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第21話 決闘の果てに(Ⅱ)

 ――魔法陣を描き始めたのは、ほぼ同時。

 どちらも外円のない、下級魔法陣(ルーン)。けれどそこには明確な力量差があり――やはりシリウスの方が、完成は圧倒的に早かった。


「<氷晶の刺突(スピネム・イーチェ)>!」

「っ……<フレイム>!」


 鋭く尖った先端をギラつかせて迫る氷結の魔弾を、かろうじて射出が間に合った炎弾によりギリギリのところで相殺(そうさい)する。

 炎に(あぶ)られた氷柱は瞬く間に蒸発し、もうもうと沸き上がる蒸気を発生させた。

 しかし、その蒸気が前方で雲のように一瞬滞留し、煙幕よろしく俺の視界をボヤけさせてしまう。


「<光線(ルクス)>!」


 直後、煌めきをまとう細い光線がモヤを貫いた。

光線(ルクス)>――俺の場合は<フォトン>と読むその魔法は、文字通り光の速さで突き進むレーザービームだ。指一本分の太さもなく、残留時間は0.1秒にも満たず、魔法的な防御があれば簡単に防げてしまうが、そんなのは事前に対応できればの話。どれだけ肉体や感覚が強化されていても、人間である限りは光を避けることなど絶対にできやしない。

 狙いも正確。確実に体のどこかが撃ち抜かれる。

 だから俺は――それが来ると想定していたわけではないが――蒸気が利用されることを予期したその時点で、すでにその場を離脱していた。

 転がりながらモヤの横に飛び出し、起き上がりざまに新たな魔法陣を描く。


「<ライトニング>!」

「<防壁(オービス)>!」


 完全に上手(うわて)を取ったと思ったが……読み合いでも、あいつの方が上か……!

 俺が放った<ライトニング>――直進する雷撃の槍は、シリウスが展開した薄い(まく)のような障壁に苦もなく弾かれてしまった。

 俺が扱う魔法ではその障壁を一撃で破壊するには至らず、(わず)かながらシリウスに安全な時間を与えてしまう。

 そして、再び攻守が逆転する。


「<火炎弾(フランマ・ブレット)>――<第二射(ドゥオ)>! <第三射(トレス)>!」


 俺のお株を奪うかのような、燃え盛る灼熱の火球。それをシリウスは、同じ魔法陣からなんと3連射する。

 魔法は通常、同一の魔法陣に術式鍵語(エフェクトコード)を当てても、同じ方向・距離にしか攻撃できない。図形を構築する線の一画一画に性能を決める複雑な式が関係していて、そこを変更しなければ効果も変えられないからだ。

 しかしシリウスの火球は、連射することを前提にあらかじめ魔法陣が改変されていたらしく――発射されたすべての弾が、それぞれランダムな方向に飛んで迫ってくる。それも、どこにどう避けても1発は命中するようないやらしい配置だ。


「<レジスト>!」


 やむなく俺は、シリウスが使ったのとほとんど同じ防壁を展開して、正面の1射を阻止する。

 防御魔法<レジスト>。物理的な攻撃にはまったく干渉できない代わりに、ある程度の魔法攻撃を無効化することのできる凝縮されたマナの盾だ。

 注ぎ込んだマナ量に応じて強度と持続時間が強化されるのが特徴で、これならあと1発くらいは耐えてくれるだろう。

 今のうちに――


「<フレイム>!」


 ()()で描き上げた魔法陣を起動し、紅蓮の魔弾を発射する。


「<疾風(ヴェントス)>!」


 それは、涼しい顔のシリウスが前方に発生させた突風によって打ち消された。

 だが――問題はない。

 炎が消されても、そこに一瞬残る()さえあれば――!


