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第22話 決闘の果てに(Ⅲ)

「……なぜそれを使わないんだい?」


 シリウスが見つめているのは、俺の腰のホルスター。その中の、拳銃。


「特筆に値する君の戦力は、付け焼き刃の下級魔法(ルーン)でも極魔でもない。その武器だったはずだ。それを使わなければ、万が一にも君が私に(かな)うはずのないことは承知しているだろう?」


 ――ああ、わかってるよ。そんなことは。

 けど、この銃の残弾数は6発。気軽に撃って外してしまったらリカバリーの効く数じゃない。使うなら、確実に命中させられる距離とタイミングを見計らわなければならないんだ。

 加えて、わざわざ「使え」だなんて言ってくるということは、シリウスの方も対処法はちゃんと用意してるんだろう。それを突破して弾丸を命中させるには、それが使えない状況に持ち込むか、最低でも正体を見破ってから撃ち込むべきだ。

 ……とにかく、今は(これ)を使うわけにはいかない。

 俺は言葉で答える代わりに、もう一度右手を持ち上げてシリウスに向けた。


「あくまで魔法戦を続けようというんだね。その武器に何か制限でもあるのか――それともまさか、この私を相手に戦力の温存ができるとでも思っているのかな?」

「……さてな」

「まあいい。だったら、そんな余裕がなくなるまで攻め果たすまでだよ!」


 シリウスの猛攻が再開される。

 氷柱、火球、光線……一撃一撃が必殺の域にまで高められた魔導砲撃の雨が、情け容赦なく俺の命を刈り取りにくる。

 それらを前に俺は、地べたを()いずり、あるいは無様に転がって逃げ惑うことしかできない。

 いや……もう、避けることも難しくなってきた……!


「くっ、そ……ッ!」


 氷柱の連撃を<レジスト>の盾で(しの)ぎ、盾を貫いて迫る氷柱を飛び退いて避けながら、俺はシリウスを(にら)む。

 その視界が、揺らぐ。ぐにゃりと曲がって朦朧(もうろう)とする。

 度重なる無茶な動きに疲労。それと出血のせいだろう。

 将軍にかけてもらった強化魔法も効力を失いかけているのか、体が重く感じるようになってきた。

 ――ああ、ダメだ。

 これ以上戦い続けることは、難しい。

 決着を……急がないと……ッ。


(出し惜しみしてる場合じゃない……!)


 覚悟を決めた俺は、ついに腰のそれ――拳銃に手を伸ばし、一息に引き抜いた。

 ガチャッという音を鳴らして撃鉄を起こし、そして――唱える。


「<励起(アクティベート)>!」


 俺の声に呼応するように、拳銃が、その中の銃弾が、淡い光を放つ。

 起動完了――いや、成功だ。ちゃんと注文通りにできてるみたいだな。

『魔銃・コンバットマグナム』として生まれ変わったそれの銃口を、俺は――両手を揃えて、魔法陣を描いている最中のシリウスの心臓に向けた。

 俺の動きを目に留めたシリウスが、描画を中断して杖を下げ、左手を前に出す。

 杖を持つ手よりは早く動かせる左手で、防御のための魔法陣を組み上げるつもりか。

 ――だが、その手の動きよりもさらに、俺が引き金を引く方が早いぜ。

 拳銃(こいつ)は地球人が、何千年という戦いの歴史を結集して作った、人殺しの技術の結晶。命を奪うことに最適化されたこの武器に、予備動作なんか必要ないんだからな――!


「食らえよ――!」


 パンッ!

 火薬の弾ける音を立てて、銃口から弾頭が射出された。

 空気を切り裂き飛翔する鉛弾(なまりだま)

 それは一直線に、シリウスの心臓めがけて飛んでいき――


「――――」


 静寂。

 俺もシリウスも、その場で凍りついたように動けなくなる。

 やがて――

 先に声を発したのは、シリウスだった。


「……なんだ? これは」


 ()()()()()弾丸を投げ捨て、凍えそうなほどに冷たい声で言った。

 受け止めたのだ。銃弾を。飛んできたボールをキャッチするかのように、なんでもなく。

 その目には、表情には、態度には――阿修羅さえ震え上がらせる灼熱の憤怒が、隠すこともなく(にじ)み出している。


「君の力は、その武器は、こんな体たらくではなかったはずだ」


 シリウスの言葉が示しているのは、俺が放った銃弾の速度についてだろう。

 そう。シリウスが体たらくと評した通り――

 俺の銃弾には、野球選手が全力で投げたボールくらいの速度しかなかった。

 音速で弾を飛ばすはずの拳銃に比べて、圧倒的に()()()()のだ。

 ――なぜ?

