質問
ブックマーク本当に有難うございます。
感動で泣きそうになっています。
如何して。
何で。
この国の王妃である方がこんな所にいるのか?
さっきまでの美人を見れてラッキーお得お得、という気持ちは鳴りを潜め、自分の背中に冷や汗が伝っている事がありありと分かる。
本来なら陛下の隣で椅子に座って下々の様子を眺めているべき御方でしょう貴女は。
何で「そうよね!あそこのドレスは質がいいのよねえ」なんて最近の流行について話しているんですか。
むしろ貴女が流行を作る側でしょう。
何で「ゼブライ公爵家のオルル君はワイルド系って聞いたわよ?」なんてモテる男子を語り合っているんですか。
そこは自分の息子を推さないんですか。
むしろ凄いな周りのご令嬢達。
貴女達王妃だと知ってこんなに嬉しそうにしているのか。
いや、むしろ王妃だからか。
うまく彼女のお気に入りになれれば良縁か、ひょっとしたら婚約者の座を手に入れられるからか。
粗相をしたら、とかは考えないのか。
途端に彼女達の王妃へ向ける視線を恐ろしく感じ思わず身震いした。
考えないようにしよう、うん。
「そうそう、ミュート嬢はどんな人が好みなの?」
にこり、と女神の如き微笑をこちらに向けて王妃様が自分に問いかける。
どう返事をしろと。
周りの視線が一斉にこちらを向く。
「雨の日生まれの公爵令嬢」の答えを知りたがっているのだと、ひしひしと感じる。
「どんな人がいい、なんて……選べるような身でもありません。それでも良い人がいればいいと思います」
咄嗟に曖昧な返事をする。
公爵令嬢らしい笑みを返しながら。
今更ながら、自分が今大変面倒な状況にあることをはっきり理解した。
この国のどこを探しても王子以上の好物件はない事は明らかだ。
美形で王太子で整った顔をしたイケメン。
そんな自分の価値を最大に上げる彼を、きっと誰もが求めるだろう。
……そしてその座に一番近いのは、この地味な黒髪の小娘だと言うことを嫌という程知っている。
あの王子が入ってきた時に何割が恋に落ちたんだきっと5〜8割くらいかなあ、と死んだ目で思う。
さっきまで飲んでいた紅茶をやたら苦く感じる。
「そうなの。ミュート嬢なら、きっといい人が見つかると思うわ」
興味を無くしたように紅茶のお代わりを頼む王妃様に、ほっと一息着く。
そうです。だからやめてくださいご令嬢方その目怖いです穴が開きます。
さっきまでの子供らしさは何処行ったんだ帰っておいで、と頭の中で願うが、彼女達の頭にあるのはきっと人形めいた美貌の少年なのだろう。
候補筆頭の余裕なんか無い。ただ居た堪れない。
少し前の美人と同席だやったーの喜びを返して欲しい。
王妃様が陛下達と共に来なかったのも、今少女達と話しているのもさっきの問いも間違いなく偶然ではない。
自分の息子の、妻となる人間を見定めるためだろう。
王妃だと知らずに無礼な真似をする娘は、それだけでこれから先関わる価値は無いと判断される。
そう考えると自分は結構ギリギリだった。
畜生ゼブライ公爵家当主ザラド殿め。
馬みたいな顔しやがって。
5才の弟がザラド殿の絵を指差して「うちで飼ってるガバーリョに似てる!」と叫んだ時を思い出して少しだけ余裕を取り戻したが、それで少女達の目線が軽減されるわけでも王太子に相応しい雨の日生まれの女の子がゼブライ家から生まれて来てくれる訳でもない。
ちなみに最近それを祈願に教会に通いはじめた。上手くいけば高い身分の女性が身籠っているかもしれない。
淑女たるもの、最後まで希望を捨ててはいけないのだ。
閑話休題。
周りの探るような視線に微笑みで返したりお茶を注いでいたメイドに紅茶の量について耳打ちしていると、王妃様へのアピール会場となったティーパーティも終盤となっていた。
特に印象は残していないし、目立っていた訳ではない。
この美しいだけでは無く賢さもある王妃様なら、生まれた肩書きよりも中身で選ぶだろう。
きっと最初から積極的に発言した利発な娘が婚約者として選ばれる。
心待ちにしています、と声には出さずに呟いて、パーティの終わりの挨拶を聴いていた。
……しかし、知らなかった。
その後割とすぐ、もう一度城に呼ばれる事など。
それどころか、このティーパーティが全ての始まりと言って差し支えなかったことを、自分は、何も知らなかった。