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第14話 南の楽園叫びが2つ(Ⅳ)

 見上げたレオニ城は――

 街全体と同じく階層ごとに段のある構造をした、3階建ての大きな建物だった。塔がなく左右対称にもなっている外観は、西洋よりは日本の城の天守に近いイメージだ。屋根は平らで装飾がなく、石造りで、全体的にのっぺりとした感じは西洋の古い城っぽさがあるが。

 目を凝らして見ると、壁の色が違ったり、屋根の一部が木材で補強されていたりと、修繕が施されている箇所がいくつも確認できる。国の象徴やお偉いさんが集まる場所としてだけじゃなく、実際に何度も戦闘を経験してきた本物の城塞なんだな。


 正面玄関の前まで来ると、ヒトウさんは近くにいた警備員らしき人を呼び止め、二、三言葉を交わす。それはどうやら俺たちのことを説明してくれていたようで、


「入ってよいそうじゃ。あとのことは、中にいる者たちに聞いとくれ」


 門の時と同じように、あっさりとそんなことを言ってくれた。


「ヒトウさんは……?」

「わしにはまだ仕事が残っておるでのぅ。案内してやれるのはここまでじゃ。じゃが、もしまた困ることがあれば、いつでも頼ってくれてかまわんぞい。せっかくの客人じゃ、よき思いをして帰ってもらいたいでのぅ」

「……ありがとうございます。助かりました」

「ありがとうございましたっ」


 俺と、俺が話を聞くために今まで黙ってくれていたリセナは揃って頭を下げた。

 メイリは……別にいいや。こいつがお礼を言うとか、そっちの方がむしろ怖くて嫌だし。


 こちらへどうぞ、という警備員さんの合図に従って、俺たちは玄関をくぐりホールに入った。

 外観は日本の城のイメージが近かったレオニ城だが、内観はかなり西洋に寄った雰囲気だ。外壁と同様全体は石造り。左右には太くて丸い柱が立っている。床のカーペットや調度品のおかげで、外と比べるとちょっとばかし気品のある感じがする。

 とはいえ、王族貴族が住む建物ではなく、あくまでも会議場のような施設であるためか、歩いている中に上品な見た目の人は少ない。ほとんどがスーツや燕尾服といったカッチリした服装で、ビジネスマンだとか従者の装いだ。

 心境的には、城というより市役所にでも入った気分だな。落ち着かないが、無理にかしこまる必要はなさそうな分少しだけ気が楽だ。

 そんな中、


「うえっ!?」


 と、素っ頓狂な声が聞こえ、そちらに目を向けてみると――


「うえっ!?」


 と、素っ頓狂な声が、俺の口からも飛び出した。

 というのも、そこにいたのが――


「ま……マルク……!?」


 だったからだ。

 従者らしき地味な礼服の獣人たちが、前後左右に控え警護している。品のある人が少ないという俺の印象を真っ向から否定するように、その集団だけはまるで王とその側近のような凛とした佇まいで廊下にいた。

 だが、何より目を引いたのは、その中心にいたマルクの格好。服装だ。

 彼女が着ているのは、ツヤツヤとした光沢のある、サテンみたいな生地のイブニングドレス。それも肩や背中を大きく露出し、普段は燕尾服にしまい込んでいる形のいい胸まで惜しげもなく露わにした、大人の色香さえ漂う女性用の礼服姿だったのだ。

 おまけに高そうな飾りをつけて髪を結い上げ、薄い赤の口紅をはじめとした上品な化粧まで施している。自分からは絶対に手に取らないであろう、エナメル質のハイヒールなんかも履いてるぞ。

