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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
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押せば行ける!

今のところ一番気に入っているキャラは、おっさん達です。

 何故だ! 何故なんだっ! 確かに元々リア充共と話すのは苦手だったが、こんなにも酷くは無かったはずだ!

「元気出せよ、嬢ちゃん」

「人間誰しも苦手なものはある」

「嬢ちゃんはまだ若いんだ」

「それに他は完璧じゃないか」

「たいしたものだぞ?」


 だがしかし! 接客業において、接客できないなど致命的ではないかっ! 飲食店は接客で始まり、接客で終わるんだ! なのに、なのに! 接客ができなければ、何も始まらないではないか!


「しかしだなぁ……」

「ああ、嬢ちゃんは人里離れた所で生活していたんだろ?」

「なら、人と接するのが苦手でも無理はないんじゃないか?」

「これは慣れの問題だな」

「時間が解決してくれるさ」


 なっ!? ま、まさかあの野郎、設定に合わせて精神構造を弄ったんじゃないだろうなぁ!! いくら高性能な(ソフト)をインストールしても、肉体(ハード)が対応していなければ意味が無いんだぞっ!?


「そんな衝撃の事実を知ったって顔をしてもなぁ」

「こればっかりは数をこなすしかないぞ?」

「だが大丈夫」

「嬢ちゃんは強い子だ!」

「俺達がよーく知っている」


 お、おっさん達! そ、そんな強い子だなんてっ! ……知ってるし! そんなこと知ってるし! アンニュイな俺を演出していただけだし!


「これなら大丈夫そうだな」

「ああ、これで安心して行ける」

「そろそろ時間だな」

「頑張れよ、嬢ちゃん」

「俺達は仕事だ」


 え? どこか行っちゃうの? 本当に? 


「そんな顔をしないでくれ」

「仕方が無いんだ」

「俺達も働かなくては、金がな……」

「いつまでも一緒にはいられないんだ……!」

「わかってくれ!」


 そんな……、嘘だろ? いつも一緒にいてくれたのに、行ってしまうの? ……。


 ……駄目だ。心を強く持てっ! おっさん達にも生活があるんだ! いつも一緒の方がおかしいんだ! 甘えるな! 俺にも足が二本生えているだろう! その両足で踏ん張るんだ! できる! 俺は強い子だ! その足で立つんだ! 


「その意気だ」

「それでこそ嬢ちゃんだ」

「だが安心してくれ」

「困ったときは頼ってくれていい」

「俺達が助けてやる」


 さあ、早く行け。この決心が鈍る前にな。長くは持ちこたえられん。今の内に早くっ!


「くっ、こんなに辛いものとは!」

「娘を持つ親の気持ちが今わかった!」

「だがあの子の気持ちを無駄にしちゃぁならねぇ!」

「さあ、早く行こう」

「手遅れになる前にな」


 下を向くな! 前を見ろ! この場に立ち止まっていることを、おっさん達は望んじゃぁいねぇ! 進め! 一歩づつでいい! その一歩は人類にとっては小さな一歩でも、俺にとっては大きな一歩なんだっ!!


 小さなこと、小さなことでいいんだ。自分から動くことが、大事なんだ。何か、何かないのか!


 なっ!? 新たな来店客だと!? くそっ、まだ何も思い付いていない! 


 ……いや? ちょっと待てよ? これは、チャンスではないか? いや、チャンスに違いない! 言え! 言ってやるんだ! 一歩踏み出すんだろ、俺!


「い、いらっしゃいませ!」


 言った! 言ってやったぞ! ふはははははっ! やればできるではないか! 何を恐れていたと言うのか! マ、マスター! 俺、言えたっす! 見ていてくれたっすか!? え? お冷やとお手拭き? くっ、俺としたことが! そんな基本的なことを失念してしまっていたとはっ! え? 注文も取って来い? ぐっ、攻めるっすね! それでこそマスターっす、まあ見ていてくださいっす! 俺は成し遂げてみせるっすよ!


「ご、ご注文は、お決まりでしょうかっ?」


 え? まだ? くっ、俺としたことが、とんだ勇み足だったか! ここは一旦出直そう……。え? 決まった? な、ならば仕方がない、聞いてやろうではないか! ふむ、ふむ、確かに聞いたぞ! しばし待て! ……。


 マスター! マスター! 注文が取れたっす! え? 店内を走るな? す、すいません、つい嬉しっ! んっんっ、気分が高まってしまったっす! な、何でかはちょっとわかんないっすけど、以後気をつけるっす!


