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砂鉄王 

掲載日:2019/02/12

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一遍。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ……よし、磁石釣り竿に関しては、こんなもんでいいかな。

 今度の幼稚園の訪問で、マグネット魚釣りをするんだってさ。今ごろ魚の絵を伐り抜いているみんなも、裏にクリップ止めし始めているんじゃないの?

 磁石って、初めて接する時、むちゃくちゃ不思議な感じがしなかった?

 違う極だと惹かれ合うのに、同じ極だと意地でもくっつこうとしない。「同族嫌悪って奴か?」と当時は考えちゃったよ。でかければでかいほど、いずれの力も強くなるし。

 今だと、コンパクトでも強力な磁石が簡単に手に入る。この磁石釣り竿以外でも、色々な遊び方ができるってもんだ。

 だが、汎用性が高いグッズっていうのは、往々にして取り扱い注意。思わぬことから事故に見舞われ、事件に巻き込まれる。

 うちのいとこも、昔、磁石をめぐってやらかしたことがあったらしい。その時の話を、聞いてみないか?


 砂鉄集め。

 磁石を手にした者が、高確率で関心を持ち、半ば通過儀礼と呼んでも差し支えないであろう遊びだと俺は思っている。

 いとこも理科の実験でそれに魅入られたらしい。そして、理科の先生からも話が。


「砂鉄っていうのは、鉄鉱石が使われ出す前より、鉄を作るために日本で使われ続けてきた、由緒正しい材料なんだ。日本刀とかを作るのにも、必要だったんだぞ」


 刀。当時のいとこを含めた男子たちに、その存在は、あまりにまぶしく映るものだった。

 いとこを含め、クラスの男子たちはそれにハマっちまったらしい。

 ついには、砂鉄で刀を何本作れるかを競おうという流れになってしまった。

 もちろん、実際に製鉄してモノホンの刀を作るわけじゃない。あくまで見た目だけの問題だ。そのままではばらけがちな砂鉄たちを集めて、磁石である程度コントロール。刀としての見た目を整えるという試みだったとか。

 男子たちはノリノリで準備に取り掛かる。

 いとこも家に帰るや、大型のU字磁石を購入。その日から、砂鉄集めの旅へ出かけたそうだ。


 砂鉄は川砂に多く含まれる、と聞いたいとこは、自転車にまたがって、さっそく川へ向かう。

 着いてもすぐには自転車を下りず、上流に向かって土手沿いを漕いでいった。

 どうせやるなら、大量に砂鉄を確保したいところ。川の上流だったら、流される前の砂がたっぷり。つまり中にはきっと、砂鉄もたっぷり。

 そんな方程式が、いとこの頭の中に思い浮かんでいたそうだ。

 

 数キロほど山に向かって走ると、背の高い建物は減っていく。

 湾曲して合流してきた、土手下のローカル線の線路と並走しつつ、田畑の多い細道を見下ろしながら疾走、またひとつ、車止めを越えて、橋のたもとを横切った。

 川そのものに傾斜がついてきたのか、当初より立てる音も水しぶきも、だいぶ勢いを増していた。

 不揃いの石たちが寝そべる河原には、ちらほらと白みがかった砂の姿が見え隠れ。

 

 ――この辺りで、探ってみるか。


 自転車を停めたいとこは、磁石とビニール袋を手に、土手を駆け下りる。

 ところどころ濡れている石たち。そのすき間に挟まった砂たちの姿を露わにするべく、岩下の住人もろとも、どかし始めるいとこ。

 ほどなく、砂の原が目の前に広がった。

 土手の上から見た時には白く見えたが、いざ面と向かってみると、なかなか黒みを帯びている。光の加減だったのかも知れないが、いかにも「砂鉄を含んでいますよ」とアピールせんばかりの色あいだ。

 状態も、先ほど自分がつけた手や足の跡以外、まっさらな状態。濃淡入り混じる公園の砂とは、一味違う。

 なら、中身の方はいかがか、といとこは磁石をビニール袋に入れて、おそるおそる突っ込んでみた。

 

 公園の時の苦労がウソのように、みるみる砂鉄がくっついてきた。

 ちょっと磁石を突っ込んだだけで、節操なく、ビニールへとしがみついてくる。理科の実験で見た時と同じ。栗のいがを思わせる、とげとげとした容姿はいかにも攻撃的な味わい。

 いとこはうっぷんを晴らすように、川べりの砂を漁り、砂鉄もそれに答えて次々と姿を見せる。一時間ほどの物色で、いとこが持ってきた白衣袋と同じくらいのサイズのビニール袋は、3分の1ほど砂鉄で埋まっている。


 ――これだけあれば、刀づくりに貢献できるぞ。


 うずいてくる期待に、胸をときめかせながら、いとこはその日はいったん、河原を後にした。


 放課後。手先が器用な面子によって、すでに砂鉄用のお絵描きボードが作られていた。

 のりパネルをベースに、厚紙などをくっつけてあつらえた、お手製のもの。厚紙には、これまた絵が上手い奴によって、刃の反りや、柄のデザインまでこった日本刀が描かれている。

 作業班に当たる男子たちは、集めた砂鉄を厚紙の、デザイン画が描いてある側へ垂らす。その後、裏側から親指の先ほどしかない大きさの強力磁石を使って、砂鉄を動かしていくんだ。


