第六話 成長と決意へ ーBlazerー
【堺浜市住宅街の公園】
小野瀬に殺されそうになって、今度こそ終わりかと思った時に。
この辺り周辺の公園を守る空手のヒーロー「神崎千歌」さんに救われて、一難去ったと安心したが、直ぐに僕は人質にされヤンキーの1人にナイフで刺されそうになった時に、また新たな竹刀を持った救世主が現れ、一瞬で小野瀬の手下ヤンキー20人を瞬殺し成敗してしまい、「片村 薫」の剣捌きに驚かされ。そこに最後に現れたのが「宮阪」さんだった。
小野瀬が最後に残され、宮阪さんが片村くんにとどめを刺す様言われ、片村くんは竹刀を構えていた。
「ちょっ・・ちょっと待ってくれよ!お宅ら!?」
小野瀬があまりにも強過ぎる彼等に腰を抜け、なんとか回避しようと怯えていた。
「お、俺はそこにいる石倉と話し合いをしていただけだぜ?な、殴るのもただのジャレ合いみたいに遊んでたんだよ、」
全く、お得意の嘘をそうベラベラと、
宮阪さんが、一通りの事は既に把握している為そんな嘘は通じなかった。
「おう、童。いい加減くたばれ。」
片村くんが小野瀬の眉間に竹刀を当て技を決めようとしていた。
「わ・・わかったよ。じゃ、じゃあせめてケジメだけ付けさせてくれよ、アンタらには敵わないじゃなくて、元々は俺と石倉の喧嘩だがら、石倉とタイマンで勝負させてくれ!?」
「あーん?」
僕が、小野瀬とタイマンだって・・・?
片村くんは竹刀を自身の肩に乗せて、宮阪さんにどうしたものかと顔をしていた。
内心少し、ホッとした小野瀬だが現状は変わっていない。
宮阪さんは少し考え込み、しばらく間が空いた。
まあそんな案は通らないだろうと僕は思ったから、起き上がり直ぐ近くのベンチに座ろうとした・・・
「いいでしょう。ただしこれは一対一の対決なのでどちらかが参った言う勝負では無く、確実に手を抜かずに本気で勝負して下さい。」
な、なんで?宮阪さん?
小野瀬もまさかの宮阪さんの回答に驚き、調子に乗ってしまったのかいきなり強気になり、また追加で要求してきた。
「まじかよ!はは!じゃ、じゃあよ!もし俺が勝ったら、てか勝ちはきまってんだが、そん時は俺の女なれよ!なあ!」
また何を言い出すかと思いきや、まだそんな事考えてたのか、そんな要求さすがに宮阪さんは答える訳が・・・
「かしこまりました。貴方が勝ちましたら、私を好きにして下さい。」
嘘だろ?
「ちょっ・・ちょっと宮阪さん!本気で言っているのですか!?これじゃぁ小野瀬の思うままじゃないですか!?」
宮阪さんは僕の意見を無視して再び小野瀬に喋った。
「そして、貴方が勝ちましたら追加でそこに居る神崎さん片村くんも一緒に、煮るなり刺すなり殴るなり好きにしてもいいでしょう。」
「あ?マジ?いいのかよ。後で仕返しとかないやろな?」
「大丈夫です。これは男と男の一対一の対決。元はと言えば貴方達の喧嘩です。その間に勝手に入った私達が邪魔をしてしまった事実。これでどうですか?」
小野瀬はニヤリとし煙草に火を付け、
「眼鏡の姉ちゃん。話が分かっていて嬉しいぜ。そうだな、さすがに俺もそこまで鬼じゃないから、そこに居る二人が目の前で土下座する事に決めたぜ。せいぜい謝罪文考えとくんだな!」
小野瀬は笑いながら、振り返り準備運動をしだし、宮阪さんも腕を組んだまま仁王立ちしていた。
「宮阪さん!!どうしてそんな要求をしたんですか!?これじゃ・・」
「そうです。これで石倉くんが絶対に勝たなくてはならない勝負になりました。私は石倉くんの強さを信じています。」
どうして、そこまで僕の事を信じているんだ。
!? 宮阪さんの目は本当に僕が勝つと信頼している眼差しをしている・・・
