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とある誰かのプロローグ

「ついに見つけた……見つけたぞ……!」


 石造りの薄暗い空間。

 大小様々な機械の数々が、そこかしこで怪しい光を灯すその部屋で。

 巨大なスクリーンに映し出された地図を見上げる、とある男が――その一点を指し示す赤い点を前に、歓喜を(こぶし)に込めて震えていた。

 それは男の悲願が叶った瞬間。

 決して見つけることはできないと誰しもが諦めていた秘宝を、この手に収める準備が整った瞬間だった。


「ダーラ! オレグ! ベーゼル! 探索の準備を――」


 いてもたってもいられない。

 そう顔に書いてあるかのような笑みを浮かべ、振り返る男――だったが、その声に応じる者たちの気配はない。


「――そうか。今は王都だったか」


 寂しく音が響き渡る様子に少しあっけにとられながら、しかしすぐに頭を振って納得した。

 ない袖は振れない。信頼できる彼らの助力は、今限りは得られないということだろう。

 では、どうするか。

 最適解は、彼らを呼び戻し、その帰還を待ってから出立することだ。彼らの同行さえあるのなら、少なくとも当面の不安は消え去る。どのような試練が先に待ち構えていようとも、必ずや栄光の成果を手に入れられることだろう。

 しかしその場合、時間に大きな欠落が生まれる。

 もしも待っている間に他の誰かに先を越されてしまったら。

 あまつさえ、秘宝が他の誰かの手に渡ってしまったとしたら。

 ああ。考えるだに怖ろしい。

 ゆえに今回ばかりは、多少の不確定要素が生まれようとも、彼らの助力は借りないことが本当の正解だ。

 では、どうするか。

 残念ながら、男に彼らと並び立つほどに優秀な人材への伝手(つて)はない。仮にあったとしても、彼らと同様この場に召集するには無視できない時間を要することだろう。

 今ほしいのは、期待はさほどでなくともすぐに呼び出すことの可能な、即戦力となる人材である。それも人目につかぬため、出来得る限り少人数であることが望ましい。

 無論。男とて理解してはいた。

 そのように都合のよい人材が、そうおいそれと存在しているわけがない。理想の探索風景は夢物語であるのだと。

 かといって、1人で出立するには危険が伴うであろうことも予測の範囲内にある。

 こうなっては、背に腹は代えられない。多少の不便と人目へのつきやすさは生じても、近隣の正式な兵力に助力を乞うのが適切であろう。

 確かこの地の付近には、森の守護を担う妖人族(エルフィア)の自警団があったか――


(――そういえば)


 ここでふと、男は人づてに聞いていたとある噂を思い出した。

 それは(さかのぼ)ること2か月前。

 妖人族の森に、天災にも匹敵する規格外級の超巨大魔物が襲来。里を含めた一帯を未曽有(みぞう)の危機に(おとしい)れたという。

 さらに驚くべきは、それを討伐せしめたのは1人の少女。しかも言語の関係で本来習うことすらできるはずのない魔法を、(はる)かな高純度で()る異界人の魔女だったというのである。

 無論、そのような根も葉もない噂に踊らされる男ではない。眉唾であることは確信していた。

 なぜならその時間その場所に、それほどの巨大な魔物が出現したという情報はなかったのである。信じる方が難しいというもの。

 大方森で何らかのイザコザがあり、それを外に漏らさぬために皆で口裏合わせをしているのだろうことに疑いの余地はなかった。

 しかしながら男は、この噂のある一点についてだけは真実であろうと推測していた。

 その一点とは、少女の実在。

 高い魔法の才を有すという異界人の魔女は、間違いなく森に存在する。

 その証拠――常人では知ることすら(あた)わぬほどの高位階の魔法が使われたという観測情報を、男は確かに入手していたのだ。

 むしろ、そうして得た情報から周辺を洗い直したことで、今回の発見に繋がったという隠された事実があるのだが――それはこの場では言わぬが花だろう。

 ともあれ、男はその少女に目をつけた。

 期待をしているわけではない。ただ、雑用程度には使えるだろうというある種の妥協。

 すぐに動け、戦力になるのなら、もう誰でも構わない――と、内心ため息混じりに選び取った結論。


「――使ってみようか」


 とある筋から得ていた資料を(あさ)り、記載された所在だけを雑に記憶して、男は部屋を飛び出した。

 男が去った部屋の中では、勢いよく閉じた扉が起こした風に乗って、資料の一枚がふわりと舞い上がり床に落ちる。

 そこに掲載されているのは、不鮮明に魔女を写した顔写真。

 白い髪をたなびかせて風に舞う、異色の瞳を持った少女の姿だった。

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