第17話 三位一体の攻略法(Ⅱ)
エルフィアの森北に存在する、シリウスが魔導具研究のために所有している別邸。
道中に敵の姿はなかった。ゆえに、その正面から南に引かれた連絡道を、マルクは最短距離・最速で疾駆する。
やがて前方に、何度か訪れたことのある白塗りの大豪邸が姿を現した。
しかし同時に、その門の前に何者かが立ちはだかっていることにも気付かされる。
すぐさま敵――三従士の1人と判断し、その眼前で急ブレーキをかけたマルクは勢いそのままに剣を引き抜いた。
狩猟に挑む獣を彷彿とさせる闘気を身に宿すマルクに対し、その男は――しかし陽気な態度のまま、強面の口元を怪しく歪める。
「でへ、でへ。よぐぎだんだな、ヴィズマルグ卿」
「――オレグか」
ひどく濁った声で話すその男――オレグは、広い肩幅と丸太のような両手足を有する屈強な大男だった。
岩を思わせるいかつい容貌に、圧倒されそうなまでの筋肉。さらには鋼鉄製の胴鎧まで装備し、ただそこに立っているだけで威圧感さえ感じさせる。にもかかわらず、糸のように細い目には温和な彼の性格がにじみ出ており、不自然なまでの雰囲気のズレが異質な存在感となって現れていた。
「久じぶりに会えで嬉じいんだな。でも申じ訳ねえ。今日だげはごごを通ずわげにはいがねえんだ」
「構わない。ならば――押し通るッ!」
剣を下段に構え、爆ぜるように飛び込むマルク。
その速度はまさしく音を置き去りにする雷光がごとし。反応することすらできず、オレグは怪しい笑みを浮かべたまま斬撃を胴に受ける。
「なっ――」
――否。
マルクが放った必殺の逆袈裟はオレグの胴には届かず。
その一歩手前――マルクとオレグの間を隔てるようにそびえる、透明な光の壁に阻まれていた。
「ぞういえば、ヴィズマルグ卿にはまだオデの魔法を見ぜだごどながっだな」
壁の向こう側で、変わらぬ調子のオレグが言う。
その貼りついたような笑みが、今のマルクには余裕の表情に見て取れた。
「ごれがオデの一番得意な、結界魔法なんだな。ごの結界がある限り、ヴィズマルグ卿はオデに触れるごども、ごごを通るごども絶対にでぎねぇんだな。わがっだら、もう諦めで帰っでほじいんだな。でへっ、でへへっ」
「…………!」
剣を握るマルクの手に、無意識に力が入る。
文字通りそびえ立つ壁がもたらす絶望感が、その目から光を奪った。
――しかし。それも一瞬の出来事。
「オレグ。ボクは魔法が使えない」
「ん? 知っでるんだな。ぞもぞもビズディアは魔法が使えないんだな」
「今さらあいつみたいに勉強しようとも思わない」
「あいづ? 誰のごどなんだな?」
「けど。この魔法の対処法だけは――あの後、シリウスが教えてくれたんだ」
――ガキィンッ!
一閃。マルクの振るう刃が、残像を残して結界を叩いた。
「おわっ……急に何ずるんだな!」
「決まっているだろう。壁が立ちはだかるのなら――」
ガキンッ! キィンッ!
「――力づくで、叩き壊すッ!」
「なぁぁっ!?」
その言葉を皮切りに、マルクの猛攻が始まった。
何度も何度も。斧で薪を割るようなテンポと迫力で、光の壁に剣を打ち込み続ける。
「む、無駄なんだな! ごの結界魔法はオデの最高傑作! 今日はずごい魔導士がぐるっでんでぢょっど魔法寄りにじだげんど、だだの剣じゃあ100万回ぶづげだっで割れやじないんだなっ!」
「ならば――1000万回叩きつけるだけだッ!」
――無茶苦茶だ。
オレグはただひたすらにそう思った。この場を見ている者が他にいたのなら、そのすべてが同じ感想を抱いたことだろう。
しかし、オレグ自身もまた幾度となく不可能を可能としてきた練達の魔導士である。ゆえにそれ以上嘲ることは控えるべきと判断し、けれども自身の結界には絶対の自信を持ちながら、勝負する気概で壁越しにマルクと向き合った。
「ぞごまでいうなら、試じでみればいいんだな! オデの結界とヴィズマルグ卿――どっぢが先に倒れるが!」
「臨むところだ――!」
剣閃を弾く音は激しさを増していく。
そして、究極の我慢比べが始まる。