 どこからどう見ても、夜会にくり出す貴族のご令嬢の装いだ。

 いきなり会えたことにも驚いたが……それ以上にこの変貌っぷりに驚いた。まさか人生で一度でも、マルクのこんな姿を見る機会に恵まれるとは。

 ていうかこいつ、本当にマルクなのか……? まじまじ見つめても半信半疑なんだが。


「馬子にも衣装……いや、この場合は犬子にも衣装か?」

「おい。今ものすごく失礼なこと考えてるだろ」


 これまた高級そうな手持ち鞄を、しわが寄るくらい握りしめたマルクに睨まれて――実際その通りのことを日本語で呟いていた俺は、口をつぐむしかない。

 で、そのせいで今度こそマルクの顔を直視することになったわけだが……

 き……キレイ、だな。恥ずかしくてバカにするような言葉しか出てこなかったが、内心思ったのはそんな感想だけだ。

 普段のマルクはメイリ同様化粧っ気がないので、ふとした時に美しく見えることはあっても、女性としての魅力を感じることは少なかった。

 だが、そもそも整った顔をしていて、さらに化粧でその素材の良さを120%引き出している、今のマルクは――文句の1つも出ない、息を飲むほどの絶世の美女だ。あまりの美しさにため息まで出そうになる。

 無表情以外は完璧なメイリと、美しさよりかわいさや親しみやすさが先立つリセナ。その2人に並んで、磨けば光る原石だったんだと……改めて、強く認識させられるな。これを見たら。

 ……あー、くそ。なんかドキドキしてきた。変な顔になってないだろうか、俺。


「――ていうか、なんでお前がここにいるんだっ。ご主人に、リセナまで連れて……」


 向こうも向こうで恥ずかしいのか、ちょっと赤くなりつつ話題を逸らした。ので俺は、


「様子を見に来たにきまってんだろ。お前が出てってからもう1か月近くだぞ? 心配にもなるっての」


 ここは正直に、そう答えておく。

 勝手に来たのは確かだが、元はといえばマルクが何の音沙汰もなかったせいだからな。ちょっと強調して釘を刺すくらいはしても許してくれるだろう。


「うぐっ……それは……だって……」

「まあ、この際だから連絡がなかったのはよしとするけどさ。何かあったのか? しかもその格好……」

「これは――」


 目を泳がせ始めたマルクが、しどろもどろに口ごもった――そこに、


「アタシのフィアンセに、何かご用かしら?」


 ハスキーでダンディな、男性の声。

 ハッと顔を上げたマルクに合わせてそっちを見てみれば――廊下の先に、マルクを囲んでいるSPたちと同じ格好の従者を従えた、1人の獣人が立っている。

 黄色いまだら模様の体毛に覆われ、双眸は鋭く、耳は丸い。アイゼを除けば初めて出会う、猫科の特徴を持つ顔のビスティアだ。

 ロブやシリウスをも超えて背が高く、マッチョではないがガッシリとした体格。そのバスケ選手みたいな体を包む服装は、マルクの普段着に近い茶色の燕尾服。

 だが、ジャラジャラしたシルバーアクセサリーが邪魔そうなくらい至るところについていて、ネクタイはド派手な虹色。胸ポケットには赤いバラまで差していて、お前はどこのスーパースターだと言ってやりたくなる痛々しさだ。腰に差している洋風の剣まで、鞘をも含めて金ピカのキラキラで目が痛い。

 その鞘に手を当て、モデルのようにシュッとした姿勢で胸を張って立つ彼は、よほどの自信家かつ目立ちたがり屋という認識で間違いないだろう。


 そんな、ポストに○きのあきらみたいな格好の男が現れて驚いたのが、まず最初だった。

 遅れて「アタシ」「かしら?」という不自然な発声に注意が行くが、まだ……まだ、奇妙に思う程度で違和感は薄い。

 問題なのは、ラスト。彼の、発言の内容だった。


「フィ――」


 聞き間違いではないことを頭の中で何度も反芻して確認してから、俺は彼の言葉の中で最も重要な単語を口に含む。


「フィ――」


 俺と同じ理由で驚愕したらしいリセナが、同じ口の形で言葉を溜める。


「フィ」


 最後、多分ノリで言っただけのメイリは別として――

 余裕綽々な獣人の彼を前に。

「うわぁ……」って感じに顔を覆ったマルクの横で。



「「フィアンセ~~~~~~~~っ!!??」」



 俺とリセナは、ほぼ同時に、その言葉を絶叫するのだった。

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