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第4話 消えた尽雷(Ⅳ)

 コン、コン、コン。


「シリウス。いるか?」


 一足先に帰宅した俺は、早速地下に降りて奥の部屋のドアをノックした。

 俺の私室になるはずだったこの部屋。今ここを使っているのは、以前俺と極魔を賭けて戦ったあの男――シリウスだ。


「鍵なら開いている。入ってきたまえ」


 呼びかけると、中からくぐもった声でそんな言葉が返ってきた。ので、俺はノブを回して中に入る。


(相変わらず……足の踏み場もないな……)


 一歩踏み入れた室内は、元の部屋の様子が思い出せないくらいに物で溢れかえっていた。

 見覚えのある計測機器。無数の工具。謎極まる奇形の機械などなど。ほぼすべて、シリウスが自分の家から持ち込んだものか、ここで作ったものだ。

 まだここに来てそんなに日も経ってないってのに、よくもまあこんなに好き放題に部屋を使えるよ。

 そんな、傍目(はため)にはゴミ屋敷にしか見えない部屋の奥――そこだけ少し整頓されているテーブルの前に、シリウスはいた。

 溶接でもするかのような重苦しい鉄のマスクをつけて、手元の工具をとっかえひっかえしている。また新しい魔導具を作っているようだ。

 この家に来てからというもの、シリウスは日がな一日こうして部屋に(こも)り、魔導具をイジり続けている。外に出るのは魔導具の作成・修理の依頼を受けるときくらいで、食事すら数十時間に一回しかとっていないほどだ。

 ある意味メイリよりも筋金入りで、ちょっと心配になるレベルだけど……むしろ初めて会った時よりイキイキしてるから、本人的にはこれでいいんだろうな。


「君がこの部屋を訪ねるのは珍しいね。マルクに呼んでこいとでも命じられたかい?」

「ちげえよ。ていうか、マルクならずっと家にいないだろ」

「おや、そうだったのか。言われてみれば、もう何日も彼女の手料理を楽しめていない気がするね」


 手元の作業を止める様子もないまま、シリウスはぼんやりと思い出したように言う。

 この感じ……本当に気付いてなかったみたいだな。どれだけ没頭してたんだ。


「そのマルクのことなんだけどさ。さすがに心配になってきたから、様子を見に行こうと思うんだ」

「では、ビスティア連邦に?」

「ああ、リセナの案内でな。それで、お前はどうするか聞いておこうと思って」

「ふむ……」


 俺が尋ねると、そこでようやくシリウスは手を止めて考え込む。

 しかし、すぐにヒラヒラと手を振った。


「とても魅力的な提案だが、私はパスだ。今はどうしても、この作品を完成までもっていきたくてね」


 手元にある組みかけの魔導具を示しながら、シリウスは言った。

 昔なじみの安否よりも魔導具優先かよ。そんなんだからお前マルクに「甲斐性なしの顔だけジゴロ」とか言われるんだぞ。


「もしもこの作業が終わっても君たちが戻っていないようなら、後から追いかけることにしよう。私が楽しむためにも、ゆっくりしてきてくれると嬉しいね」

「はいはい」


 若干ニュアンスは違うけど、結局「行けたら行く」ってことだな。

 なんとなくそんな感じのことを言われそうな予感はしていたので、俺は投げやりな返事をしながら部屋を出ようとした。

 そこに、


「待ちたまえ」


 シリウスから声がかけられる。

 振り返ってみると、シリウスも作業を止めてこちらを見ていた。

 そんなに大事な用なのか……?


「どうした?」

「少し確かめたいことがあってね。今、銃は手元にあるかい?」

「ん? ああ、まあな」


 最近は俺も割といろいろできるようになってきたけど、結局一番頼りになるのは拳銃(これ)だからな。今はもう、ホルスターと合わせてベルトの横に収まりっぱなしになっている。

 ルカに頼んで中の火薬はちゃんとしたものに取り換えてもらったから、威力の方ももう安心だ。


「少し見せてもらってもいいかな? なに、時間はそう取らせない」

「……ほら」


 やけに熱心な様子だったので、俺は何も言わずに抜いた拳銃を渡した。

 シリウスは慣れた手つきで、くるくると回しながら銃を分析する。

 特に回転式弾倉(シリンダー)――銃弾が収まる部分を念入りに見ているようだが……

 突然どうしたんだろう。新しい魔導具に搭載する機構の参考にでもするのかな。


「ふむ。しっかりメンテナンスはしているようだね。私が教えた通りに」

「……おかげさまでな」


 この家に来てから、シリウスは極魔ではなく真っ先にこの拳銃を研究した。俺を通訳に挟んで、帯銃経験者のロブやイリアさんと談義したこともあったな。

 どうも自分の目の前で、低級以下の魔導具が使われていることに我慢ならなかったらしい。

 その成果か、今では俺よりもシリウスの方がこの武器に関しては詳しくなっていて……恥ずかしいことに、正しいメンテの方法もシリウスから教わったのだ。

 別に本来の所有者としてのプライドとかがあるわけじゃないけど、あの時ばかりはさすがに泣きそうになったな。

 ていうか、そんなことを確かめたかったのか?


「……よし、十分だ。ありがとう」

「お、おう……」


 ひとしきり見終えると、シリウスは満足そうに頷いて拳銃を返してくれた。


「結局なんだったんだ?」

「ちょっとした確認さ。気にすることはないよ」


 そう言われると逆に気になるんだが……


「さあ、君にも出立の準備があるだろう? 私などに構っていないで早く進めるといい」


 しかし、すぐにシリウスは後ろを向いて――またテーブルの上の作業に戻ってしまった。

 ……ちくしょう。モヤモヤする。

 でも、作業モードに入ったシリウスがまともにとりあってくれるとも思えないし……


「……わかったよ」


 仕方なく、俺はすごすごと引き下がりシリウスの部屋を出るのだった。

 実際、急いで準備しないと間に合わないだろうからな。

 どうせメイリが自分で自分の準備をすることなんてないし。

 それに何より――

 リセナのあの言い方から察するに……絶対、明日には出発するつもりだろうから……

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