「無理だよ、だっ・第一僕は生まれて一度も殴り合いの喧嘩や対決なんかもした事もないし、力や腕力も、それにせっかく助けてくれた二人にも悪いよ・・」
僕は近くに待機している、助けてくれた神崎さん片村くんを一応見たが、絶対に勝てよと物凄い威圧感のあるプレッシャービームを浴びさせられた。
「どうして、そんなにも僕がこの勝負に勝つと信じているのですか?」
宮阪さんは腕を下ろし、僕の肩に右手を置き、
「貴方は選ばれし仲間の一人だからです。私の目には狂いはありません。私達は堅い契約と絆に結ばれている異世界救世部です。最後まで石倉くんが勝つと信じています。」
宮阪さん・・・
まずい、どう考えてもこれは確実に100%過ぎる程、小野瀬とタイマンする事になっている。宮阪さんは僕が必ず勝つと信じてるし、神崎さんや片村くんも何故か凄いガン飛ばしながら絶対勝てと眼差しが凄いし、対する小野瀬も、もうやる気満々で待ち迎えている。
「最悪な悪夢だ・・・」
【堺浜市住宅街公園 時刻夕方18時】
夕焼けの茜色の空も闇に変わりつつあり、時刻は18時を越えていた。
気温も寒くなり、冷たい風が吹いて小野瀬に煙草で根性焼きされた傷口に触れて少しジンジンとして痛かった。
「よぉ。石倉。覚悟は決めたか?そろそろ始めようぜ?」
どうしてそんなにもお前は喧嘩をしたいんだ、どうしてそんなにも人を痛めたり苦しめたりするのが楽しいんだ?同じ人間とは思えないよ、ヤンキーも、戦う人達は。
「僕、やっぱり無理だよ・・勝てないよ・・絶対に。」
宮阪さんが、右手を上げタイマンの開戦を開けようとしていた。
気づけば、神崎さん片村くん達にやられた筈のヤンキー20人達も起き上がり外野で小野瀬を応援していたり、公園内は祭りの様に盛り上がっていたが。
「やかましいわ!!アホンダラ共が!また回し蹴り喰らわすで?ウチはこの公園を守ってるんやからいつでも蹴れるんやでな!黙って観ときや!!」
神崎さんの怒鳴りで外野のヤンキー達は急に黙り込み、騒ぎは収まった。
「まあまあ、空手の姉ちゃんよ。そう怒んなよ。今から俺が石倉を倒したら立場変わり、この公園も俺らのもんになるんや。姉ちゃんこそ首長くして観とけよ。」
「それと石倉。お前遺言とかいいのか?マジ殺しちゃうかも知れんからよ、後で病院で寝ている高文にちゃんと伝えておくからさ。笑」
小野瀬め、やっぱりお前だけは絶対に許せない、
「宮阪さん、勝てるかどうかわかりませんが。頑張ります。」
僕は、助けてくれた宮阪さん達の事やそして夕哉を貶す事にとても怒りを覚え、先手必勝で小野瀬に真っ向に立ち向かい体当たりをした。
「なんだよ、結構いいアタックして、こねぇなー!」
ドゴォー!!
小野瀬に体当たりは効かず、逆に僕が小野瀬のパンチ一発喰らわされた。
ポタ・・・ポタ・。
痛い、物凄く左頬が腫れ上がるほど、今まで味わったことのない激痛が走っていた。
「どうした!まだ始まった所だぜ?もうちょい楽しませろや!!」
ガン!ガン!ガン!
続いて、頭突きを数回され
次第に頭部から血が流れてきたのがわかった時は、
自分は今、本当に何やっているのか改めて思った。
考えてみたら、僕が殴り合いの喧嘩するなんてありえない話さ。今まで部屋で勉強か読書かゲームしかやっていない、運動部も入らないスポーツもかじらない人間が喧嘩で勝とうとするなんて何処の漫画の主人公だ?
そもそも対する小野瀬は小学校から喧嘩や柔道もしていて、かなりの腕っ節を持っているヤンキーだ。強いて言えば小野瀬に勝つとしたら、英検か漢検かなら余裕で勝てるが、これは不利すぎる戦いだ。
見てみなよ、僕が殴る一発なんて全然パンチの形にもなっていないじゃんか。蹴るにしても両足は怖くて震えてダメだし、そうこう考えていたら身体全身が小野瀬の殴る蹴るの連発にくらい悲鳴を浴びている。
ガキン!!
