綻び
海のイベントから一晩明けて、海斗は二階堂の島に向かった。そこにはまだ、米田たちが休んでた。
井上が島に向かってくる船を見つけた。
「おい、三船がこっちにくるぞ。米田たちをなんとかしろ。」
それを聞いた二階堂は指示を出す。
「分かったわ。九重くん、三船くんの足止めに行って。他は米田さんたちには悪いけど、一旦彼女たちを縛っといて。」
米田が叫ぶ。
「ちょっと、何すんのよ!?」
「それとも三船くんに皆殺しにされたいの?」
「わ、分かったよ。」
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海斗を出迎えたのは九重だった。
「よ、九重。怪我の方はどうだ?」
「心配ご無用!すでに傷は治った。」
「それで、今日は二階堂に会いたいから、案内してくれ」
「その前に、お前はあの熊を倒したと聞いている。そこで勝負しろ」
「なんでだ?強さならデータの中にあるだろ。」
「だからだ。データだけでは満足できん。だからそれを倒すお前と勝負したいのだ。」
海斗は少し黙り込んだ。海斗が知ってる九重は強さについては一を聞いたら十を知る。熊のレポートは完璧だった。
(多分島には米田たちがいるんだな。時間稼ぎってところか。米田たちの島は空か。)
「めんどくせえ奴だな。だが、お前の頼みだ、聞いてやろう。」
海斗は九重とは剣道部の勧誘パフォーマンスの時に声をかけられたのがきっかけで仲が良くなった。声かけられた時は『何者だ。』と聞かれたのが印象に残り、忘れる事はないだろう。まだ、『何者だ。』と聞かれた理由を聞いてない。
「ありがとう」
「その代わり、終わったら、初めて会った時の『何者だ。』を説明しろ」
「いいだろう」
海斗と九重は空間から刀を取り出した。
砂浜でお互い五メートル離れた所から向き合い、構えた。
海斗は脇構えに対し、九重は王道の中段の構えをとった。
お互いに目を睨み合い、意識が最も高まった瞬間、二人とも消えた。
中央に金属音が響くと同時に、二人が現れた。お互いに第一撃を受け止め、刀を押し付けあった。力負けしそうな九重は彼の得意の退いて立て直し、攻撃をする動きに出た。刀が離れた瞬間、海斗が踏み込んだ。その勢いはまるで捕らえた獲物を逃さない肉食獣だった。九重は態勢を立て直せず、それどころか、砂浜に足が沈み、踏み込めず、膝をついた。この瞬間を見逃さず、海斗は九重の刀を巻き取り、その勢いで遠くに振り払った。刀を九重の首の前に突きつけた。
「俺の負けだ海斗。久しぶりにいい勝負をしたよ。」
「ああ、俺もだ。クマはもう飽き飽きしてたんでね。さて、あの時の『何者だ。』の説明を。」
「分かってるって。俺は結構強いと自負してる。人の歩き方や、意識の分散の仕方をみたら強さがわかる。そこで、昔、親父が俺を親父の友人の娘に会わされた時、こいつは歴戦の戦士のような意識の配り方で、歩き方からはいつでも飛び掛かりそうな雰囲気が漂ってた。これは並みの強さじゃない、そう思い、親父に勝負を挑んでいいかと聞いたら、もちろん、と返ってきた。ただし、負けたら彼女のお付きになれと。女に絶対に負けないと思い、挑んだ結果、負けた。惨敗だった。それも彼女の得意な槍ではなく、俺の得意分野の刀で。それが今の二階堂さんだ。その結果、二階堂さんと同じような人に注意をしてた所、お前に出会った。二階堂さんの比ではない意識の分散の仕方、いつでも縮地できるような歩き方。俺を倒した人よりも強い。それで、お前は誰だと。高校生で、何千人と戦ったような奴に警戒して、『何者だ。』になったわけだよ。」
「ほお。」
すると、第三者の高い声が響いた。
「九重くん、話は終わった?」
「さてと、俺も用件を伝えに行かないと。」
海と九重はは二階堂に向かって歩き出した。
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海斗が基地についた時、そこには木に繋がれて、猿轡された米田たちがいた。米田は海斗を睨み付けた。何人かは減ってることに気づいたが、これ以上の情報がないため、死んだんだろうと海斗は踏んだ。
「この通り、米田さん達は捕らえた。後は海斗くんのチームのクリスタルを貰えば私たちの勝ち。」
「ああ、分かった。取ってくる。その前に、米田達はこれで全部なんだな?」
「そうだと思うよ。イベントの後、彼女達のコインを取ろうとしたら、攻めてきたから人数はそれで全部なんじゃないの?残りは死んでるんじゃない?」
「ああ、そうか。」
海斗が二階堂に背を向け、歩き出した瞬間、背後に一本の矢が飛んできた。海斗は大袈裟に横飛びで避けた。振り返って、米田達が繋がれた木を見ると斉藤美沙だけになってた。
小さく、独り言で海斗が呟いた。
「予想通りに動いてくれるな。」