第5話 目指せ! ビスティア連邦(Ⅰ)
「これで、よし……と」
日本語とアッシュ語とうろ覚えの英語で、それぞれ『天音事務所、臨時休業』と書いたプレートをドアノブにかける。
シリウスの魔導具工房は引き続き営業するので、『OPEN』の看板はそのままにしておいた。
ドアに鍵をかけた俺は、必要最低限のものだけ収めたバッグを肩に引っかけて振り返る。
そこに待つのはすでに準備も万端な少女2人。
やっぱり朝イチでやってきたリセナと、まだうつらうつらと舟をこいでるメイリだ。
「忘れ物とか大丈夫だよな?」
「バッチリだよー」
「メイリも――後から『あれ読みたい』なんて言っても遅いからな?」
まあ、メイリの持ち物なんて着替えと日傘、あと厳選した本くらいなんだけど。
それも大半が俺のバッグの中だけど。
「んー……平気……」
俺と同じく最低限をリュックに収めたリセナと、日傘を杖代わりにしてかろうじて立ってるメイリが、それぞれ頷いた。
異世界で、しかも徒歩での移動となるが、なにも未開の地へと旅立つわけじゃない。
ちゃんと人通りのあるところを歩くし、森さえ抜ければ有人の休憩所だっていくつもあるらしいから――多少忘れ物があってもどうにかなるとは思うけどな。
用心するに越したことはない。しかし、それも大丈夫そうだ。
「そういえば……」
いつでも出発できる様子の2人を見て、俺はふとあることを思い出した。
2人の服装だ。
リセナはチューブトップと短いジャケットを組み合わせた野戦服のような軽装。メイリはシンプルなブラウスとスカートに白のサマーコート。2人とも、割とよく見るいつもの恰好のままだ。
昨日服屋に入っていったのは、今日着る服を見繕うためだとばかり思ってたんだけどな。
「2人とも、昨日買った服は着ないのか?」
「あっ、知ってたんだ。でもハズレ! 私たちが買いに行ったのは服じゃないんだよ」
「じゃあ、なんなんだ?」
「あれは――むぐ」
教えてくれようとしたらしいメイリの口を、後ろに回り込んだリセナが両手で塞いだ。
「ふふっ、まだ秘密。きっとナユタ君も気に入ると思うから、楽しみにしてて!」
「ふーん……?」
よくわからないけど……そこまで言うなら、期待して待っていようか。
「それじゃあ早速、出発しよっか! 目指せマルク君のおうち!」
いつになくハイテンションなリセナを先頭に、森の獣道を歩き出す。
南――俺たちにとっては初めての方角。
初めて向かう、森の外へと。