 当初は画板サイズで、体育座りをした太ももの上に乗せて、ひとりで作業できたらしい。

 モンタージュ写真を作成するかのように、砂鉄の広がり具合、集まり具合をコントロールしながら、デザインの中に砂鉄を留めおく。

 磁石を多用すると、互いにくっついたり、反発しあったりして、せっかくの調整が台無しに。磁石の数、距離感にこだわり出すと、なかなか微調整が必要。

 自分が「これだ!」と思う出来になったら、デザイン班が厚紙の後ろの磁石を、セロハンテープでそっと止めて固定。みんなで作った刀を見せ合ったとか。

 だが慣れてくると、強いもの、でっかいものを求めるのは、男のさがなんだろうかね。

 

 ――どうせだから、砂鉄怪獣か、砂鉄ロボット作ろうぜ。

 

 デザイン班のひとりが、そう提案した。

 手製のお絵描きボードを、高さ数メートルに及ぶものへ拡大。それを木の枝にぶら下げ、先と同じ要領で、白抜きの怪獣かロボットの中身を、砂鉄で埋め尽くそうという計画だったらしい。

 男子たちは次々に賛同。デザイン班が、一週間は時間が欲しいということで、他のメンバーは砂鉄と磁石、脚立の用意。後は作業場所となる、仮の秘密基地の確保に分担して動くことになった。

 

 いとこは率先して、砂鉄集めに立候補。

 学校が早く終わった日には、例の河原へ自転車を飛ばし、わずかでも砂鉄を集めていたらしい。

 そして迎えた土曜日。一日、たっぷりと時間を取れる時に、いとこは飽きもせず自転車を漕いで、例のポイントへ向かった。

 多少なりとも場所をずらしながら、夢中で集めるいとこ。リミットに余裕があるのをいいことに、あちらこちらで石をひっくり返し、砂の中へ磁石を突っ込んでいく。ビニール袋の中身は、すでにあの時の倍近い満たされ具合だ。

 もうモンタージュ遊びに使うという度を越していた。他のみんなが持ってくることを考えれば、ひとりで大量に集める必要はない。なのに、やり始めた掃除と同じで、手をつけていない場所を見つけると、つい意識が向いてしまう。

 そうしてまた、いとこが手近にある大きめの石に手をかけ、持ち上げた時だった。


 岩の下からぐいっと、ビニールに入れた磁石をわしづかみにされる。

 まだいとこは自分から磁石を差し入れておらず、袋は脇へ垂らしたままだった。それを、栓を開けた排水溝へ、周りの水が渦を巻くようにして引き込まれるように、袋が思い切り引き込まれたんだ。何かがつかんだわけでもなく、ひとりでに。

 同時にいとこが持ち上げかけていた石が、ぐんと重さを増した。力を込める手首に「びりり」と電気に似た痛みが走って、血管が破れるんじゃないかと思ったほどらしい。

 思わず手を離すと、「がちん」と大きい音を立てて、石は地面にくっついてしまう。指を引っ込めなかったら、あのまま潰されていただろう。


 そっと、もう一度石に手をかけてみたけど、微動だにしない。そして完全に挟まれてしまったビニール袋もまた、にっちもさっちも行かなくなっていた。

 ただでさえ石と地面に挟まれてぺしゃんこになっている部分が、いとこが力を込めているわけでもなく、ブチブチとひとりでにちぎられていく。岩が挟む力と、その奥から引っ張る力。そのいずれか、あるいは両方がどんどん強まっていたんだ。

 ほどなくビニール袋は、真っ二つ。手に提げられる輪っかの部分と、磁石と砂鉄をたんまり含んだ部分に分かれてしまう。後者はいまや、岩の中だ。

 関わりあう勇気は、すでにない。いとこは自転車を飛ばして、そこから逃げ帰ったんだ。

 

 家に帰ったいとこは、息せき切って先ほどの河原での出来事を話したけれど、母親は半信半疑。「ひとまずケガをしなくて良かった」とのこと。

 いまひとつな反応に不満を抱きつつ、仕事から帰ってきた父親にも同じ話をすると、こんなことを教えてくれた。

 

 過去、いとこが住んでいるこの辺りには、豪族たちがたくさんおり、幾度となく争っていたらしい。

 そして、古墳というにはいささか小さめの、けれど一般人から見たら十分に大きめの、彼ら豪族の墓が多くあったらしいんだ。いとこが砂を取っていた辺りにもね。

 墓には、その人たちが生前、愛用していた武器や装飾品、更にはその人を慕う部下たちすらも一緒に埋められる。死後もそばにいるように、という願いをかけたものらしい。

 だがそれらは、時間の流れと共に、積んだ土ごと風雨によって崩れ、川へ流れ込んだ。そして天の導くままに、流れ着いた場所でひっそりと眠り続けているらしい。

 品も人も、微細な姿となって、今に至るまでも。


「お前が取ってきた砂鉄も、どこかの豪族の墓に一緒に入っていた、埋葬品のなれの果てだったんだろう。

 それをお前が何度も足を運んで奪っていくものだから、盗人と思われたんじゃないかねえ。

 良かったな、磁石が引っ張り込まれたくらいで済んで」


 それからいとこは、近所の砂場で申し訳ばかりの砂鉄を用意し、お絵描き計画に臨んだ。

 結果的には成功に終わったが、その後でいとこは、使った砂鉄を集めると、持ち寄ったみんなに話を聞いて、手ずから現地に赴き、少しずつ返して回ったとのことだ。





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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。何だかお絵かきボード「せんせい」を思い出しました! 男子って、時折なんでそれにそこまで熱中するのか、女子には到底理解が及ばないことがありますね……(笑) (きっと男子も女子に…
[良い点] はじめてお邪魔いたします。 誰にでもある経験からのショートショート。イメージがしやすくて面白かったです。 川の上流まで採集に行く子供の本気具合が、微笑ましいを通り越していっそ見事……。 …
2019/02/12 22:41 退会済み
管理
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