「――<フレイムⅡ>!」


 間髪を入れず、俺はほぼ同時に()()で描き始めていた魔法陣を起動。

 直前の炎弾の数倍の威力と規模を持った、爆炎の榴弾(りゅうだん)を放った。

 これにシリウスは一瞬目を見開いて――


「<武装補強プラエジディウム>!」


 しかしすぐさま、新たな魔法陣を完成させる。

 そして、マナが宿って淡く輝いた杖を、手元でひっくり返し――

 ――スパッ。

 あろうことか、その長い後端で、炎弾を――斬った。

 真下から斬り上げられ真っ二つになった炎弾は、シリウスの横をどちらもギリギリですり抜けていって、後ろで(くすぶ)り焼失していく。

 煙の立ち上る杖をもう一度手元で返すシリウスは――余裕の表情だ。


「驚いたね。予想以上だよ。目くらましの後ろに本命の攻撃を隠す――私と同じ戦法を、まさかこの短時間でやり返されるとは思わなかった」

「……お褒めの言葉どうも」


 (あお)るのが上手いな……ったく。

 こっちが死にもの狂いでやった連携を軽くいなしておいて、驚いたもクソもあるかよ。


「さて、それではこちらも――ステップを上げていこうか!」


 高らかに宣言しながら、シリウスは手にした杖を掲げた。

 その先端で、月光に照らされた宝石が極光の色に輝き――


(――そういうことか!)


 事ここに至り、俺はようやくその杖の用途を理解する。

 あの杖は――魔法陣を大きく描くためにあるものだったんだ。

 魔法を強化するには魔法陣をより精密に描くことが何より重要だが、単純に魔法陣のサイズを変動させることでも、その効果に影響を与えることができる。つまりは魔法陣を大きくすれば、それに比例して魔法の効力も大きくなるのだ。

 ただし、観測活性(アクティベート)していても、人間がマナを観測――すなわち干渉できるのは、自分の手が届く範囲のみ。なので通常、腕の可動域以上の大きさの魔法陣を描くことはできない。

 しかし、それを可能にする方法が1つある。

 それが――エクリス。

 エクリスを手にしている間に限り、マナにはエクリスも体の一部とみなされ、そのリーチの分だけ大きな魔法陣が描けるようになるのだ。先端にチョークがついた棒を持って、黒板の高いところに文字を書くようなものだ。

 そしてシリウスが手にしている杖も、先端についている宝石は――エクリス。

 ならば――


氷晶の刺突(スピネム・イーチェ)!」


 今度は右手で、指ではなく腕全体を振るように杖を動かして、シリウスが描いた魔法陣は――やはり大きい。通常の2倍近いサイズになっている。

 しかして大振りな動きになったはずなのに、よほど訓練しているのか描く速度はほとんど同じだ。

 ヒュンッ!

 放たれた氷柱の槍。そのサイズも――いや、サイズだけでなく速度も、大幅に強化されていた。

 こちらは2倍どころじゃない。銃弾にも匹敵する速さで、岩石のような氷塊が迫ってくる。

 迎撃はどう考えても間に合わない。仮に間に合ったとしても、俺が知る魔法でこれを撃ち落とすのは五分以下の賭けだ。


「くっ……!」


 歯を食いしばりながら、横にステップしてどうにか避ける。

 俺がついさっきまで立っていた場所の背後の床で、バギンッ! と、これまでとは比べ物にならない大きな破砕音が響いた。

 その音で冷や汗を流すのもほどほどに、俺は魔法陣を描いて反撃を試みるが――


「まだまだいくよ! <氷晶の連撃コンティニュ・イーチェ>!」


 先に完成したのは、またもシリウスの魔法陣だった。

 さっきの火球と同様ランダムな軌道で、3本の氷のトゲが迫る。


「――ッ、うっ……!」


 床に飛び込むように横に転がってこれを避けようとした俺だったが、(かわ)しきれずにその内の1本が側頭部を(かす)めた。

 傷はそれほどでもないが、出血がひどい。

 血を流しすぎれば当然、体の動きは鈍くなる。……あまり長くは戦えなくなっちまったな。それでも、メイリたちが来るまでは戦い続けるしかないんだが。

 傷口を押さえてヨロヨロと立ち上がった俺に、シリウスは追撃してくるでもなく――何かを疑問視するように目を細めて俺を見ていた。

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