また小野瀬の強いパンチにガードはしたもののパンチの力と威力に負けて神崎さん達がいる方へ吹き飛ばされた。
「く・・・痛つ・・」
小野瀬はゆっくりとニヤけながら僕の方へ向かっていた。
「勝てない、無理だよ、やっぱり・・」
諦めかけた瞬間だった。
「負けんなや。アンタそれで終わるんか?あんなん側から観てたら大したことないでアイツ。」
神崎さんは空手をしているから、そうは見えても対する僕は、小野瀬は鬼の様に強いんだよ・・・
「石倉〜、次そろそろ骨折っていい?笑」
じわじわと小野瀬のサイコパスに脅威を感じてきたが、神崎さんが小声で僕にアドバイスをくれた。
(ええか。とりあえず勝とうと思わずな、相手の動きをよう見るんや。わかるか?まず相手の動きさえ見切れば必ず隙は出て、反撃のチャンスはあるさかい。大丈夫や、アンタの弱いパンチでも反撃喰らわしたらKO出来るで、よう見や)
そんな事言ったって、見るのも一苦労なのに、
(それと、人間誰しも弱点はある。アンタも痛がっている体の位置を感じよう考えてみ?すぐにわかるさかい。ほらきたで。)
気づけば小野瀬はすぐ後ろまで来ていて、僕の背中のブレザーを掴もうとしたが間一髪で回避して体勢を整えた。
(とにかく、相手の動きをよく見て隙を突くか。できるかな・・・うわ!きた!?)
「オラァー!」
ガシ!シュッ!ザッ!ザッ!
確か神崎さんが言うには、相手の動きを見るにはまず相手の肩や胸付近の周囲を見ると次来る攻撃が分かると言っていたな、
シュッ!シュッ!
(本当だ、よく分かる!凄いや!相手の動きを見ることでこんなにも攻撃が交わせるなんて、)
次第に小野瀬は殴る蹴るを交わす僕について行くのにスタミナ切れてきて、
「はぁ、はぁ、なんだよ石倉、急に動きがよくなりやがって、調子に乗るなや!!」
ドガァー!
くそ、また腹を蹴られ・・・。
そうか!神崎さんが言っていた、人間誰しも弱点はあるって言葉わかったぞ!今僕が一番痛がっている部位を見てるとほとんどが身体の中止付近だ。
確かにその通りだ、例えどんなに喧嘩や運動が強くても人間にはどうしても鍛えられない耐えられなれない所がある、それが
眉間
鼻
口
喉
溝
股だ!
全て僕の痛がっている所ほとんどじゃないか!そこを小野瀬にも喰らわせばきっと勝てるかもしれない!!
シュッ!
「くそ!また避けやがって!?」
ドガ!
小野瀬が左にパンチを放った瞬間を避け、遂に反撃のチャンスの隙を見つけ、渾身の力を込めた僕の右のパンチを小野瀬の腹に食らわした。
「ぐあ!?・・・」
結果は思った以上に最高な出来の良いパンチが決まり
小野瀬は体勢を崩し、両手で腹を抑えながら苦しんでいた。
うまく・・いった・・。
「石倉ごときに、パンチを喰らうとは・・・」
「ほら、チャンス続いてるで!行ったれや!!」
神崎さんがチャンスがあると叫び、僕は小野瀬に殴る蹴るを攻撃しに行った。
「うおぉぉぉぉぉ!」
「舐めんじゃねぇー!」
ガッキンーーー!?
