第五話 悲惨 ーHospitalー
僕が初めて、宮阪莉央さんと会って。
最初から本当に謎が多い人と、時にはとんでもない架空の様な話をしたり。
ある時は学校一の会長の上と知ったり、一体あなたは何者ですか?と予測不能な印象でしたが。
まさかそんな予測不能な彼女が今日は泣いていたなんて。
「宮阪さん・・大丈夫ですか・・?」
「・・・・。(サッ、眼鏡を掛ける)いえ、失礼しました。大丈夫です。少し目にゴミが入り、目を洗っていました。」
(いや、なんちゅう単純な嘘・・)
僕も彼女の座る1番飛び込み台の横の2番飛び込み台に座り、数分沈黙が続いた。
「・・・・あの。宮坂さん授業出なくてもいいのですか?」
「大丈夫です。私は生徒理事長ですので、授業は出なくても自由に出られる権利を持っています。石倉くんこそ、出なくて大丈夫ですか?無断欠席は成績に響きますよ。」
なんて抜群力のある言葉と、生徒理事長の力だ・・・。理事長はまさに王様だ・・。
宮坂さんが言うには「生徒理事長」とは、勉学の能力はもちろんスポーツの運動神経も万能で大きな実績と功績を貢献している人が「理事長」になれるそうだ。
簡単に言えば、全ての能力がMAXでこの堺浜高校のため何か支えていなければいけないこと。
「そうなんですね。僕も中学の頃、副生徒会長していましたが。なかなか大変ですよね。僕も将来弁護士か会計士になりたくて、生徒会長になろうと思っているのです。」
「無理でしょう。」
無理?なんでそう簡単に??
「確かに、石倉くんの成績は中学校の頃の成績表見てかなりの実績。IQは200はあるでしょう。しかし、運動能力の方では、0は愚か0.0001くらい低いですね。そして家庭での多額の借金に、地元は貧困で貧しいアパート団地集落。とても勉強も満足にできない環境で、よくここまで頭脳は実りましたが石倉くんの夢見る未来は掴めず野たれ死ぬでしょう。諦めた方がいいです。」
「なっ・・・なんだよ!!いきなり!!どうしてそんなことが分かるんだ!何も知らない君が家の事情の敷地に入らないでくれよ!なれるさ!堺浜を卒業して大学も入って、弁護士の資格も取って母さん達を幸せにするさ!!」
「いえ。無理です。石倉くんも気づいているはず。借金総額残り2800万、堺浜高校と弟さんの通う中学校の教育費。そして少しずつ削れていく食費と生活費。返済を続けれたとしても、返済金はほんのわずかの金額。もしここで石倉くんが進学すると、かかってくる大学の多額な学費。借金は増え続ける一方です。もしくは進学せずに就職して勉強もありますが、先に話したとおり満足できない環境と運動神経がない体力で、働きながら勉強できますか?私が思うに確実に無理で、野たれ死ぬ姿が私には目に見えます。違いますか?」
悔しいが、宮阪さんの言っている事は全て正論で何一つ間違っている事は言っていない。
だけど、だけどそれはあくまでも他人から見た客観。
「それでも・・それでも、僕が今ここで諦めたら・・」
「ですから、私は石倉くんを新しい異世界救世部の救世主として選び、魂の契約をしたのです。石倉君がこの異世界救世部には絶対にいなければならない存在で、石倉君がいなければ異世界シュナーブワルは救えません。」
「でも、例え僕が加入したとはいえ。皆んなの役に立つかどうか、それに母さんや弟も心配だし。」
「大丈夫です。実は昨日、石倉君が帰った後、残った皆様に説明しましたが、異世界と現実世界では時間と日付は違うのです。異世界救世部での活動時間は夕方の17時。もし、異世界で一日を過ごすとなるとこちらでは1時間位の感覚です。更に日に日に異世界の依頼をクリアをすると、それなりの報酬を貰え1カ月で100万ゴールド約100万円は稼げたり現実世界で持ち帰ると現金として代わり貯金されます。そしてこの戦いが終わる暁には、素敵な人生を死ぬまで保証される大望な報酬を獲得でき、石倉君の家の借金も返済できるでしょう。」
