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先客


〜前回グロ回避して下さった方へのあらすじ〜


黒魔術儀式見物して帰宅・脱走して侵入したら先客がいて好みの顔だった。







宥めるのに2分かけた。

近付くのに3分かけた。

人間だと理解させるのに5分かけた。


過呼吸気味になっていたので笑わせてみたら痙攣し始めて話すのに10分かけた。



相手を人間と認識させる所から始めるコミュニケーションとは此れ如何に。

深夜別荘で若い異性二人の逢引だと言うのに色気のいの字もない。まあ彼からしたら深夜ふと扉を見たら鉄臭い酷い顔の少女が黒髪振り乱しながら此方を睨んでたんだもんな、何それ興奮する。


自分にとっても久しぶりに別荘に来たら知らない人が住み込んでいるし悲鳴を上げるしでなかなか悲惨だが良いだろう。必要なのは何故彼が此処に居るかで、場合によってはもう一度恐怖の底に突き落として二度と一人でトイレに行けなくしてやる。


壁にもたれて座っている彼を見る。先程まで床に突っ伏して震えていたが背中をつつき続けたらやっと起き上がった。ちょっと残念。


「…………んで?あんた誰だよ」


「何で最近流行りの恋愛小説のヒロインって名乗らず名前聞く相手に対して「名前も知らない人に名乗る名前なんて有りませんわ、貴方から名乗って下さいませ!」って言うんだろうね?開会の挨拶並みに要らないやり取りだと思うの……名前?考えるな感じろ」


「いやそんな小説ばっかじゃ無いと思う……おい待て答える気ねえな? 名前感じるって何だよ」


「ちょっと待って今突っ込まれた事に凄く感動してる。別に怪しい者じゃないよ?雑魚だけどアクスバリ家関係者だし。へいへい君も素性明かそうぜ幽霊さんよおー理由によっては奥歯ガタガタさせんぞ」


つい素性を隠してしまった。彼に本性をバラし対応を変えられたくなかったのか、まだ警戒してるのか。恐らく前者だろう。

けれど言った物は仕方ない。幸い教会に行く為地味な黒のドレスを着ているので、誤魔化せる。森を抜けたのでボロボロだし。

まあ違和感を覚えられても大丈夫だろう。アクスバリ家の息女がこんな所に来ると思うだろうか、いや思わない(反語)


「幽霊お前だろ目の焦点合ってねえよ怖えよ!此処の整備に雇われた、ただの庭師だよ。ちゃんと命令されて此処にいるしガウディさんっていう本家の庭師に推薦されてる。名前はベル。ベルナールだ」


「庭師!数年放置ですっかり荒れ果ててるから頑張ってね!応援はしてる!ああごめん、結局名乗らせたけど名前は……シオン。でも好きに呼んでね」


本名は言えないので昔この屋敷に植えた花の名を答える。思い付くのに数秒掛かったがベルが怪しむ様子はない。単純な奴め。


「何でこんな所に来てるんだよ深夜だぞ?寝ろ。それとも物盗りか?」


「物盗りって……奇遇だ全く同じ事考えてた。いや普通に夜行性拗らして夜のお仕事してたんだけど胃が痛い光景多すぎて逃げた先にこの家が。

ねる………練る?知らない単語ですね」


「何を言ってるんだ?眠いのか?眠くて頭が働かないのか?目が血走ってて焦点合ってなくて無茶苦茶怖い顔してる自覚あるか?あとやっぱ侵入者じゃねえか」


「しつれーな!ガウディさんは80歳の腰痛持ちでーそれなのに腹筋がばきばきー。でも腰もぼきぼきー。本家に普段いるから大体の人の特徴は言えるよー?」


だから大丈夫だ!と胸を張る。ちょっとマジで疲れているのかもしれない。もしくは憑かれてる。


「寝ろよ?でもそれなら、アクスバリ家の長女について何か知ってるか?」




こひゅ、と自分の喉が音を立て、警戒度が跳ね上がる。いきなり雰囲気が変わった自分に対して彼が驚いた顔を見せるが、構ってなどいられない。座り込んで頬杖をついていた手を掴んで引き、力の限りに握る。



「……………知ってるよ?でも如何して?」


「いやどうしてってか……次期王妃だろ?気になって当然じゃねえか」


「……ああ、なんだ其方(そっち)か。うーん?いや別に普通の人間だよ?あと次期王妃の器じゃない。何時か婚約破棄するんじゃない?悪評高いし」


ごめんごめん、と呟きながら手を離す。

実際自分の評判は割と悪い。嫉妬や普段の行いの悪さや殿下と並べた時の不釣り合いさの所為で、評価を上げる努力も無いので当然だが。


「いや仕える方に対して失礼だな?でも評判悪いってのは本当みたいだな。会った事はあるのか?」


「よく会うよ?鏡を見るのと同じ位の頻度で。大分残念な顔ですな」


「寝ぼけてんだろ?それとももう寝てんのか?適当な部屋……埃被ってないベッド有る部屋探してやろうか?」


「良いよ、別に。寝ようと思えば床で寝れる。でもそろそろ帰るかなー探されてたら悪いし。徹夜って初めてだけどこんな楽しい気持ちになるとは。勉強になったよ」


「床どころか徹夜かよ、寝る気ねえな?帰るって何時だと思ってんだよ暗いし危ないだろ。せめて夜が明けるまで待てよ」


「だが断る。心配は嬉しいけど大丈夫だよ?慣れた道だし帰りの足(ガバーリョ)は優秀だ。あと朝日が昇ったら新しい仕事があるしねえ。んじゃ話し相手を有難う、楽しかったけど君こそ少しでも寝なよ?」