「ありがとうございました!」


 そのあとも何組かの来店があったが、すべて対応できた。ふ、ふんっ、こ、この程度どうということはない。さあ、今は片付け中だ。すでに店は閉まっている。ホールは俺の担当だ。塵一つ残すことは許されない。掃除は上から下!


 今日は新たな一歩を踏み出した。勇気を出して良かったと思っている。これならマスターにも評価をしていただけるのではないか? あっ、駄目っすか。流石はマスターだ。あの程度では一人前と認めることは出来ないらしい。


「クロエちゃん、仕事は終わった? なら帰りましょ?」


 む、もうそんな時間か。マスター、また明日もよろしくお願いするっす!


 今日の晩ご飯は、なにかなぁー。チラッ。ハンバーグがいいなぁー。チラッ。俺、今日は頑張ったもんなぁー。チラッ。


「今日の晩ご飯は、焼き魚よ」


 ……。魚か。いや、居候の身で我儘など言語道断! 出されたものを有り難く頂くのが礼儀ではないか!


「……もしかして、嫌だった?」


 えっ!? いやいやいや、そんな訳ないじゃないですか~! お姉さんの作ってくれた料理が、まさか嫌なんてある訳ないじゃないですか~!


「遠慮しなくていいのよ? 本当のことを言ってみて?」


 こ、こここここ、こんな往来のある場所で! か、顔が近すぎます!! さあ立って、立ってください! 膝が汚れて! ああ、でもそんな憂い顔も素敵です!


「全然我儘言ってくれないから、お姉さん距離を感じちゃって寂しいわ」


 そ、そんな、俺が意地を張っているばかりに、お姉さんに寂しい想いを!? な、何てことだ……。こんなことがあっていいのか? ……否、断じて否である! お姉さんは笑顔であってこそ真の輝きを放つ。その可憐な顔に暗い表情は似合わない!


「ハ、ハンバーグが、いい、です……」


 ……いいじゃないか、自分の欲望に忠実で何が悪い。十二才の女の子だぞ? 少し我儘な方が可愛い気があるじゃないか!


「ハンバーグ! ハンバーグがいいのねっ? じゃあ早速材料を買いにいきましょう!」


 う~ん、美味い! 労働の後に食べるハンバーグは格別だ。毎日食いたい。……だが駄目だ。毎日食べてしまっては特別感が損なわれてしまう。たまに食べるからこそ美味いのだ。


「自分の事を話してくれて嬉しいわ。私のことをお姉さんじゃなくて、マリアって呼んでくれるともっと嬉しいわ」


 え!? そんな急に名前で呼んでだなんてっ!! こ、心の準備が!


「やっぱりまだ難しいかしら?」


 や、やめてっ! そんな期待半分、諦め半分な顔でこっちを見つめないでっ!! な、名前で呼ぶなんて! 俺にはハードルが高過ぎます!


 ……だがいいのか? お姉さんから距離を縮めて来てくれているのだ。俺から行けるか? ……む、無理だ! そ、そんな恥ずかしいこと出来ない!


 ……ならば、今がチャンスではないか! この絶好のチャンスを逃してしまうのか!? 否である! お姉さんを名前で呼ぶチャンスなど今しかないっ!!


「マ、マリアさん」

「な~に? クロエちゃん?」


 ぶふぅあっ!! か、か、か、可愛い過ぎかっ!! 何だあれっ! 何だあれっ!! な~に? だって、可愛い過ぎるだろ! しかも、しかも! そんな、そんな笑顔付きだなんてっ!! 惚れてまうやろーっ!! 何ですかその笑顔は!? 満面の笑顔なんてレベルじゃねぇ! 俺に語彙力があれば! 語彙力がっ! ……もどかしい! この笑顔を言葉で表現出来ないなんて、もどかしいっ!!


 殺人級の笑顔を向けられた俺は、恥ずかしさのあまり二週間ほどマリアさんを避けた。一週間かけて歩み寄った距離を一瞬で空けられたマリアさんは、しばらく元気が無かった。……申し訳ねぇっ! 余りの恥ずかしさに、つい! あんな、あんな笑顔を真っ正面から受けたらっ! 申し訳ねぇっ!

マリア「はぁー」

同僚 「どうしたの?」

マリア「避けられてるの」

同僚 「は?」

マリア「名前で呼んでもらえたのに!」

同僚 「だ、誰に?」

マリア「クロエちゃん!」

同僚 「ああ」

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