 この銃弾は、ルカとメイリの合作だ。ルカが作った実包に、メイリが魔法陣を組んだ()()()()を組み込んだ。

 こちらの世界では手に入らない雷管――点火装置を、小さな火花を起こす魔法陣を搭載したエクリスで代用したのだ。

 極小サイズのエクリスに、そこそこマナを必要とする発火の機能を無理やり詰め込んだので、発射後はエクリスそのものが砕けてしまって再利用はできない、という欠点こそ生まれてしまったが……ルカが能力で作った実包には1ミリの狂いもなかったし、メイリがエクリスに行った刻印も正常に機能していた。

 一発の銃弾として使うことには、何も問題なかったはずなんだ。

 ……やはり、2人が失敗したとはどうしても考えられない。

 考えられるとすれば――


(火薬、だ……!)


 銃弾を構成するパーツの中で、唯一2人が関与していない部分。

 唯一、市販品をそのまま使った火薬だけが、銃弾の要求するスペックを満たしていなかったんだ。

 湿気ていたか、そもそもの炸裂が大したことなかったか……

 どちらにしろ、こんな大事な場面で、信用しきれないものを使った――俺の失敗だな。


「しかも……これは、魔導具? 神聖なる決闘で、よりにもよってこの私に、魔導具で勝負を挑むだと?」


 シリウスが怒っているのは、どうやらそれだけが理由じゃなさそうだ。

 この銃も、エクリスを搭載した今は魔導具の一種。だが完成度は並以下で、元の威力を再現するにもほど遠い。もはやオモチャも同然だ。

 そんなものを、命のやり取りをしてる場でもったいつけて出されたら……そりゃあ、キレるだろうよ。魔導具に一家言あるであろう専門家のシリウスなら、なおさらな。


「私を愚弄(ぐろう)しているのか? ――ふざけるなッ!!」


 シリウスが叫ぶ。

 その声はまさしく、怒髪天を()いた悪鬼羅刹のごとく。背後に憤怒の業火(ごうか)を幻視するほどだ。

 今やシリウスは、魔導具から転じて自分自身を侮辱(ぶじょく)されたように状況を受け止めているのだろう。

 それにしたって――人は、ここまで怒りを表せるものなのか。

 ……震え上がっちまいそうだよ。魔物やゴーレムと相対した時なんかとは、比べ物にならないくらいに。


「いいだろう。君がそのつもりなら、もはや私もこれを決闘とは思わない」


 冷たく言い放ち、シリウスは杖を真上に掲げる。

 その先端のエクリスが、目も眩むような激しい光を放って――

 次の瞬間。

 ――バカバカバカッ! ガコンガコン! ジャキジャキッ!

 ステンドグラスで彩られた側面の、さらに上部。無機質な白い壁に無数の穴が開き――

 そこから突き出してきた、同じく無数の()()が――無数の射線を、俺に定めた。

 ――ッズドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!


「…………な」


 気付いたときには、斉射は終わっていた。

 止まってしまっていた息を断続的に吐き戻しながら、その惨状に目を向ける。

 見上げれば、白煙――いや、冷気を立ち上らせる無機質な筒口。

 見回せば、俺の周囲を取り囲むように、無数に床へと突き刺さった氷の針。

 冷酷なまでの地獄の光景が――そこには、広がっていた。


「対侵攻用自律可動迎撃魔導兵装群制御システム――コード『テラ』」


 燃え盛る憤怒さえ凍りつかせた極寒の怒声で、シリウスはその名を告げ――

 そして言う。


「我が全身全霊で()って、君を完膚(かんぷ)なきまでに撃滅する」

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