「そんなにも稼げるの?」
「はい。ですがリスクはあります。もし石倉君が途中で諦めたり、昨日みたく帰ることがあれば、その行為は契約違反としてみなされ、自動的に石倉家の借金2800万が100万増やされて行きます。昨日の様に。」
「!?」
昨日の・・・様に・・・。
「何日か前に石倉君が襲われている所を私が助け、その時点で私は石倉君を選ばれし者として見ていたので契約金として異世界救世部の口座から100万円を下ろし、ばら撒きました。」
「ちょっと待ってよ!なんで宮阪さんが家の口座や借金が知ってるんだよ?」
「ですから、これが契約なのです。この異世界救世部では入部後、命に関わる仕事なので。もちろん生きるか死ぬのREALWAR。他の皆様も同様にそれぞれに理由がある契約を結びました。皆様もそれがマイナスになるのは嫌で、昨日共に闘う事を約束してくれました。」
「でも、その異世界シュナーブワルって言う所が現実だとしても戦争なんでしょ?僕等みたいな未成年の十代が本当に世界を救えるか・・・」
「救えます。現にこの異世界を救った最初の救世主、石倉尚士さんあなたの父がそうだった様に、石倉くんにも尚士さんと同じ血が流れているはずです。」
と・・・父さん・・だって・・・。
まさかここで父の名前をフルネームに久々に聞けるとは思わなかった。
石倉尚士
昭和53年生まれ(1979年)5月9日。
出身地は静岡県伊豆市に生まれ、地元の高校を卒業後、警備会社に就職し。
母の桜と友達の合コンで出会いまもなく結婚をし子供も2人授り、僕が5才の4月10日の誕生日に突如行方不明になった。
「なんで・・父さんのこと知ってるんだ・・」
宮阪さんはそこで話を切り上げ、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと!?待ってよ!ちゃんと最後まで聞かせてください!!」
「その先の真実が聞きたければ、異世界救世部に入る条件です。聞きますか?」
「そ、そんな。」
なんとしてでも僕を入部させたいんだな、どうしてそんな嘘をついてまで僕を必要とするんだ・・・。
いやむしろ、父さんの名前までも家の借金や口座まで知ってるなんて。一体、宮阪さんは何者なんだ・・・。
その時、一人の男性が慌ててプール内に入って来た。
「いた!!石倉ぁ!?大変だ!」
「宗茂先生?」
いつも、眠そうに頭かきながら授業もやる気がない気怠いスタイルの宗茂先生だったが、今日は珍しく遠い教室から猛ダッシュして来たような勢いと血相巻いて現れた。
「とにかく、はぁ、落ち着いて聞いてくれ、はぁ」
「・・・・・?」
「さっき、職員室で電話があってな。明日の朝に大阪に向け早く帰ったサッカー部の一人、高文夕哉が帰宅途中、トラックの事故に巻き込まれ意識不明の重大らしい。」
ユ・・ユウヤが・・。
【上田本町総合病院】
僕は、突然過ぎる出来事に言葉を失い気づけば宗茂先生と一緒にタクシーに乗って上田本町総合病院に向かっていた。
「まあ、石倉ぁ。あまり深く考えんなよ。あいつの事だきっと元気にイビキかきながら寝てるさ。笑、俺も眠いが。」
僕もそう信じたいさもちろん。
でも、なんだろこの胸の中のモヤモヤとした嫌な胸騒ぎ。
タクシー内で一人窓の外の景色を眺め、宗茂先生の話も車内に流れているラジオの音も聞こえず無音の中に僕は思考停止していた。
まもなく、目的地の上田本町総合病院に着き。
僕と宗茂先生は急いでユウヤが寝ている病室に向かった。
そうさいつもみたく、くだらないジョーダン言いながら笑って待っているさ。
