⑬30日後に告白される僕
30日後に告白される僕の話。
1日1話設定で、3日分をまとめてます。
「2年A組の向井翔平ってヤツはどいつだ、ゴルアァッ!」
その日。
クラスに変な奴が現れた。
ガチガチに固めたつっぱりリーゼント頭に紫色の特攻服。
金属バットを片手に
「テメエか⁉ おう? テメエか⁉」
と、目に付く男子に片っ端から声をかけている。
時刻は朝のホームルーム前。
先生が来るまで時間がある。
そのため、どこの誰だかわからないけど凄みがあって、柔道部の只野くんですら震えあがっていた。
「向井翔平ってえのはどいつだ!」
「こ、この人です……」
学級委員長が僕を指さして教える。
ええー……。
クラスメイト売りやがったよ、こいつ。
「テメエかッ! 向井翔平はッ!」
「は、はい……」
とりあえず殺されないことを祈って前に出た。
「テメエ、やってくれたなッ!」
「……はい?」
「昨日の夕方、駅前で迷子の童子拾っただろッ!」
言われて思い出す。
そういえば確かに拾った。
拾ったという言い方はアレだけど、駅前で泣いてたから交番に届けたんだった。
……あれ?
あれって、もしかして何かワケアリの子どもだったの?
警察に届けたらマズかった?
「拾っただろッ!」
何度も聞いて来るので「はい……」と恐る恐る答えた。
「姐さん! 当たりですぜ!」
するとリーゼント頭が廊下にいる誰かに声をかけた。
「そうかい」
そう言って現れたのは、やっぱり特攻服着た女の人だった。
……なに、この人たち。
「あんたが向井翔平? ふうん、パッとしないねえ」
ほっとけ。
「ま、とりあえず礼を言いに来たんだよ」
「礼?」
「あれ、あたいの弟でねえ。喧嘩して家飛び出したまま迷子になってたんだよ」
なんですと?
「交番を訪ねてみたら保護されててね。問い詰めると優しいお兄ちゃんが届けてくれたって言ってたんだ。で、いろいろ調べたらあんたに行き当たったというわけさ」
「そ、そうですか……」
「だから弟に代わって礼を言うよ、ありがとよ」
「は、はあ……」
特攻服の女の人はしばらく僕を見つめたあと、「じゃあね」と言いながら帰って行った。
え⁉ 終わり⁉
お礼を言うためだけに来たの⁉
いきなり現れていきなり去って行くその姿に、クラスの誰もが呆然と見送っていた。
……なんだったんだ。
~告白されるまであと29日~
◇
「2年A組の向井翔平ってヤツはどいつだ、ゴルアァッ!」
次の日も、リーゼント頭の特攻服男が教室に現れた。
っていうか、昨日会ったよね?
リーゼント頭は物覚えが悪いのか
「テメエか⁉ おう? テメエか⁉」
と、目に付く男子に片っ端から声をかけている。
「あ、あの……。向井翔平は僕です」
昨日が昨日だったので、自ら名乗り出た。
するとリーゼント頭が「おおん?」とメンチを切りながら僕の前にやってきた。
「テメェか! 向井翔平ってやつは!」
「は、はい。……ていうか、昨日も会いましたよね?」
リーゼント頭は僕の言葉など聞きもせず、またもや廊下に向かって声をかけた。
「姐さん! いやしたぜ!」
すると廊下からまたもや特攻服を着た女の人が現れた。
「そうかい」
ええー……。
この演出、2回目なんですけど……。
「翔平。昨日は驚かせて悪かったね」
特攻服女はそう言ってゆっくり近づいて来る。
よかった、この人は覚えててくれてた。
「今日はね、あんたに用があってきたんだよ」
「用?」
瞬時にまわりのクラスメイトたちが一気にざわつく。
「なになに? 向井くん、またなんかやらかしたの?」という声があちこちから聞こえてくる。
いやー、僕にもわからないんですけどー……。
そんな中、特攻服女は僕の前に立つと少し大きめの風呂敷包みを差し出してきた。
「これ受け取ってくれるかい?」
「……なんですか、これ?」
「あたい特製のお弁当さ。あんたのために作ってきたんだ」
「お、お弁当?」
「弟を交番に届けてくれた礼だよ」
迷子の子を届けたお礼にお弁当って……。
大丈夫? なんかヤバイものとか入ってない?