ドサ・・・。
小野瀬の強いパンチを両手で瞬間に受けてガードした後、威力で耐えきれず吹っ飛ばされそうになったが自然に踏ん張っていた両足が力が入り、
視界では小野瀬がまだ左手が腹に抑えているの隙を見つけ、僕は反撃のチャンスを狙い小野瀬のパンチした右腕を受け流し一回転と身体を回り、左拳を握りニ拳の拳の甲で振り狙い、綺麗に小野瀬の頭部の、こめかみにクリーンヒットし。
小野瀬が遂に倒れ、ダウンをした。
「・・・か・・勝った・・・」
周りにいた小野瀬のヤンキー20人も驚き、唖然としており、僕も信じられない光景と達成感を感じた。
パチ、パチパチパチ。
そんな静まり返った空気の中、一人だけ歓迎する拍手をする人が居て、宮阪さんが叩いていた。
「信じていました、石倉くん」
「宮阪さん!」
【神崎 片村】
「へー、最後は裏拳で決めたか。やるな。」
「おい、空手女。なんであん時、石倉に助言したんだ?」
「あん?なんや、それ?言わへんかったらアンタもウチもあのヤンキー達に土下座せなあかんかったんやで?いややろ?あとウチは神崎や覚えてや。」
「・・・、もし助言無かったら勝ったと思うか?」
「どやろな石倉、助言しなくてもしても、どっちにしろ勝ったと思うけどな、なんか石倉の戦っている姿見てると、だんだん強なる印象を受けたんよ。やっぱ闘争心の綺麗な目持ってるわ、」
「ふーん。まあ勝てたのは、嬉しいがこりゃあの石倉と言う奴は、とんでもない侍になりそうだな。」
【石倉】
は!そうだ、神崎さんにもお礼を言いに行かなきゃ。神崎さんの助言がなかったら負けていたし、
ゴン!
「痛て!」
神崎さんにお礼を向かったが到着後直ぐに神崎さんに頭をゲンコツ喰らわされた。
「アホ!なんで石倉、喧嘩もした事の無いのに裏拳なんか知ってんねん。下手したら死んでたであの小野瀬。」
神崎さんが言う「裏拳」とは、
空手や拳法、武術に格闘技で使われる打ち技の一種らしく、普通のパンチで真っ直ぐに打つ技が正拳と言い、裏拳はゲンコツで固めた手や指の部分ではなく、手の甲で打つ技。
真っ直ぐな打つ正拳より威力は若干劣るが、例えば背後から襲いかかる敵に反撃する、不意を振りまわし相手に突く、バックハンドブローとも言われてて、その威力は相手の顔面や頭部に狙いを定めて打つと額の骨にヒビや骨折までしたり、脳内でも軽い脳浸透を起こせたりし、気絶したりする言わば、危険な殺人技だそうだ。
「じゃ・・じゃぁ、小野瀬が気絶しているのも脳内に浸透とかして・・・」
「やろな、でも骨は大丈夫と思うで、でも当分頭痛ひどいやろな。」
無意識に自分で戦闘中に習得した技の威力に驚き、小野瀬に謝りに行こうとしたが、神崎さんが笑い出し
「なんで、あやまんねん笑笑」
と大爆笑していた。
確かに小野瀬は嫌いだが、突然倒れた姿や苦しんでいる姿見てると、大丈夫かと心配はするが、よくよく考えたら今まで僕にしてきたイジメや暴力を思えば良い気味だ、それに夕哉の分もいっぱい殴ったし。
なんだか、
喧嘩に勝った後の空気は気持ちよく最高な気分だった。
気づけば、小野瀬に付いていたヤンキー20人も公園内から逃げて行って、倒れた小野瀬を放ったらかしにして、ちょっと本当に可哀想だと思った。
片村くんは、僕が戦っている姿と喧嘩の勝利を見て、僕への印象が変わったらしく、前まで呼んでいた「雑魚助」が言わなくなり普通に名字の
「見直したぜ朝倉」
と「逆だ」とツッコンだが、彼はそのツッコミの「逆だ」が「ギャグか?」と聞こえたらしく、再び片村くんからの竹刀で追われる羽目になった。
宮阪さんはブランコに乗って僕達の様子を見ていて、一瞬だけ笑っている素顔を見えたが、次の瞬きでいつもの無表情な顔になっていた。
後で宮阪さんに呼ばれて、また彼女のスクールバックから何か黒いビニール袋を渡されて、黒いビニール袋から出てきた物は僕の着ている同じ新品のブレザーやカッターシャツが入っていた。
「これ、どうしたんですか?」
宮阪さんはスクールバックを持ち、帰る準備をしながら
「一応、こうなる事を想定して石倉くんのサイズに合う、ブレザーとカッターシャツを下ろして来てました。ここまで想定内です。」
「は、はあ。(最初から喧嘩させる気だったのか?)」
「それに、そんな血だらけのボロボロの格好じゃ親御さんも心配なさるでしょう。大丈夫ですお金はいりません。」
なんか全て宮阪さんの思い通りな感じだな。
新しい制服ブレザーに着替える前に、神崎さんから大量に絆創膏と包帯を貰い、小野瀬にやられた傷口や傷を応急手当てをして着替えた。
「そうだ、宮阪さん。僕・・・。」
僕は心の中で一つ決心した事を、この場にいる宮阪さん神崎さん片村くんに言おうとしたが、
「その前に、石倉くん。今は行かなきゃいけない所があるのではありませんか?」
え?