もしかしたら、寝ているのが嫌で病室を抜け出して、僕らが向かう途中にそこの角で会うかも。
逆に、僕からギャグとジョーダンを言って病室に入り笑かそうかな?ダメだ僕はギャグセンスもないからきついや。
だからさ、いつもみたいに笑って元気なうるさい声を聞かせてよ、・・・ユウヤ・・・。
ユウヤは意識不明のまま酸素マスクをして無数の点滴をつけられてずっと眠っていた。
その姿を見た瞬間、足の両膝を床に崩れ落ち。
全てが終わったと勝手に判断してしまった。
「あ。朝太くん。」
【宗茂先生】
俺と石倉ぁが高文夕哉の病室に辿り着き、中に入ると電話で言っていた通りの意識不明の重体な姿を目にした。
すぐさま、石倉ぁは全てを悟ったのか。先のタクシー内での様子からかなり精神的に来てたから、これで完全にノックアウトしたかもなぁ・・くそ・・かわいそうに。
病室では、高文の家族は居なくベッドの横で座っていた高校生くらいの女の子がいて、泣き崩れた石倉ぁを支え椅子に座らしていた。
彼女の名は、浜川藍と言い、隣町に通う大山崎高校の石倉ぁ達と同じ同年で、小中学校と同じクラスメイトで。
高文夕哉の彼女らしい。
浜川さんが言うには、目撃者が見た事故現場は。
高文は事故当時。
自宅前の道沿いを自転車で帰宅途中に、一匹の子猫が車を通る道路の真ん中に怪我をして倒れてたそうだ。
すぐに気付いた高文は自転車からおり、今にもひかれそうだった怪我をした子猫を救いに行き、周りにいた目撃者達も高文を呼び止めたが既に遅く、高文は子猫を抱えて歩道へ向かう途中、猛スピードで飛ばして来た大型トラックに激突し数十メートルに吹き飛ばされ、家の塀に強く背中と頭に衝撃を浴びて意識不明になったそうだ。
助けた怪我をした子猫は、高文が激突する瞬間前に歩道へ投げ。無事命は取り止めたが、高文は被害者になってしまった。
猛スピードで運転していたトラックのドライバーも、高文達に気づかず、どうやら仕事が遅れ慌てて走っていた時にこの事故が発生したらしい。
当然ドライバーは警察に捕まり、彼も散々だろうが、本当に大変な事になってしまった。
しばらくすると、高文の家族両親が病室に帰って来て、担当医からの説明を受けて来たようだ。
とにかく今は石倉ぁを此処に居ない方がいいかもな。
「藍ちゃん。悪りぃちょっと石倉ぁと一緒に待合室行ってくれる?」
「はい。」
とりあえず、俺は高文の担任ではないが石倉ぁのかわりに高文の容態と説明を聞いとくか。
【待合室】
気づけば僕はユウヤの彼女、浜川さんと待合室に居た。
「どうして・・こんな事に・・・」
「朝太くん・・」
僕は何も無い緑の床をずっと見つめて、とにかく今は自分の精神をコントロールしようとした。
そうさ、まだユウヤが完全に死んだわけではない。
ただ大きな手術が終わり麻酔で寝ているだけで、今頃ユウヤは夢の中でフィールドを駆け、大好きなサッカーをしているに違いない。
全く、早とちりだな僕は。よしもう一度ユウヤの顔を観に行くか。
「高文。脳に衝撃が強すぎて意識不明だそうだ。」
え?宗茂・・・先生?
「先の手術にもかなり手を焼いたらしく、また明日も脳に再手術を始めるらしい。」
再手術・・・、
「もしその手術が成功しなかった場合、今の意識不明のままの高文がベッドに帰ってきて、一生植物と言われたらしい。」
嘘でしょ・・・先生・・・。
「まぁだがそれは最悪なケースだが、幸い助かるケースもある、それはここの。いや、国内ではなくアメリカで緊急手術をしてもらい、きっと成功もし回復も順調に行き助かるだそうだ」
「じゃ・・じゃぁ、アメリカで・・」
「だが問題が、手術代に医療費がバカでかい金額になるそうなんだ。約4000万近く掛かるらしい。」
4・・4000万!?
