第二十話 湯冷め
風呂から上がったサナとラビエラの二人は、ミーナと一緒に行く事に決まっていた。どうやら宿やに何部屋か借りているらしく、その内一部屋を貸してくれるらしい。
最初は泊まるつもりなどなかったが、どうやら夜の間に町から外るのは難しいらしいく、夜間の門外への外出には許可証が必要らしかった。
――止む得ない理由というヤツだ。
それでも出て行くと言ったサナだったが、それに慌てたミーナがある提案をしていた。それは"新しいお菓子の提供"と言う、普通の人であれば馬鹿にしているのかと怒る内容だった。
しかし、――相手はサナ。
少し前に食べたお菓子が気に入ったのもあって、とても魅力的な提案だった。
先ほど食べたのは、何やらサクッとした殻に覆われた中にほんのりと甘さの感じるお菓子だった。どうやら、小豆菓子と言うらしいがとても美味しかった。
きっと、もう一度同じお菓子を出してくれると言われても、付いて行っただろう。その状況にあって「もっと美味しいお菓子がある」との事、付いて行かない選択肢などある筈もなかった。
歩いていたサナは、思い出して楽しくなると隣を歩くミーナに聞いた。
「それで、どんな美味しいお菓子があるなの?」
すると、そうねぇ~と考える仕草をした後で答えがある。
「私お勧めは、辛熱焼米ってお菓子かしらね。少し辛いのだけど、焼きたての香ばしい処をガリっとするのが病みつきになるのよ~ふふ、あとで食べましょうね」
たまらないのよ~と言って頬に手を当てるミーナに、「食べてみたい!」と答えたサナだった。しかし、それに異を唱えたのはミーナの反対側で手を繋いでいたルルだった。
「あのお菓子は危険。口に入れると、ピリって来た後でビリビリする。あれは危険。きっと何か状態異常を起こさせる危険な物が入ってる……」
どうやら何か経験があるらしい。言葉数が増えたルルは、何かを思い出すように口元に手を当てた後、ふるふると頭を振っていた。
その様子に小首を傾げたサナだったが、面白そうにミーナが言う。
「あら、まぁお子様には少し大人な食べ物かも知れないわね」
「むぅ、ルルは大人」
「あらぁ~それじゃあ食べられそうねぇ~」
「それとこれとは話が違う」
からかうミーナとそれに応じるルルだったが、二人の間に居たサナは一通り首を傾げて聞いた後で顔を上げた。辛い物を食べた事の無かったサナにとっては、未知の世界だった。
「おとなな味でビリビリする……食べてみたいなの!」
そう言って答えたサナに、笑みを浮かべたミーナは勢いよく抱き上げると言った。
「そうよねぇ~食べてみたいわよね~!」
サナを抱き上げたミーナはしばらく嬉しそうにしていたが、少しばかり頬をむくらませたルルを見て微笑むと、空いた手でその頭を撫でていた。
その後ろには、ラビエラとルードとダグラスが居たが、自然と男二人とラビエラの間には距離が出来つつあった。意図した訳では無かったが、それも仕方のない事だろう。
貼り付けたような笑みを浮かべるラビエラは、その背に鬼を現していた。それは、自分以外の誰かと仲良さそうにしているサナを見ての嫉妬だった。
ラビエラにとって"嫉妬"は初めて持つ感情だったが……その内側からオーラとなって表れたプレッシャーは、周囲を威圧すると共にラビエラ自身の正常な判断を妨げていた。
きっと、正常な状態であれば、サナに辛い物など食べさせなかっただろう。
「もう少しで宿に着くわよ~!」
そう言って上機嫌で歩くミーナだったが、その後起こる事など知る由も無かった。
◇◆
ミーナたちの歩く少し後ろで、ひそひそと男二人が話し合っていた。
「これは、どうにかしないと大変な事になるな……」
「同じパーティなんだから、普通に言えば良くないか?」
「いや、ミーナに止めろと言っても逆効果になるさ」
「意外と面倒なんだな。それよりあの威圧感、蒐集家よりヤバくないか?」
「……ああ、間違いなくガロンより上だ」
「パーティの不始末だろ、どうにかしてくれよ」
「無理だな。どう対処したら良いのかわからん」
温まった筈の体に冷や汗が流れるのを感じながら、二人して不機嫌な様子のラビエラを遠巻きに見ていた。その後、ふと横を見たラビエラがその糸口を見つける事になったが、その時の安堵と言ったらなかった。
ラビエラが見つけたのは、氷の塊を削る事でシャーベット状にし、そこに甘いシロップを掛けると言う単純な氷菓子だった。
ラビエラは、自分の膝にサナを乗せていたが、一々すくっては食べさせるという面倒のし振りだった。その様子にはミーナも少し苦笑していたが、自分も温まった体には丁度良いと、氷菓子を買う事にしたのだった。
「あら、二人は食べないの?」
美味しいのに、と言うミーナに男二人は揃って首を振ると答えた。
「いや、俺はいい……」
嫌いな訳では無かったものの、冷め切った体には少々きつかった。
少し短いですが……。