「その言葉の先の内容は明日の放課後、旧多目的教室でお聞きします。まずは今日あった出来事を色々な思いを報告に行ってきてゆっくりと休んでください。」
宮阪さんはそう言い、この公園内を出ていき暗い路地へと消えて行った。
片村くんも、「腹減ったから帰る」と言い道ではなくすぐ隣の民家の屋根に飛び上がり、屋根へ屋根へと飛びながら帰って行った。
神崎さんは、小野瀬やヤンキー達が汚した吸い殻や空き缶などの片付けをしてから帰ると言い、取り残された小野瀬もゴミ箱に捨てて置くと言っていて、それは素晴らしい事だと反応して、最後に挨拶もして先に僕は公園内を出て、行かなきゃいけない場所へと向かった。
【堺浜駅】
「あれ?宗茂先生?何してるんですか?」
堺浜駅のタクシー乗り場にタクシーの前で缶コーヒーを飲んでいる宗茂先生がいた。
「おー、石倉ぁ。?お前どした?その顔。」
宗茂先生が、小野瀬と喧嘩した傷顔を見て驚いていて、なんとかバレずに階段で転んだと嘘をつき、謹慎にならない様誤魔化したが、「あーあー、やっぱ喧嘩したのね。」とバレてしまい、怒られると思ったが宗茂先生は何も言わずにまた缶コーヒーを飲み、眠たそうな顔した。
「先生、怒らないんですか?」
「はぁ〜?なんでぇ?喧嘩はするでしょう、若いから、良いんじゃない。」
つくづく、こんな先生は見た事もない・・・
「おい、石倉ぁ。今から電車じゃ遠回りになるだろ?」
先生が、駅に入る僕を止めて、一緒にタクシーに乗らないかと誘ってきたが、何処に向かうのか知ってるのかな?
「行くんだろ?病院。高文ん所。乗せてやるよ(タクシーだが。)」
先生、どうして僕が病院に行くってわかったんだ?
【上田本町総合病院】
上田本町総合病院に着き、帰りも自宅までタクシーで送ってくれる事を言って宗茂先生はタクシーで待っていた。
僕は病院内に入り、夜間お見舞い受け付けコーナーを済ませてエレベーターで病棟6階に上がり、夕哉が寝ている病室に入った。
ピッ・・ピッ・・ピッ・・
夕哉が寝ている病室は薄暗い部屋の中、枕元にある小さな明るいライトと人工呼吸機の音が鳴り、無音と寂しい空気になっていた。
ピッ・・ピッ・・
窓側には、夕哉が所属しているサッカー部のメンバーからの応援色紙やクラスメイトからの応援メッセージにエールを沢山書いたサッカーボールも飾ってあった。
その隣に、今日駅前スーパーで買った「果物セット」を置き、僕は夕哉の隣に座り少し数分間、沈黙が続いた。
「夕哉・・・。何やってんだよ、
お前が、一緒に堺浜行こうって誘ったから
堺浜高校に一緒に入ったんじゃないか・・・
言ってたよね、一緒に登校したり勉強したり
帰宅したり青春して、良い高校生活にしよなって・・
何、先に寄り道なんかしてんだよ・・・
夕哉、サッカー選手になるんだろ?
いつまで・・・寝てんだよ・・
目を覚ませよ・・・。
(5分くらい経つ)
僕さ・・この堺浜高校に来てから、
夕哉が知らない間に色々な体験と出会いがあったんだ。
知ってるのかな。堺浜高校にはさ。
色々な部活動があって、ほとんど運動部で、
入学後、いずれかの部活動に入らなきゃいけない時は
夕哉を恨んだけど、
中にも、運動部ではない、おかしな部活動があってさ、
なんか、その部活動は・・・本当は誰にも言っちゃいけないみたいなんだけど、
異世界に行って、世界を救うクラブなんだってさ、ハハ!笑うだろ?