「そんな、先生、お金なんて今は関係ないよ、今は一刻も早くユウヤの回復と助かる道が最優先だろ!!」
「だから落ち着けって、とりあえず明日は高文は再手術するが、問題はもう一つ、アメリカの病室も今は予約でいっぱいで診てくれないらしいんだ。」
なんだよ、それ・・
「そして、医療費だけで4000万、プラス向こうでの高い治療費に総額合わせて1億は覚悟で出さなければいけないそうだ。今の高文家の貯金じゃとても出せない金額だ。」
「簡単に言えば、1億が無ければ手術はしてくれない。と言う事ですか。?」
「あぁ、そうらしい。」
「らしいじゃないよ!?なんでそんなにも掛かるんだ!!僕らの実家や住宅地見てわかるだろ!?
何処にそんな金があるんだよ!?なんでそこの病院じゃなきゃいけないんだ!!」
僕は宗茂先生の着ている茶色いスーツの襟を掴み泣き嘆き怒鳴り続けた。
その後、僕と宗茂先生は病院を出て
宗茂先生のおごりで自宅までタクシーで送ってもらい
一人部屋の中で何も考えず、布団の中に潜った。
それから1週間近くは経っただろうか。
時刻は深夜の0時になろうとしていた。
ユウヤの事故から学校も行かなくなってしまった僕は、もう何も考えず無の自分になってしまっていた。
とっくにユウヤの再手術も終わって、宗茂先生からメッセージアプリで手術は成功したが、話通りの植物人間になり今は上田本町病院でずっと人工呼吸器をしながら寝ているそうだ。
やはり今の現状から助かるには、アメリカでの大きな費用の手術とかなりの医療がかかるみたいだ。
なら募金でも始めようか?
総額1億4000万なんて、何年、何十年かかるんだろう。
そんなん待っている間にユウヤの身体は元に戻れなくなってしまう。
それに、募金と言っても。自分の家の借金2900万もあるのに、もう、何もかも地獄だよ。
(ガチャ・・バタン。)
自宅のアパートの玄関から、物音がし。
弟の健が帰って来たのが分かった。
「あれ?ニート兄貴。まだ寝てんの?」
無視しとくか。
「ユウヤ君の事でショックなのはわかるけど、家も大変なんだからさー、いい加減に前を向けよな。」
と言いながら、冷蔵庫に入ってるおそらく缶ビールを持ち出し、再び外の夜の世界へと遊びに行く健だった。
そうかもな、とりあえず今は最悪なケースは免れこうしてユウヤは寝たきりだが、生きている。
今僕がここで深く考えたってユウヤが明日にはサッカーを蹴りながら走って治る訳がない。
今は苦しいが、とにかく今やるべき事を集中し前を向こう。きっとまた明日良い事があるに違いない。
毎日、自宅へ宿題持ってくる宗茂先生にも悪いし、明日からまた堺浜高校に行く事に決めた。
【堺浜高校】
久しぶりの登下校にいつもと変わらない朝で久しぶりに太陽の日の下に出たが、やはりユウヤは居なく。
何度後ろを振り向いても慌てて自転車を漕いで来るユウヤの姿は無かった。
学校内でも、宗茂先生が相変わらず「日本史」の授業をあくびをしながらやる気が無く、気怠そうな感じだった。
お昼休みも教室でお弁当を食べ、1週間勉強の遅れた学科の資料を見直したりして、気づけば5限目に始まる予鈴が鳴り、授業の準備をし普通の日常生活に戻った。
のか?
