緒に居てくれるから、僕はこの屋敷での暮らしも楽しいなぁと思う。
魔法という力に僕は興味があるけれど、兄様がちゃんと魔法は習った方がいいよって言うからその言葉に従おうと思う。
タレスたちにも聞いたけれども、確かに魔法という力は独学で学ぶには適していないものらしい。そもそも魔力があっても魔法が使えない人だっているんだって。
一人前に魔法を使えるだけでも将来色んなところで働けるらしい。だからこそ、兄様は天才なのだとそんな風にタレスは言っていた。兄様はそうやって魔法が使えることなども含めて、タレスや数人しか知らない。それも兄様が将来のことを考えてやっているらしい。
やっぱり兄様は凄いと思う。
――兄様は外の世界に出ても、その輝きを失わないだろう。僕は外の世界がどんなものかは全く知らないけれども、兄様は兄様として真っ直ぐに自信満々なままなんだろう。
兄様はこっそりと魔法を使う。
僕はその様子を時々覗き見をしている。あまりにも近くに行くのは、兄様が許してくれないので、ちょっと遠くから見ている。真剣な表情で魔法を使う兄様はかっこいいなぁって思う。
「兄様はやっぱりすごい!!」
「へへっ。クレイズにそう言われると俄然やる気が出るぜ」
兄様は凄いなぁって僕は何度も思う。兄様は同じ年だけど、よく僕の頭を撫でる。僕も時々兄様の頭を撫でることもある。兄様の髪ってふわふわのさらさらの金色の髪をなでると、僕も幸せな気持ちになる。
でも兄様は撫でられるよりも撫でる方が好きみたいでいつも僕の頭を撫でている。
「んー……どうした方がいいのかな」
「兄様、何か悩んでる?」
兄様はよく悩んでいる。
兄様は一人の時か、僕と二人の時ぐらいしかこうやって悩んでいる姿を見せなかったりする。兄様のこういう姿を見ると、僕はどんなふうにしたらいいだろうかって分からなくなる。
「これからのことを考えてただけだよ。でもクレイズは心配しなくていい。俺が絶対にどうにかするから」
「うん。でも兄様、僕に力になれることがあったら僕に言ってね。僕は兄様の力になれないかもしれないけれど、僕は兄様の力になりたいから」
「はは、クレイズはいい子だなぁ。色々目途が経ったら色々相談するから一緒に頑張ろうな?」
「うん!!」
僕は兄様の言葉に頷いて笑った。