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ティーパーティ




空から降り注ぐ日差しは、容赦無く肌を焼く。

ここまで暑く、激しい日差しが有るならこれも悪天候と呼べるのでは無いだろうか?


生まれた日は雨だったらしい晴れを厭う気性の自分にとって、こんなに暑い中ではしゃぐ周囲の少女達の様子は見ているだけで体温が上がりそうだ。



……特に、こんな場所に居るのなら。



アクスバリ公爵家息女、ミュート・アクスバリは8年前に両親の間に生を受けた。

そして今生まれて初めての社交の場となるティーパーティ、それも王家主催の同じく御年8歳となられる王太子様の婚約者決めの為のパーティに来ている。





ミュートは周りの妖精かお姫様の如き少女達ーー皆子供らしい可愛らしさと純粋さを持ち合わせて居るーーと比べ、特に顔が良いわけでは無い。


頭はそれなりに良くても、こんな麗しい城の庭園にいるくらいならよっぽど子供らしく家で子供らしく無い本を読んでいたいくらいだ。

それにも関わらずこの場にいて、しかも婚約者の最有力候補と(不本意にも)なって居るのは、自分が雨の日に生まれたからという馬鹿げた理由1つだった。


ミュートの住むクベストリア王国は、太陽王とも言われる建国王が雨の女神と共に創り上げたと言われている。

王は女神を愛し、女神は王を愛した。

互いを伴侶と決め最期までこの国に尽くした二人の物語は神話となりクベストリアの誰もが知る話だ。

女神が神か人かは定かではないが、それでもそんな神話のせいで、建国王の血を受け継ぐ王家では晴れの日に生まれた王子が雨の日に生まれた女を王妃として迎える事がしきたりとなった。


因みに8才に近い年で伯爵家以上で雨の日生まれの女子は自分だけだ。詰んだ。


偉大なカップルに対して感謝もしているが、面倒なしきたりを遺した事に関してだけは是非とも恨ませてほしい。

何しろ、周りの少女達の視線が痛いのだ。



自分の黒髪黒目は大衆の中にいては目立たないだろうが、金髪碧眼やら赤毛……と言っても本当に燃えるような緋い髪やら水色やピンクなどの中ではどうしたって浮いてしまう。


その癖にアクスバリと雨の日生まれのネームバリューがプライスレスしていて、チラチラと隠しきれない視線がこちらに向かうのだ。


今だって周りが仲よさげに雑談している中、誰にも話しかけては貰えない。話しかける?無理だ。

向けられるのは日差しだけで充分だと思いつつやたらとお高い椅子のふかふかな背もたれにもたれず姿勢を正していると、何処からか壮大な音楽が流れてきた。

直ぐに立ち上がり、皆揃って礼をする。




国王と、王太子が入場して来る。




齢40程だったであろう国王は太陽の光によく映える金髪と金色の目をしてまさに王という風格を備えていた。

日焼けした健康的な肌色が彼を若々しく見せてもその目は鋭く、老獪で狡猾な賢さが見え隠れしている。


筋肉質でうつくしい首筋と精悍で怜悧な顔立ちは彫像よりずっと整っていて、思わず頭を下げてしまいそうな、圧倒的な存在感を放っていた。




しかし、そんな貴人よりも少女達の視線を集めたのは隣の美少年だろう。

どう見たって父親似のその少年は最初、人形かと思った。

それ程、怖気立つ程人間離れしていたのだ。



人とは臓器を筋肉や骨で囲み皮膚で覆うことで出来て居ると本には書いてあったが、この少年は特別製で身体の中身に大理石を、肌を最高級の絹で作ったのだと言われても信じてしまいそうだった。

彼を創った神様はとてつもなくセンスが良いか凄まじく美しいのだろうと思う。



透明な硝子に金色の宝玉を埋め込んだ瞳は太陽がなくても瞬き、ふらりふらりと揺蕩う様に光が散る。

遠い距離からでは呼吸をしてるかは分からないが、動いているという事はしているのだろう。多分。


おうぞくってすごい。



軽く魂が抜ける美しさを崇めつつ眺めていると、国王が低くもよく通る声で挨拶を述べ、王子と共に椅子に座る。




パーティが始まる。

とはいえあそこまでの美しさを目にして緊張しない人間なんて存在しない。間違いない。

何処かギクシャクした動きで皆目の前のティーカップを手に取った。


……王室御用達な紅茶とお菓子はいっそ腹の立つ程美味だった。



さっきまで自己紹介と好きな物を語り合っていたご令嬢達の話題は既に見目麗しい王太子様に変わっていた。最もその話題にも声は掛けられないのだが。

暫くの間素晴らしい香りを堪能しつつ周りを見渡すと、少し離れたスペースに居る1人の女性が眼に入る。


余計な装飾の無い、しかし決して地味には見えない上品な群青のドレスを着た人だ。

結い上げた紺の髪のその人は優雅に紅茶を飲んでいた。

子供の集まりといえ周りに大人はいるのにその人に気付いたのは、遠くから見ても王家の人と遜色ないレベルの美人だったからだ。


近くに侍るメイドの人数からして見ても高貴な身分の方なのだろうが、見覚えが有るような無いような気がする……と思っていたら目が合う。




非常に麗しい微笑みの後、こっちに来た。




「可愛らしいお嬢さん方、ご一緒しても良いかしら?」



NOなんて返事は存在しない、そう直感した。

そんな声だった。

ええ勿論光栄ですヨロコンデー!





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