いや戻っていない、ユウヤは今も病院の病室で酸素マスクをして目覚めない深く眠っている。
結局、僕は勉強だけの何もユウヤの為に出来ないのか・・・。
「おい、石倉ぁ。」
5限目の授業中、教室の後のドアから宗茂先生が入って来て、授業の途中なのに職員室に来るよう呼ばれた。
「先生。なんですか?急に、」
「うーむ。やっぱ屋上にするわ、誰かに聞かれたくねぇし。」
【堺浜高校西門側校舎の屋上】
宗茂先生に屋上に連れてかれ、きっとユウヤの事での話だろうと思った。
宗茂先生は屋上の柵に行きベンチに座り、茶色いスーツのポケットからチーズバーガーを取り出して食べ始めた。
「あ、悪い。昼今からなんだ。食うか?」
「いや、大丈夫です。」
宗茂先生はチーズバーガーを食べ缶コーヒーも飲みながら本題を話した。
「石倉ぁ、宮阪の話、乗ってみないか?」
宮阪さん?あ、あの話か。
「確かに内容もヘビーで普通に考えてみたら、ありえない話だし。そんな世界が本当にあんのか、そんなに儲かるのか信じられない部活動だ。」
「・・・先生は、異世界救世部に本気で入部するんですか?」
宗茂先生は食べたチーズバーガーの包み紙を丸めて近くのゴミ箱に向けて投げたが、惜しいこともなく綺麗に外れた。
「まあ、俺も宮阪に契約を結ばれてるし。彼女に選ばれた者だから、一度断ると大層のでかい役がきちまう。だからこそ俺は今回の誘いに全て賭け、今までの人生を挽回しようと思って、異世界救世部に入部を決めた。」
大層のでかい・・・先生も借金とかあるのかな?
「この包み紙だって、絶対入る念を入れてのこの結果だけど。俺は異世界での世界では何か役に立てたりこれは天機じゃないかと薄々感じてるんだ。」
先生、本気で入部するつもりなんだ。
「石倉ぁ。人生色々あるけどよ。たまには頭柔らかくして、大きな決断して歩む道を信じて動いた方がスッキリするぜ。じゃ、そろそろ行くわ。」
宗茂先生、また授業しないでサボってたのかも。
【堺浜高校正門前】
時刻は夕方の17時。
一日の学校行事が終わり、校門前を出ようとしていた。
今日の夕飯は母が作る日でゆっくり帰宅しても良かったんだけど、どうしてもユウヤの顔を人目見たく病院にお見舞いをしてから帰ろうとしていた。
ユウヤが入院している上田本町総合病院は、僕の地元にある大きな病院で、堺浜駅から上田駅まで電車で行きそれからバスに乗り、10分そこらで着く。
「今から行って、50分くらいかかるかな。それで団地まで15分だから18時半前に家か。よし、行こう。」
堺浜高校を出て、堺浜駅に向けて徒歩で行った。
「そうだ、なんか果物でも買って行こうかな、寝たままだけど、殺風景な病室を栄養な飾りを置かなきゃな。」
スーパーに果物詰め合わせセット860円で売っていたから、近くの堺浜駅前スーパーに行く事にした。
果物詰め合わせセットを買い、スーパーの駐車場を歩いて、
そんなまさかのだった。
「よぉ、よぉ。これはまた、約束を破った石倉さんが来たぜ。」
小野瀬が不良の仲間数人と屯をし僕を呼びつけ、囲まれてしまった。
「石倉よ。お前ぇは健と違ってシャベェ野郎だなぁ。」
また無理矢理肩を組まれ、身動きが取れなくなってしまった。
「なあ、時間あんだろ?帰宅部やし。ちょっとそこの公園で遊ぼうぜ?なあ!」
小野瀬に肩を組まれながら、左腹に溝を殴られ、無理矢理に近くの彼等のたまり場であろう公園に連れてかれた。
今日の公園内は、やけにヤンキーの数が多く小野瀬を入れて計20人近くは公園で屯をしていた。
説明しなくても、彼等が通う高校は地元一の「ヤンキー校」で内川田工業高校、通称「内川田高校」。平気で煙草を吸っては、酒も樽のように飲酒し、改造オートバイで通学する、今じゃあまり見なくなってしまった昭和ヤンキースタイルが多い学校だ。
当然、他校との喧嘩や揉め事は毎日あり、進学校の堺浜高校までナンパやトラブルを持ち込んで来る気狂いな集団だ。
そんな高校に行くのは、目の前にいる小野瀬みたいなヤンキーや喧嘩屋や狂った奴しか入らない。
「石倉よ。なんで約束破ったん?」
約束?