また今度、と呟いて立ち上がる。部屋を出ようとしたら、声を掛けられた。



「なあ、随分前に此処で会わなかったか?」


「…………まさか。人違いじゃない?」



返事は無かった。行きよりほんの少し明るく感じる暗闇の中、ガバーリョの所まで歩く。面白い人を見つけた。また遊びに行こう。


家に帰ると使用人が騒がしかったので、玄関では無く書庫近くの小窓から屋敷に入る。本棚と本棚の間、分かり辛い隙間に身を潜ませた。古書の匂いが顔を撫でる。使用人に見つかったら、本を読んでいて寝落ちしたと言い訳しよう。今も自分を探しているかもしれない彼らには申し訳ないが、立ち上がる余力なく本棚にもたれた。



柔らかい眠気がやって来る。

瞳を閉じて、朝を待つ。

堕ちた暗闇でも、小さな出逢いでも。

どんな夜でも、朝は来る。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




目を開くと、ベッドの上だった。


誰かに見つかり連れてこられたか、と辺りを見渡すと仁王立ちのカメリアがいた。目に隈こそ無いが疲れの色が見えるし、やはり自分を探し回っていたかと軽く罪悪感を抱く。


おはようございます、と声を掛けられたがその声には隠れた怒りが混ざっている。家族にもバレてるだろうし、暫く夜の外出禁止かな。少しだけ残念だ。


部屋を出ると弟に会った。

先日10歳になった弟が、ドアを開けるとそこに居た。


「おはようございます、姉上。お帰りなさいの方が良いですか?何をして何処を怪我したんです?」


自分の方が身長が高い事もあるが、不満げにむくれる頰まで格好可愛いお年頃だ。

顔が似ていると時折言われるが、余り似ていないと思う。弟の横一直線に切り揃えた前髪は愛らしいし、自分よりぱっちりした二重は可愛らしい。

誰が見ても美少年だと言うだろう。流石母の遺伝子、良い仕事をする。


「あらおはよう。何のことかしら?教会帰りに書庫で本を読んでいのだけれど、つい眠ってしまったのよ。誰かが部屋まで運んでくれたみたい。迷惑を掛けたわね」


「首でも絞められましたか?切り傷でもつけられました?煙の充満した部屋に閉じ込められましたか?それとも訪れた人間が帰ってこない事で有名な廃墟でも燃やして来ましたか?」


口角は上がっているが目が笑っていない。

エスパーだろうか、我が弟は。全くもって優秀だ。

直ぐ怪我が無いか確認するのは如何かと思うが、どれも心当たりがあるのが哀しい。でも廃墟は麻薬の密売組織のアジトで爆破するように仕向けただけだから冤罪である。


「何のことかしら?そんな危ない事、する訳ないじゃない。怪我なんて無いわ、あえて言うなら本の読みすぎで目が痛いわね。煙?廃墟?心当たりが無いわ」


「では姉上が訪れた先々で何かが起きるのは偶然だと? 姉上が何と呼ばれているかご存知ですか?オカルト姫や台風の元ですよ?チャールズは全自動殿下へばりつ機と姉上を呼んでいました。勿論殴りましたが、少しは……自分を、大切にしてください」


弟の目元は、赤くなっていた。

手が震える。心配症、の一言で終わらせられるものでは無い。全部心当たりがあるし、彼の知らない所で死にかけた事もある。


今迄も何度か、怪我をして帰る度に弟を不安にさせた。帰ってこないと思った、と泣かれた。

辞めるわけには行かない。その選択肢は有り得ない。

王家から力でも加わっているのか、両親は止めない。

使用人も自分より身分の高い相手、それも次期王妃を相手に本気で抑える事など出来やしない。

行く先々の貴族の弱みを握り、財産を奪い、必要なら刃を振り下ろさせる女を気遣う者など居ない。

面と面に向かって無茶をするなと言うのは、目の前の優しい、亜麻色の少年だけなのだと気付いた。


優しい子だ。

弟もカメリアも、ただ書庫で寝てただけではない事に気付いているだろう。書庫の本は既に全部読み終わっているし、ランプも蝋燭も持ってなかった。月明かりだけで読書をするには限界がある。

それでも、踏み込まないでと自分が言うから、怪我の確認だけで済ませてくれるのだろう。

両親含めて、何処まで気付いているかは分からない。

特に母は勘の鋭い人だ。何もかも気付いていても可笑しくない。

止められないのをいい事に無茶をして、心配ばかりかけている。きっと死ぬ迄止まらない。


「……大丈夫ですわ、本当に。怪我はしていません。心配してくれてありがとう。酷い顔色よ?朝食を食べましょう。顔は洗った?」


膝を曲げて、目線を合わせる。やや長く伸びた髪をくしゃくしゃと撫でると、むずがるように首を振られた。お気に召さなかったらしい。

久し振りに手を繋いで歩こうと思ったら、カメリアに執務室に行けと言われる。両親からの呼び出しらしい。兄妹水入らずになんて野暮なんだ。


勿論拒否権は無い。

置き手紙のみの外出と帰宅を知らせなかった事への罰は、暫く外出禁止か習い事一日15時間かその両方が妥当だろうか。特に3年後には学園に入学する事が決まっている。これ幸いとみっちり絞られそうだ。

頭は優秀だがそれ即ち勉強が出来ると言うことでは無く、興味のある事にしか頭が動かない。言語学など使える物は兎も角、二度と計算する事が無い方程式とかどうやって解こうと思えるのだ。



数学教師のぐるぐる眼鏡を思い出して溜息をつく。


ちくしょう、むちをにぎったらよわみをにぎっておどしてやる。






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