第10話 目指せ! ビスティア連邦(Ⅵ)
「サンキューサーニャ! さすがだぜ!」
「アイゼたちの〜、援護があってこそよ〜」
ぱちんっ。
アイゼは豪快に、サーニャは控えめに、ハイタッチを交わす。
やるなーこの2人。俺たちの出番なんかまったくなかったし。
「す、すごいな……」
「だろ? オレとサーニャのコンビネーション魔法だぜ」
「どうやってたんだ? 魔物だけを狙って攻撃してたみたいに見えたけど……」
「ふふっ、それはね〜」
サーニャが、足元に転がっていた水晶玉を拾って見せてくる。
「この水晶が〜、マナを計る魔導具になっているの〜。魔物の方が〜、体の中のマナが多いから〜」
「そいつだけを狙い撃ち! ってわけだ!」
「なるほどなー……」
魔物はマナの過剰摂取により突然変異した生物で、主にマナを食べて生活する。人間が栄養を摂取するのと同じにそれが血肉になると考えると、俺たちを襲う成体のマナ保有量はかなりのもんになるだろう。
対する人間は、呼吸でマナを吸い込むことがあっても体内に取り込むことはないから――そこで生まれる差を、照準合わせの条件にしているわけだ。
そこまで考えてこんな魔法を使うとは――この2人、戦えるどころか魔物戦闘のエキスパートじゃねえか。
と、
「それに比べて……お前の魔法はひどいな!」
感心していると、アイゼの無邪気なダメ出しが始まった。
「魔法でぶっ飛んでくやつなんて初めて見たぜ。どっかで撃ち落とされるんじゃねえかって、見てるこっちがヒヤヒヤしたぞ。軌跡定着は上手いけど」
「そうね〜。使える魔法を〜、無理やり組み合わせたら〜、こうなった〜、みたいな感じがしたわ〜。軌跡定着は上手いけど〜」
「うぐっ……し、仕方ないだろ。これしかないんだから」
少しでも強くなるための訓練は、毎日のように行っている。
だが……体を鍛えることも、魔法の勉強も、<アクセル>の練習も、結局のところすべて独立したことなのだ。そこから使える要素を抜き出して俺でもできる戦い方になるよう組み合わせても、こんな形にしかならなかった。これならまだ、バカの一つ覚えで<フレイムⅡ>を連発してる方がマシかもな。
あと1ピース――俺だけの武器が使えるようになれば、この戦法だって形になるはずなんだが……
「前使ってた……えっと、ケンジュウ? は、使わないの?」
ドモる俺に問いかけるのはリセナだ。
その疑問に、俺は腰のホルスターに手をやりながら答えた。
「これは……あんまり使いたくないんだよ。……高いから」
「「「? ? ?」」」
答えたが、リセナもアイゼもサーニャも疑問顔。
まあそうだろうな。いきなり金の話になるなんて誰も思わないだろうし。
ルカに銃弾の中の火薬を交換してもらって、試射も済ませ、今度こそ正常に使えるようになったこの拳銃だが……雷管に希少鉱石であるエクリスを使用しているという構造上、弾のお値段がとんでもないことになっていたのだ。
後になってルカに請求されたその額――6発分で、驚きの300レム。円換算にして1発5000円という悪魔のような金額である。
つまりこの拳銃は、1発撃つごとに俺の財布から5000円消し飛ばす、別の意味での魔銃となったのだ。恐れ多くて気軽には撃てないし、補充の弾も金を渋って6発分しか作ってもらわなかった。
「じゃあそれ、なんで持ってきてるんだ? 使わねえんだろ?」
「そりゃあ……魔法が使えないくらい危ない時には使うからな」
「それって今しかなくね?」
「なんで今なんだよ。使わねえよ」
呆れ混じりに呟く俺――から見て横の方向を、アイゼがちょんちょんっと指で示す。
仏頂面のままそっちを向いてみると――目が合った。
いつの間にか横にいた、サケと。
「……」
『……』
「よっ」って感じに、サケは開いた右手を挙げた。
「…………」
『…………』
「……………………」
『キシャー!』
「うおおおおお<アクティベート>ぉぉぉぉ――――っ!?」
――タァンッ!
謎の沈黙から立ち直りつつ、ホルスターから銃をクイックドロー。雷管のエクリスを起動する術式鍵語を唱え、襲いかかってきたサハギンの額に銃口を突きつけて、発射。
ほぼゼロ距離でも完全復活した魔銃の威力は問題なく発揮され、額を撃ち抜いて撃破に成功した。
「使った」
「使ったね」
「使ったな」
「使ったわね〜」
サハギンの槍の代わりに、ジト目の視線が4つ突き刺さることとなったが。
「うるせー! ていうか気づいたんならお前らが倒せよ!」
ヤケクソ気味に叫びながら銃をホルスターにしまう。
「いやぁ、なんか溶け込んでたからつい」
「そもそも、なんでいきなり魔物に襲われてんだよ! あいつらって、縄張りに入らない限りは普通の動物と同じはずだろ!?」
怒りの矛先を変えた俺が指摘する。と、アイゼが両手を合わせて頭を下げた。
「あー、わりぃ! それはオレのミスだ! この近くに川があんのをすっかり忘れててさ」
「川?」
「あいつら、普段は海にいんだけど、繁殖期になると川を遡って産卵するんだよ。で、メスが産卵してる間、オスは川に誰も近付かないように周りで警戒してんだ。そこに踏み込んじまってさ」
川を上って産卵って、本格的にサケじゃねえか。
だが……これは、責められないな。俺たちはそもそもそんなこと知らなかったわけだし。
「そういうことなら……いいよ。俺たちだけだったら多分、何も知らないまま同じことになってただろうし」
「サンキュ。そんじゃ、さっさと行こうぜ。これ以上道草食ってたら、いつレオニに着けるかわかんねーし」
ニカッと笑ってアイゼは亜竜車の方へと歩き出した。
「あと、話を聞く約束もしてたことだしな! 特にそれ! そいつの話が聞きてえぜ!」
「それって……拳銃のことか?」
俺の腰を指さしながら言うので、俺はホルスターをぽんぽんと叩きながら答える。
「おう! だってそれ、異世界の武器だろ? そんなもん、オレらは見たことも聞いたこともねーからさ。なあなあ、異界人はみんなそんなもん持ってるのか?」
「いや……ほんの一握りだと思うぞ。俺の知り合いでも、持ってたのは1人だけだったし」
ていうかこれがその1人からもらったものなんだけどな。
「なーんだ。けど、お前が持ってるなら、他のやつだって持ってる可能性あるよな! 今度異界人見かけたら、ぶん殴って奪うか!」
「ひどい通り魔もあったもんだな」
持ってるかどうかもわからないもののために、猫女に襲われる異界人……不憫すぎる。
「アイゼ〜?」
そうだそうだ。サーニャも言ってやれ。
……と思ったが、サーニャがアイゼを呼んだ理由は他にあるようだった。
「やべっ、忘れてた!」
宿題をしてない子どもを叱る先生のような目をしたサーニャに見咎められ、アイゼはそそくさと踵を返した。
「なあ、武器といえばなんだけど……」
思い出したように俺に振り返り、両手を合わせて頭を下げる。
そして、必殺技の代償にも等しい――最高に面倒な後始末を、俺に申し込んでくるのだった。
「ナイフと水晶……拾うの、手伝ってくんね?」