「しらばっくれんなよ、女だよ!女!!」
何か小野瀬と約束したかな?・・・
「眼鏡女だよ!なんで連れてこんと1週間もバックれてんだよ、なあ!!」
は!そうだ、確か小野瀬に1週間前にこの公園で宮阪さんを連れて紹介しろと言われてたんだ・・・
「あ、そっ・・そうだったね、忘れてたよ。ごめ・・」
「はい死刑。友達の約束を破るなんて最低です。はい。」
「いや、別に僕は小野瀬とそんな約束なんか、あの時だって返事しなかったし、」
小野瀬は飲んでいたビール瓶を地面に叩き割り、キレた顔で僕に怒鳴った。
「え?何何何?石倉のカスの分際が俺に文句言ってんの?ねーねー!!」
ボフ!!
小野瀬がまた僕の腹に向け今度はおもいっきりに殴られた。
「くっ・・・!?」
「てかお前ぇ、なんで果物セット買ってんだよ?誰か死んだんか?あ!そっかぁ。お前ぇの唯一の友達のトラックにひかれた高文に届けるもんか〜え?何?アイツまだ生きてんの??」
くっ・・こいつ・・
「いい加減死ねよな、あんな奴この世界に居てもなんも役に立たないぜ。俺より弱えくせにずっと威張りやがって。」
弱えのは、お前の方だろ・・・
「あ?なんか言ったか?」
僕は再び起き上がり、小野瀬に向けて怒鳴った。
「お前の方こそ雑魚で、この世界で何も価値が無い糞野郎じゃないか!!ユウヤに一度も喧嘩に勝てたことのないクズがお前こそ威張ってんじゃねーーよ!?」
その場にいた、内川田高校のヤンキー20人目の前の小野瀬も、口を開き怒鳴った僕を見て啞然としていた。だが。
「おい、石倉押さえろ、ガチで殺すは。」
小野瀬の命令で僕の背後にいたヤンキー2人が僕を押さえつけ捕まってしまった。
「とりあえず、全殺しにボコしてプラス最後堺浜の川に流すか。」
小野瀬は拳をシャドーボクシングをしながら準備運動を始め、着ていた学ランも脱ぎ今にも殴りに来る態勢になっていた。
「あーあー、かわいそうだよ、石倉。ちゃんと命令通り女連れて来てたら、本当の友達になれたのに。」
ジュゥゥー・・・
「熱っ!?」
小野瀬が僕の手の甲に、吸っていた煙草の火を押しつけ根性焼きをされた。
「いつもは、こう言うピンチの時は高文が助けに来てたよなー。だが、今はどうだ?アイツは今ベッドで寝たきりでいつ死ねかわかんねーんだろ?ちょっと早いがお前が先に逝って高文の奴を首長く待ってろや。行くぞコラァー!!」
完全に死んだと悟った。
まさかこんな形で人生の幕が下りるなんて、思わなかったな。
その時、小野瀬の背後に居たヤンキーの一人が小野瀬を呼び止め何やら騒いでる事を伝いに来た。
「タカちゃんタカちゃん、ちょっ待てよ。」
「あんだよ、ええとこでよー?」
小野瀬が背後に振り向いた視線のその先は、信じられない景色を目にして、僕も後に気づいた。
「え?・・・あの人は・・・」
「おい、・・なんで俺の子分達が・・」
小野瀬のヤンキー約12人くらいが公園内の広場に倒れ、ある人物を標的に戦っている姿を見た。
「タカちゃん、逃げ・・(ドガァ!)ぐは!?」
「なっ・・何もんなんだ・・あの女は・・」
小野瀬も戦う謎の背の高い女性を目にし、何が起きてるかわからない状況だった。
でも、僕はすぐにわかった。
髪型は長い三つ編みの金髪に、服装は道着ではなく今日は黒いジャージ姿だが。
何より高身長の高さに、何故か関西弁で喋るその口調に、ずば抜けたその格闘の強さ。
あの時、初めて異世界救世部の初日に宮阪さんに集められ同じ選ばれた者の1人の空手部の人が居た。
「あんたらか?ウチの地区の公園で荒らし屯してるアホンダラわ。」
「テメぇ、何もんだコラァー?俺ら内川田高校だぞ!」
空手の人が次々とヤンキーを倒していく、
「なんやそれ?学校名聞いてどないするん?アホちゃう?」
