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第8話 目指せ! ビスティア連邦(Ⅳ)

 青い空。白い雲。足元には見渡す限りの大草原。

 森の静かで穏やかな自然とはまた違った、爽やかな空気が吹き抜ける平野。

 景色だけなら、今すぐここに住んでもいいと思えるくらい――澄み渡った、まさしく理想郷だろう。

 そう、景色だけなら。


「あっ――――つぅぅぅぅぅぅぅぅいッッッ!!」


 忌々しいのは――空に浮かぶ、太陽ッ!

 いや、地球じゃないから、正確には太陽のように輝いている恒星なんだが……ともかく、そこから降り注ぐ日差しだ!

 平野に入った瞬間、日本の真夏日に並ぶんじゃないかというほど体感気温が跳ね上がった。

 空を見上げればさりげなさの欠片もなく太陽がギンギラギンに光っているし、どこからともなくセミのような鳴き声も聞こえてくる。気分は完全に夏休み直前の学校だ。


「どうなってんだこれ……!」


 一応、地面がアスファルトじゃないだけ日本の夏よりはいくらかマシなんだが……

 この数か月、ずっと春の陽気みたいだった森から、一歩外に出るとこの暑さって……どう考えてもおかしいだろ! 森は木陰のおかげで涼しかったとか、そんな理屈が通るレベルじゃないぞ!?


「知らずに来たのか? 連邦はいつでもこんな感じだぜ。もう秋も近いから、これでもかなりマシになった方だな」

「これで秋なのかよ……」


 うちわでパタパタ仰ぎながら言うアイゼの説明に、俺はうなだれた。

 もしかしてマルクのやつ、この暑さから逃げるためにウチに来てたんじゃないのか……? とか考え始めるくらいには頭がボーッとしてきちまったよ。


「まっ、もうちょっとしたら海沿いに出るからさ。初めてのやつにはしんどいかもしれねーけど、そこまで我慢してくれよ」

「海、か……」


 確かに、潮風に当たることができたら暑さも少しは和らぐかもな。

 できればひと泳ぎして帰りたいくらいだけど、そんな暇があるかどうか。

 それにしても、ビスティア連邦――真夏のような日差しと海の、動物の国か。まるで絵に描いたような南国に来たみたいだ。


(……あれ? もしかしてそういうことなのか……?)


 連邦が謎に暑いんじゃなくて、南に来たから暑い、とか。じゃあもしかして、北に行けば寒かったり……?

 最近はすっかり忘れかけてたが……ここは異世界なんだし、可能性は高いよな。久々に異世界の理不尽を味わった気がするぜ。


「メイリ。お前は大丈夫か?」


 俺でこんな状態だと、体の弱いメイリは完全にのぼせちまってるんじゃないかと心配になってそっちを見ると――

 メイリは壁の隅に両膝を立てて座り、本を読んでいた。なぜか、開いた日傘を抱えたまま。


(なんで車の中で傘さしてんだよ……)


 しかし、奇行はさておき――顔色はいたって良好。暑さなんて気にしてもいないとでも言いたげな無表情だ。大丈夫そうか……?

 ――いや、そこはメイリ。顔に出てなくても死にかけてる可能性だって大いにある。現に反応してないし。まあ、本を読んでる時にメイリが反応を返さないのはよくあることだけど。

 少し心配になった俺は、メイリの前に移動して目の前で手を振ってみた。


「おーい? メイリー?」

「…………」


 反応なし。

 これ……本当にヤバいんじゃないか?


「大丈夫か……って、うわっ」


 肩でも揺すってやろうと、傘の下に入れた俺の手が――ヒヤッ。何か、とてつもなく冷たいものに触れた感触を覚えた。

 慌てて手を引き戻したが、その中にいるメイリは何ともない顔をしてるので――もう一度、おそるおそる手を入れてみる。

 すると……やっぱり、冷たいぞ。空気が。メイリの周り……というか、傘の下だけ。

 よく見ると頭の上に魔法陣も浮かんでるし。


「――1人だけ涼んでんじゃねーか! 俺も入れろよ!」

「ふ〜か〜い〜」


 割り込もうとする俺と、俺を足蹴にして阻止するメイリの図である。

 そんなバカ騒ぎを繰り広げていたところ、

 ――ガクンッ! ドガッ!


()ってえ――――っ!?」


 急に車の中に慣性がかかって、俺はすぐ横の壁に頭を叩きつけることになった。

 な、なんなんだよ……? 車が止まったみたいだが……


「っつつ……アイゼ? どうかしたのか?」


 たんこぶでもできたらしく腫れ上がった頭に手をやりながら、御者台に呼びかける。


「あー、わりぃ。トラブル発生だ。しばらく中でおとなしくしててくれるか?」

「いいけど……大変そうなら手伝うぞ?」

「ヤバくなったら助けてもらうかもな。サーニャ、行くぞ」

「はいは〜い」


 アイゼに呼ばれると、サーニャは手近に置いてあった重そうなリュックを背負って外へと出ていった。

 何があったのか気にはなるが……2人とも慣れている様子だったし、心配はいらないみたいだな。

 残された俺たちは、言われた通りに車の中で待機する。

 しかし――そのすぐ後のことだった。

 ――ドンッッッ!

 何かが叩きつけられる音とともに、車全体が大きく揺れた。

 ドンッ! ドドンッ!!

 立て続けに音は響き、それに合わせて振動が車に届く。

 前言撤回。これで心配せずにいられるか!


「メイリ! リセナ!」

「ん」

「うん、私たちも行こう!」


 外が明らかにヤバい状況なのは確かだ。言葉少なに、俺たちはおっとり刀で亜竜車から飛び出した。

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