当初はなんだそれは?って呆れたし、その日出会ったはちゃめちゃな人達やイカレタ世界にまで行かされて、マジ、ふざけるのも大概にしろと思って出て行ったよ。
でもさ、本当は内心嬉しかったんだ。
今まで、僕は運動もしなくて、とにかく勉強か読書かゲームしかした事なくて、スリルが無い人生だった。
でも、生まれて初めて誰かが僕を必要としていて、そんなにも僕の事を信頼されている仲間に出会えて、そしてそんな異世界が本当にあるんだ!って本当は嬉しかったんだ。
このクラブならなんか僕に向いてそうで楽しそうだなと思ったんだけど、現実はそうはいかない・・
知ってるだろ?
僕の家は、行方不明の父の多額の借金を背を合わせられて、今住んでいる団地に引っ越して来た事や、家族事情も、
生活費もギリギリで学費も未払いがあって苦しい生活。
母は毎日、夜遅く仕事やバイトで疲れながら借金を返したりして、休みのない毎年に
健だって中学を入学してからほとんど行かなくて、夜の街を遊びに行ったり喧嘩や悪い事ばかりする日々、
そんな状況の中、僕は本当に高校に進学をしていいのかや勉強や青春なんかしてていいのか?と思ったよ。
本当は、進学しないで就職を考えたけど、夕哉や色々考えて堺浜高校に進学した。
だから部活動も入りたいけど、現実は現実だから入らない事に決めていたんだ。
でも、、あ!この顔どうしたって?笑
驚くよ、なんとあの小野瀬と喧嘩して、しかも勝ったんだよ!
(しばらく、小野瀬の喧嘩や色々な話をした。)
まあ、そんな事があってさ、僕は改めて決めたんだ。
【上田本町病院 駐車場】
病院を出て、宗茂先生が乗っているタクシーを見つけタクシーに乗ったが、宗茂先生は爆睡に寝ていて運転手のおじさんが困っていた。
「すみません、1時間も待たせてしまって、上田町の団地2丁目までお願いします。」
夕哉と話して1時間も待たせてしまい、時刻は夜の22時になっていた。
(あー、きっとお母さん、怒ってるだろうな、ご飯は作ってもらってると思うけど、健は今日も遅いのかな?)
自宅団地前に到着し、宗茂先生は爆睡から起き、また明日も来いよと言ってタクシーで帰って行ったが、後々タクシー内に設置してある多額の料金メーターを見て悲鳴が聞こえた。
痛てて、まだ殴られた傷が痛むな。早く帰って休もう。
自宅に着き、玄関のドアは開いていて、まだ母さんが居る事を認識して入った。
「ただい・・ま。」
母さんは、台所の机の上で僕の帰りを待ち疲れて寝ていて、テーブルには冷めたカレーライスがラップして置いてあった。
「母さん、風邪ひくよ。」
母さんは、疲れていたのか起きる事もなくずっと寝ていて、仕方なく着ていたブレザーをかけて、冷めたカレーライスをレンジで温めて食べ、食器を洗い。母さんを起こして寝室まで一緒に歩き寝かせた。
お風呂からあがり、喧嘩で傷した所をもう一度手当てをし部屋で少し寛ぎ、借金明細書を見ながら考えた。
「母さん。僕、できるかどうか分からないけど、やってみるよ。だから・・・もう少しだけ、この家を任せていいかな?・・僕・・。」
翌日、僕はいつも通り朝から朝飯を作り、僕と弟の健の分の弁当も作り、ゴミ捨ても済まし堺浜高校へと向かった。
変わらない高校の日常を過ごして、
普段喋らなかったクラスメイト達とも話したり
苦手な体育の授業もまあまあな成績をアップしたり
前までじゃありえない自分に変わっている事に気づいた。
やっぱ、そうだったんだよ。
僕は彼女や皆に出会ってから凄い成長してる事に気付いたんだ。
だからさ、夕哉。母さん。
僕は、できるかどうか分からないけど。
やってみるよ。いや、
全てまとめと終わらして救うから。
【放課後 宮阪さん達が待つ旧多目的教室】
教室には宮阪さん、神崎さん、片村くん、宗茂先生が居た。
「僕、異世界救世部に入ります!」
【第七話 正式入部編に続く】
体験入部編 ークリアー