「アホって、このアマ・・」
ヤンキーの1人が何か思い出した様に気づいた。
「タカちゃん、恐らくだがよぉあの女、この辺りの公園を守護として守っている空手ゴリラだぜ・・」
「誰がゴリラや!?鼻ペチャに折ったろかー?」
小野瀬は空手の人に標的をし
「とにかく、その女の周りに囲め!空きができたらフクロにせー!」
命令でヤンキー8人が空手の人の周りを囲んだ。
「あんたら、ええ加減せいや、ええ歳していつまで公園で遊んでんねん。覚悟しいや、」
小野瀬の合図でヤンキー8人は一斉に彼女に襲いかかりフクロにしようとした。
「遅いわ、セイヤ!!」
しかし、一瞬で彼女の華麗な空手の連続技にヤンキー8人は瞬殺され残りは小野瀬1人になった。
「ば・・・バカな・・たった1人の空手の女に・・」
「アホやな、空手やってるからやられんねん。ほな。」
ガキン!!
小野瀬も彼女の回し蹴りにクリーンヒットをし数メートルにぶっ飛ばした。
突然の空手の彼女に救われ僕は、彼女と公園のベンチに座っていた。
「あ、ありがとうございます。えっと・・」
「あー、自己紹介まだやったね。ウチ、神崎千歌。」
空手の技を使って戦った彼女の名は、
「神崎千歌」と言う堺浜市出身、同じ同級生の堺浜高校の一年、クラスはスポーツ科の人だった。
神崎さんは、この辺りの堺浜の公園を守る守護神とも言われていて。
実家もすぐそこの近所らしく、なんと神崎さんは小学校の頃から今みたく公園でヤンキーが屯してるのを見つけては空手の技で成敗をし、堺浜市の公園の平和を守るバイトをして、地区では超ヒーロー的な存在らしい。
最近この公園が一番治安が悪く。小野瀬達がたまり場にしてから目を光らせていたようだ。
「はい、絆創膏いる?あとポカリあるで?」
「あ、ありがとうございます。すいません。」
「なんであやまんねん。」
喧嘩も強くて、口調も関西弁でちょっと怖いかなと思ったが、神崎さんはとても優しい人だった。
「ふーん、あんたも色々大変なんやね。」
「もうちょっとで、本当に殺される所でした。」
「そやなくて、なんで異世界救世部に入らんよ?」
え?
「せっかく、綺麗な闘争心の目も持ってるのに勿体ないよ。ほんま。」
「そうですかね。」
神崎さんから貰った絆創膏を小野瀬に煙草で根性焼きされた手の甲に付けて少し会話をした。
「一応、ウチも異世界救世部に入部するんやけど、どうしても宮阪部長が言うにはアンタが入らなければウチも異世界へ行かれへんのよ。だから入ってや。」
「その・・神崎さんはなんで異世界救世部に入る決意をしたのですか?」
「ウチも宮阪部長に会ってから、契約を結ばれ入る事になったんやけど、何よりウチ困っている人とかほっとかれへんねんな。小さい頃から祖父に空手を教え仕込まれて、いつのまにかこんなに強なってしもうて。小学校中学校と空手の大会とか優勝しまくってあのバカやないけど最強になってしもうてん。」
あのバカは、恐らくこの間の片村薫と言う侍の人だ。
「せやからウチも何か困っている人とか直ぐ助けるから宮阪部長の話も今回、乗る事にしたんよ。」
そんなに、皆んな宮阪さんの誘いの話に乗って何を望みで入るんだろか。僕は、まだわからないよ、そこん所は、・・・。
「まだ、まだ終わってねぇぞ。空手女ぁ・・」
いきなり、そこの地面に倒れていたはずの小野瀬が起き上がりボロボロになりながら神崎さんに立ち向かおうとした。
「なんや、アンタまだやる気なん?しつこいで、」
他にも倒れていたはずのヤンキー5人も起き上がり、今度はバットやメリケンサックを手にし、襲い掛かろうとしていた。
「あんま、調子こくなよ、俺ら内川田校に手を出したらどうなるか思い知らせてやる。」
バチッ!バチバチバチ!!