でもよく見ると、彼女の指にところどころ包帯が巻かれていてちょっと痛々しかった。
「ど、どうも……」
断れるわけもなく、僕は包帯まみれのその手からお弁当を受け取った。
特攻服女はまたしばらく僕をじっと見つめたあと、「じゃあね」と言って帰って行った。
瞬時に「だああぁ」とため息をつくクラスメイトたち。
息がつまるとはまさにこの事か。
あまりの展開に
「翔平、おま、あの女の人とどういう関係?」
とまで聞かれてしまった。
いや、ほんともう僕にも何がなんだかわからないです。
~告白されるまであと28日~
◇
「2年A組の向井翔平ってヤツはどいつだ、ゴルアァッ!」
仏の顔も三度までと言うけれど、これは怒ったほうがいいのだろうか。
リーゼント頭は今日もまた
「テメエか⁉ おう? テメエか⁉」
と、目に付く男子に片っ端から声をかけている。
「向井翔平は僕です」
クラスメイトも「またか」という顔で僕に顔を向けていたので、自ら名乗り出た。
「テメェか! 向井翔平ってやつは!」
「はい。……今日はなんですか?」
リーゼント頭は僕の言葉など聞きもせず、またもや廊下に向かって声をかけた。
「姐さん! いやしたぜ!」
「そうかい」
そう言って特攻服女が颯爽と現れる。
もはやネタとしか思えない。
「翔平、24時間ぶりだね」
「そ、そうですね」
「あたいの作ったお弁当、どうだった?」
「へ? お弁当?」
「美味しかったかい?」
「お、美味しかったです……」
まさかそれを聞きに来たのだろうか。
でも美味しかったと言うのはウソではない。
この人の作ったお弁当、どの具材も味がしみ込んでいて最高だった。
「そうかい」
そう言って口元に笑みを浮かべる特攻服女。
う、うわぁ……。なんか背後にどす黒いオーラを感じる。ちょっと怖い……。
「ちなみにどれが一番美味しかったんだい?」
「え? どれ?」
「感想を聞かせておくれよ」
「感想って言われても……」
しどろもどろしていると、リーゼント頭が金属バットを振り回して叫んだ。
「姐さんが聞いてんだろうがゴルァッ! 早く答えんかいいぃッ!」
「ひいぃ!」
もうなんなの、この人たち。
「ぶち殺すぞ、ワレッ!」
「弥吉!」
「へい! 姐さん」
「あんたはすっこんでな」
「す、すいやせん……」
そう言ってすごすごと引き下がるリーゼント頭。
はわわ、こんなに狂暴そうな男をたった一言で黙らせるなんて……。
恐ろしい。
「で? どれが一番美味しかったんだい?」
「え、えーと……だ、だし巻き玉子が……」
「ああッ!」
「ひい⁉」
「だし巻き玉子は自信作だったんだよ!」
さ、さいですか……。
「他には?」
「えーと……タコさんウィンナーとか……」
「うんうん!」
「あときんぴらごぼうとか……」
「うんうん!」
「唐揚げとか……」
「うんうん!」
「………」
「………」
「………」
「……他には?」
まだ聞くんかい。
「え、えーと……あとほうれん草バターとか……」
「うんうん!」
「アスパラガスのベーコン巻きとか……」
「うんうん!」
「………」
「………」
ヤバい、それ以上思い出せない。
あとはプチトマトとかレタスとか生野菜ばかりだったし。
「い、以上でよろしいでしょうか?」
苦し紛れにそう言うと特攻服女は満足したらしく親指を立てて頷いた。
「それでこそ作った甲斐があったってもんだよ!」
「そ、そうですか」
よかった……。
ホッとしてると、また新たな弁当箱が目の前にドン! と置かれた。
「それで今日の分も作ってきたんだ。食べとくれ」
「ええーーーー……」
思わず引いてしまった。
マジでなんなの?
~告白されるまであと27日~




