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第一話 はじまりの気配

 雲一つなく、果てしなく広がる青い空。


 その光景はまるで、新たな門出を祝うかのようだった。……と言っても、ここは雲よりも高い空の上。そもそも、雲がかかる事などまずあり得ないのだが。


 息をついたサナだったが、それに反応した首飾りが言った。


『どうしたんですか?』


 それに対して首を振ると、手で触れながら答えた。


「いや、大変だったなぁ~って思ってたなの」


 ため息を吐いたサナに、首飾りがフルフルと振るえて"納得"と返してくる。


 これまで長い時間を掛けて修行して来たが、この首飾りとは辛い時も楽しい時もその初めから一緒だった。最早、親以上の理解者と言っても良いだろう。


 そもそも、何が大変かと言えばその"親"からの課題が大変だったのだが……。


『ミナスさまはスパルタですから』


 そう言って肩を持とうとする首飾りに、口をへの字にする。


「だとしても、やり過ぎだと思うなの」


 物心ついた頃からの記憶を辿っても、正直厳しくされた覚えしかない。


『きっと愛情ですよ』


 そう答え、仄かに光を放った首飾りに「そうかなぁー」と返すと、大時計が正午を指すのを見て立ち上がった。あと三十分もすれば、儀式の時間になるだろう。


 儀式と言っても、単なる"家業の引継ぎ"の儀式だ。その儀式自体は、大して重要ではないと聞いているが、どうやら「形式美」らしかった。


 そもそも、家業と言っても古びた道具や、偏屈な道具を集めるだけなのだが……。


 話によると、父は集めた魔道具の全てを使いこなす事が出来るらしい。魔道具をつかえると言う事は、それら全てから"主人"と認められていると言う事。


 首飾り曰く"偉大な魔術師"らしいが……正直、集めるのも使うのもサナにはピンと来なかった。


 首を傾げるサナに、首飾りは『サナは壊す方が得意ですもんね』と苦笑気味に言っていたが、それを思い出しながら呟いた。


「……どうせ使えないなら、魔道具の勉強なんてしなくて良かったなの」


 すると、再び首飾りが言う。


『ですから、愛情ですよ愛情!』


 それを鼻で笑ったサナは、ため息を吐いた。


「愛情、それ美味しいなの?」


 サナとしては、壊すのも楽しかったが、甘いものを食べるのは更に楽しい事の一つだった。苦笑気味に振るえる首飾りを撫でながら、膨らむ妄想に舌なめずりすると言った。


「ぜんぶ終わったら、甘い物たくさん食べるなの!」


 これまでは、何をするにも父の言いつけを守らなくてはいけなかった。それが、この儀式さえ終われば、何をしようとしまいと、父は文句を言わないらしい。


 さっさと終わらせて、美味しいものをお腹いっぱいに食べる!


 父の書斎にある特大サイズの"冷蔵庫"、その中身を思い浮かべたサナだったが、ブルリと震え『ちょっと、よだれよだれ!』と慌てる首飾りに、いつの間にか緩んでいた口元を拭った。


 歩いていて見えて来たのは、儀式の間と呼ばれる一室だった。


 普段通る事の無い、細い回廊を抜けると部屋の前まで移動すると見上げてみた。特別な細工はないが、つくりはしっかりしていると思う。


 昔入った事があるらしいが、記憶に残っている中では初めて入る場所だった。


 その重厚で、背丈の数倍ある扉に手を触れるとゆっくりと押すと、薄暗い中にゆっくりと灯りが灯って行くのが見える。少し見ただけでも、他と比べても特別丈夫に出来ているらしい事が分かった。


 先に来ているかとも思ったが、どうやら父より早かったらしい。


 壁際に並んだ剣や盾、巻物や杖へ視線を動かして行く。


 父ほど()の良くないサナからしても、それらは普通じゃないのがよく分かった。何せ、こちらへ向けて来るのは強烈な敵意なのだ。分かりやすく"特別"である事を教えている。


「はぁーあ、やっぱりみんなに嫌われるなの、そんなにサナの魔力美味しくないなの?」


 若干傷付いたサナに首飾りが答える。


『仕方ないです。サナの魔力に適合する"魔道具"は、それほど多くないですから』


「多くない処じゃないなの!」


 何せ、これまで相性が良かったのは、今身に付けている首飾りのみなのだ。


 ……数百、数千ある内の一つなのだ。『多くない』でなく『限りなく無に等しい』が、正しいと思う。ため息にため息を重ねていたサナだったが、ふと気配を感じた。


 何の気なしに振り返ったサナだったが――


 そこに居たのは、人型を取った骸骨だった。

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