小野瀬は腰から出したスタンガンを取り出しスイッチを入れながらヤンキー5人も武器を構えて絶体絶命の危機を迎えてた。
「結局、武器かいな。なんで男って武器持たな戦えんかいな。」
神崎さんは、両手拳の指をボキボキと鳴らしてこんなに危ない極地にかかわらず、冷静で余裕を見せていた。
「うわっ!?」
「そこまでだ、ゴリラ女!ハハハ!」
しかし、まだ起き上がったヤンキー1人がいて、僕を人質にしサバイバルナイフを首に近づけて捕まってしまった。
「ちっ!」
「す、すみません!?神崎さん、僕を置いて逃げてください!!」
「アホ、逃げるか!死ぬでアンタ。」
小野瀬は笑いながら僕を捕らえたヤンキーに
「でかした!さぁ。取り引きでもしようか、空手女?」
「いや、せえへん。石倉くんには悪いけど多少傷はつくと思うが、ウチ暴れるわ。」
は?
いやいやいや、何言ってんのこの人!?
確実に戦う気バリバリじゃん!?
「この空手女、マジかよ・・・ええい、石倉を殺せ!」
今度こそ「殺される」を確定過ぎる展開だ、なんでだよー。てか神崎さんこっちに気にせず戦ってるし。終わった、今度こそこれで僕の人生ゲームオーバーだ。
「くぅおおおらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その時、公園内の入り口階段の上に1人のこのエリアにいる全員が振り向くほどの大声が聞こえ、また誰かが現れた。
「な?・・今度はなんだ?・・竹刀持ってるぞアイ
ツ。」
小野瀬は次から次へと現れる変な奴に怯えていた。
「なんや、アイツか。」
神崎さんも戦うのを辞め、誰かを認識していた。
「やっと見つけたぞ雑魚助が、てめぇ1週間も何処に隠れてたぁーー!!」
後に気づき、その大声と竹刀を持った男の姿に思い出した。
「そうだ!確か剣道部の暴れ坊侍の・・片村薫って人だ!」
片村薫が竹刀振り回しながら僕の方に向けて走って来て、向かう途中のヤンキー数人をあっという間に切り殴り、気づけば僕の前に来ていた。
「おっおい!これわかんねーのか??人質だぞ!刺すぞ!?」
僕を捕らえたヤンキーがサバイバルナイフで脅すも、片村薫は躊躇なく竹刀を構え、
「あ?お前、そんな度胸あんのか童。」
ズバッ!!
一瞬で、片村薫は竹刀で下から上へと綺麗に技を見せ僕を捕らえたヤンキーを斬り飛ばし、気づけばヤンキー5人も成敗されていて、
残りは、小野瀬1人だけだった。
「石倉くん。お怪我はありませんか?」
「み・・・宮阪さん。」
なんで宮阪さんもこの公園に・・・。
「あ、あの眼鏡女は!?」
小野瀬が宮阪さんに気づき、宮阪さんは小野瀬に指を刺して、片村薫に
「片村くん。あそこにいる外道を成敗してください。」
片村薫は、再び竹刀を構え技に入る準備をした。
「おうよ。」
宮阪さんは膝末いた僕の隣に来て、
「石倉くん、これでまた借りが増えましたね。話は宗茂先生からお聞きしました。もう石倉くんが抱えてる問題を全て解決するには、異世界救世部に入部するしかないのではありませんか?」
!?・・・・。
【第六話へ続く】