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 その後は少し、ピリピリした雰囲気になっていた。



 ミズを置いて行ったことを、兄様は気にしている。タレスも「何かあったら私も時間を稼ぎます」なんて言ってた。

 僕たちを『聖女』様の元へ向かわせるために。




 不安もあるけれど、兄様が笑ってくれるから――僕は大丈夫だとそう思える。





 僕は兄様の言葉にいつも救われている。

 兄様と一緒に乗り継ぎをしながら、『聖女』様の元へと向かう。『聖女』様の元へ向かえば向かうほど、『聖女』様の噂が沢山耳に入ってくる。

 『聖女』様は素晴らしい人らしい。このあたりではあまり見ない黒髪黒目で、まだ若い女性らしい。





 会ったこともない『聖女』様に期待を寄せるのは、兄様が『聖女』様の事を特別視しているからだろうか。僕の敬愛する兄様は『聖女』様の元へたどり着ければどうにでもなると信じている。だから僕も『聖女』様に会ったこともないけれど、『聖女』様を信じている。






「クレイズ、外はどうだ? バタバタしているけれど、クレイズにとっても俺にとっても初めての外だろう。俺は、逃げているのはアレだけど、外にクレイズと一緒に来れたのは楽しいって思っているよ」

「うん。僕も。こうやってこっそりと見て回らなきゃなのは、ちょっとハラハラするけれど、こうして兄様と一緒に外に出れるのは嬉しいよ。一緒に飲み物を飲んだり、買い物をしたり、そういうのが出来るだけで僕は嬉しいもん」





 兄様と何かが出来るというのが、僕にとっては幸せだった。兄様と一緒ならば、きっとどんな場所だろうとも楽しくて、兄様の側だと僕は幸せなのだと思う。

 兄様と手を繋いで、一緒に『聖女』様の元へ向かうのは不安も多いけれど何だかんだ楽しさもある。

 だけど楽しい時間というのは、ずっと続いていくわけではない。




 その日、僕と兄様は大きな街へとたどり着き、宿に泊まっていた。結構な大移動をしている。僕はその大きな街にたどり着き、何だかもうすぐ『聖女』様の元にたどり着けるのだと考え、希望を抱いていた。

 だけど、夜中に兄様に起こされた。





「クレイズ!! 逃げるぞ」

「兄様……もう朝?」

「ううん、まだ朝じゃない。だけど、追手が来てる気がする!」

「えっ」





 夜中に目が覚めさせられたのは、追手が迫ってきているかららしい。僕は怖くなった。兄様から早めに移動したほうがいいと言われて、兄様と一緒に外に出る。タレスも一緒だった。

夜中に出ていく僕たちを見て、宿の人は驚いた顔をしていた。でもこういう宿は夜中に出ていく人もいるんだって。そこまで詳しい事情は聴かれることはなかった。厄介事だとは感づかれているようだった。

ドキドキしながら宿から出たわけだけど、これからどうなるのだろうかと不安が増してくる。





「クレイズ、そんなに怖がるな。兄ちゃんが絶対にクレイズの事を『聖女』の元まで連れていくんだから!」

「……うん」




 兄様は、こんな場面でも不敵に笑った。




 そんな兄様と一緒に、月明りの下を歩く。馬車はこの時間だとないので、徒歩での移動だ。明りに関しては兄様が準備していた明りをともす魔法具だ。

 この魔法具も兄様が準備していたものである。兄様は用意周到で、何も知らない子供のふりをしながら本当に幼いころからずっと準備をし続けていたのだ。そういう部分を実感すると、やっぱり兄様は凄いとそればかり考える。




 次の街へとたどり着くまでに数時間かかった。すっかり朝になる。後から聞いたけれど、兄様は先ほど泊った街で向かう場所を偽装するような対応もしていたらしい。寧ろ途中で力尽きたような感じにもしているんだとか。




「……ただアレなんだよなぁ。俺たちが『聖女』様の元へ向かうことが悟られてしまっていたら、待ち伏せぐらいはされているかもしれないけれど」

「『聖女』様のいる場所のすぐそばにああいう怖い人たちがいっぱいいるってこと?」

「ああ。流石に俺たちみたいな五歳の子供が『聖女』の元へ最低限の人数で向かおうとしているなんて考えるのは非現実的だ。そもそもかかわりのない『聖女』の元へ行くのも俺たちに関心がさしてない父親からしてみれば想像しないだろう。……と思っているけれど、どこかから洩れている可能性もあるかもしれないし……」




 僕はこのまま『聖女』様の元へ、捕まることなく向かえるのではないかと思っていたけれど兄様はそういう簡単なものではないと思っているみたい。

 兄様のいうことはあたるから、僕はちょっと不安に思う。




 その想像はあたって、途中でタレスも離脱することになった。僕と兄様を『聖女』様の元へ向かわせるために囮のようになってくれた。

 タレスは「無事に『聖女』様の元へたどり着いてください。アイルズ様が『聖女』様の元へたどり着ければ大丈夫と言ってますから、たどり着ければなんとかなるはずです」と言っていた。タレスは兄様のことは心配していないみたい。僕にばかり声をかけていた。




「おい、タレス、俺のことは心配しないのかよ」

「アイルズ様は殺しても死なないでしょう」



 兄様とタレスはそんな会話を交わしていた。それにしても兄様とタレスは仲が良いなぁ。いつも通りの会話をしてタレスとは別れた。




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