第23話 比翼の鳥は寄り添って(中)
俺が話している間、メイリは嗚咽を殺して静かに聞いてくれていた。
途中からは鼻をすする音も聞こえなくなって、震えも微かに感じられるくらいに小さくなっていた。代わりに額を俺の胸に押し当てて、眠ったように動かなくなっていたけど。
とにかく、こんなつまらない話を真剣になって聞いていてくれたってことだろう。それだけで話した甲斐があったと思えるし、少し気分も楽になった気がする。一方的に話しただけとしても、自分の身の上を誰かに知ってもらえるってのは、やっぱり嬉しいものだからな。
そこに加えて、メイリの恐怖を少しでも紛らわせてやることができていたのなら、なお幸いだ。
「――とまあ、これで終わりだ。悪かったな、あんまりいい話じゃなくて。嫌な気分にならなかったか?」
自虐気味に笑うと、メイリは――ふるふる。
額をこすりつけるように、俺の胸の中で何度も首を横に振った。
「うれしかった」
そして、俺の予想しなかった言葉を合わせる。
「嬉し……って、なんでまた」
「ナユタが、はじめて自分のこと、話してくれたから」
……言われてみれば、そんな気もする。
まあ、俺が誰かに話せるのなんて、こんな話くらいしかないからな。話したいか、話したくないかはさておいて。
「そう……だったかな」
「そう」
「……そっか」
間の抜けたやり取りをする俺たちの間には、ほんの少しだけ明るい空気が戻ってきていた。まだまだ、いつもの安心できる雰囲気には遠いけど。
でも、いいさ。ここまで戻ってこられたなら。
俺にできる全部で、ここまでできたなら……それで。
ここより先を取り戻すのは、時間か、あるいは……いつかメイリの隣に立つのだろう、どこかの誰かの力がなければ、できないこと……だろうしな。
「話していい?」
しばらくそんな空気に浸っていると、珍しく控えめな態度でメイリがそう切り出した。
「うん? 何をだ?」
「わたしも、自分のこと」
メイリの……過去、か。
きっと、聞けば知ることができるのだろう。どんな家に生まれたのか、この容姿は生まれついてのものなのか、そして……なぜ、この世界にやってくることになったのか。
話してくれるのなら、聞いておきたい。俺が身の上を語ってスッキリできたように、メイリも話すことで楽になれるなら、相手になってやりたい。
けど……
「無理して俺に合わせる必要はないんだぞ? 嫌なことだって……思い出すかもしれないしさ」
心配する俺の問いを、メイリはもう一度――ふるふる。ゆっくり、大きく、首を振って制した。
「ナユタに、聞いてほしい。ナユタだから……知っておいてほしい」
そこまで言われたら、受け入れないわけにはいかないな。
覚悟を決めよう。どんな話を聞かされても、絶対にメイリを傷つけさせない……覚悟を。
「……わかった。けど、つらくなったらすぐに言えよ?」
「ん。だいじょうぶ」
少しだけ落ち着けたらしい柔らかい声で、メイリは答えた。
そして、ゆっくりと語り始める。
苦くて苦しい思い出を、噛み殺すように噛みしめながら。
けれど――瞳に宿した強い光は、決して陰らせないままに。




