第11話 南の楽園叫びが2つ(Ⅰ)
ビスティア連邦首都レオニ市までは、想定していた以上に長い道のりとなった。
というのも、亜竜車が通れる道がことごとく通過できなくなっていたせいだ。
レオニは大陸南に突き出た半島の、さらに南東方面の海に面した地域にある街なのだが――
まず、俺たちが通ろうとしていた海沿いの道。これは半島の外周をぐるりと半周する感じで距離こそ長いが、平坦な街道が続くため、1日2日もあれば踏破できる計算だった。
しかしながら――例の、サハギン。繁殖期のあいつらは川を遡るために下流と海の付近で大渋滞を起こし、海沿いどころか街道までやつらの警戒が及んでいるため、危険すぎることからこの時期は全面通行止めとなっているとのことだったのだ。
そのため、やむなく半島中ほどの丘陵地帯を抜けようとすることに。
この道は起伏こそ激しいが、ほぼ直線の移動ができるおかげで距離は最短。体力さえ続くなら一日で駆け抜けることも不可能じゃない地形らしいので、おそらくマルクが森への移動に使っているのもこの道だろう。
しかしこちらも、山に住む魔物の繁殖期が重なっていて危険ということで、道路のほとんどが通行止めされていたのである。
海もダメ。山もダメ。結果俺たちは、海沿いを避けつつ山の麓をなぞるように街道を往くという、非常に面倒くさいルートでレオニを目指すこととなったのだ。
到着までにかかった時間は、合計で3日と半日ってところか。時刻も昼くらいには着きたかったが、思った以上に速度が上がらず夕方になってしまった。旅行っていうより、ちょっとした旅だな、こりゃ。
まあその分、道中を有意義に過ごせたことでよしとしよう。
というのも、アイゼたちとたくさん話ができただけでなく――車内での暇な時間やたびたびとった休憩を使って、俺のトレーニングをみんなが手伝ってくれたのだ。
普段マルクとやってるようなスパーリングに加えて、アイゼにもサーニャにも酷評された魔法の使い方の再検討まで。友人の家庭訪問じゃなくて俺の強化合宿だったんじゃないかと思うくらい、それはもうミッチリ叩き込まれた。
おかげでマルクがいなくなってからサボってた筋トレの分は取り返せた気がするし、新しい魔法の使い方もなんとなく思いつきそうだ。
マルクやシリウスのような界隈最強クラスの実力者と違って、適度な力量差がある人たちばかりだった(メイリを除けば。まあそもそも「あつい。だるい」ってことでメイリは手伝ってくれなかったけど)のも追い風だったな。初めてリセナから一本取れた時には年甲斐もなく大はしゃぎしちゃったよ。
そんなこんなあり――想像以上に密度も長さも充実した時間を経て、辿り着いた連邦首都レオニ。
半島の南南東、つまりはほぼ最南端にあるこの都市は、小高い山に流れる川を挟むようにつくられた、いわゆる水の都だ。
街の構造も山の斜面に沿う形になっていて、下層は市場、中層から上層にかけて住宅街、頂上付近には政治関係の建物が並ぶという、ひな壇を思わせる階層構造。ではあるものの、層ごとに明確な格差が存在するというようなことはなく、都市開発の都合や物流の利便性を兼ねてこの形になったんだとか。
そもそもこの国は『連邦』と名がつく通り、複数の国――ベースとなる動物種ごとに形成していた群れや部落だ――が1つにまとまってできた連合国家だ。中には肉体的に弱い種族も参画していることから、差別や格差にはむしろどの国よりも敏感で厳しいという。
もちろんほかの国同様に身分の高い人低い人というのはいるが、そこに生じる差なんて所得と言葉遣いと責任の重さくらいなもので、立場や権利に違いはまったくない。自治体としては規模が小さく規律もユルめのエルフィアの里とは違って、日本や、他の先進国――現代の地球に近い構造の文化体系をしているといえるだろう。
つまりはビスティアの、ビスティアによる、ビスティアのための、自由と平等を掲げる国がこのビスティア連邦なのだ。
獣人の国ということでもっと野蛮なのかと思ったら、意外としっかりしていた……とはこの際言わないでおこう。
あと、立地のおかげで山の幸、川の幸、海の幸すべて採れる上に、どれもおいしい美食の国でもあるのだそうだ(ここ重要!)。
――という話を途中でアイゼたちから聞いていた。
うん、率直に言ってかなりいい国な気がする。整った秩序においしい食べ物、海と山のレジャースポットも完備とくれば文句が出ようはずもない。エルフィアの里を森に囲まれた片田舎とするなら、このあたりはまさしくハワイだろう。移住することまで少し考えちまったくらいだよ。
……まあ、この亜熱帯の夏みたいな暑さがその魅力すべてを台無しにしてるんだけど。海が近いおかげか道中よりは涼しくて快適だから、一概にとは言えないが。
「おつかれさん。ここがビスティア連邦首都、レオニだ」
達成感の籠ったアイゼの声を合図に、俺たちはぞろぞろと亜竜車を降りる。
正面に回って見てみれば、正面には掘のような水路をまたいで架かっている太くて大きな跳ね橋が。対岸には鉄柵の下りたいかつい門があり、その両端からは高さ3mほどの石の壁がぐるりと街を囲むように伸びている。
連邦の政治の中心であり、戦闘や戦争では司令塔の役割も果たすこの街は、城郭都市としての姿も併せ持つと聞いてはいたが……
こうして実際に見てみると、なるほどどうしてちゃんとした城塞だってことがわかるな。山と海に城壁というアンバランスさも、異世界であることを踏まえるとよりそれっぽく見えてくる。夕焼け空とのコントラストまで絶妙だ。
……おっと、すっかり観光に来た気分だった。本来の目的であるマルクはどこにいるのか……ここにいてくれればなおいいんだが。




