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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
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三大欲求をね、甘く見てはダメなんですよ

 筆記試験だが、義務教育を終えている俺にとっては簡単すぎたな。だが三桁の計算、お前は駄目だ。途中でどこをどう計算していたのかわからなくなる。


「クロエちゃんすごいわ! どんな仕事でも紹介できちゃうわ!」


 おおう、ついにちゃん付けで呼び始めたよ……。ふっ、だが太平洋よりも広い心を持つ俺は許そう。好きなだけ呼ぶが良い。けして誉められて気分がいいからではない。


「あっ、そうだ。お昼の予定は決まってる?」


 あっ、え? 呼ばないの? 好きなだけ呼んで良いんだよ? ちなみに予定はありません。


「あそこの喫茶店で一緒にお昼にしましょ? 時間もちょうど良いわ」


 あっ! なるほど! 焦らしているんですね? このぉ、このこのぉ! そんな上級テクを使ってくるなんてぇ~! あっちで呼んでくれるんですか? そうなんですか!?


「さあ、いきましょ?」


 そんなっ、誉められたからってテンションが高い訳じゃないですよ? 普通だしっ! 先生に誉めてもらえなかったなんて事ないしっ! ないし……。……鬼っ! スパルタンっ! 少しは誉めろよっ! 人の心はそんなに強くはないんだぞっ! そんな罵倒だけで人は反骨心を維持できないんだぞっ! 魔法が無かったらな、とっくの昔に心が折れてたんだからなっ! 一瞬で過ぎ去ったけどなっ! この人でなし! 人な訳ないけど! 人でなしっ!


「どうしたの? そんな悲しそうな顔をしないで? 美味しいものを食べれば悲しくなんて無くなるわ」


 おっと、顔に出ていたか。ふぅー、気を付けなくては。つい過去の不満が噴き出してしまったか。その辺の蓋も弛くなってしまったようだ。


「そうだぞ、嬢ちゃん」

「ああ、ここの飯は美味い」

「休みの日もついここに足を運んでしまう」

「おすすめはこのスタミナ丼だ」

「バカ野郎、嬢ちゃんに食べきれるわけが無いだろ」


 まだいたのか。……だがその気づかいは、嫌いじゃないぜ。特別サービスに笑顔でお礼を言ってやろう。


「……ありがとう」


 ……けして気づかいが嬉しかったからではない。ないったらない! ふぅ、小声になってしまったが、ちゃんと聞こえていたようだ。だからそんな目で見ないでください。見ないで! お姉さんも頭を撫でないで! そんな年齢じゃない! 実年齢も設定年齢もな!


「何でも頼んで良いからね? 今日はお姉さんが奢ってあげる!」


 奢り、か……、ここで遠慮するのは失礼だな。かといってあのスタミナ丼は無理だ。いや、そんな笑顔でお椀を持ち上げたって食いきれないから。元の体でも無理! ……ここは無難にサンドイッチかな。


「それはそうと、クロエちゃん。住む場所は決まっているの?」


 注文を終えたお姉さんが、そんなことを聞いてくる。うん? そういえば宿のことを忘れていた。金はあるといえばあるが、そんなに多くはなかったはず。あとで出来そうな仕事の報酬を確認してから宿を探しにいかなければ。


「もし、まだ決まっていないんだったら、私のお家に来ない? 今ね、独り暮らしでお部屋が余っているの」

「え?」


 いやいやいやっ! そ、そんな! 若い女性が独り暮らししている部屋に転がり込むなんて! ちょっ、ちょっと俺にはハードルが高いって言うかぁ~。お付き合いをしている訳でもないしぃ~。


「私のお家は嫌?」


 ああっ! そんな悲しそうな顔をしないでください! 嫌な訳ないじゃ無いですかぁ! し、しかしですねぇ、世間体と言うものがですねぇ、ありましてね?


「あなたはまだ成人すらしていないのよ? 遠慮することないわ」


 確かに? 今は? 十二才の? 女の子ですけど? ……あれ? 問題ないんじゃね? 十二才の女の子が、大人の女性の家に住まわせてもらっても、問題なくない?


「……お願い、しても、いいですか?」

「もちろんよ! 所長! いいですよねっ?」


 こくんと頷く喫茶店のマスター。って、あんた所長だったんかい! 仕事しろよ!


「所長は趣味で喫茶店のマスターをしてるのよ」


 いやだから仕事しろよ!


 衝撃の事実と共に運ばれてきたサンドイッチを食べる。……美味いっ! 美味すぎるっ! 所長! いや、マスター! 美味いっす! 俺はこんなにも腹が減っていたのか! マスター! さっきは偉そうなこと言って、マジすいませんした! ここで労働者の鋭気を養うのが、貴方の仕事だったんすね! マスター!


 え? オレンジジュース? オレンジジュースなんて頼んでないっすよ? サービス? マスター! 渋いっす! マジ渋いっす! 背景にバーのカウンターが見えるっす! え? お代わり? いやいやいや、そんな、人様のお金でお代わりまでせがむなんて! え? お代はいらない? いや! そんな! 悪いっす! 俺が払うっす! 自分で払うっす! え? そ、そんな! 美味そうに食べてくれるその姿が報酬だなんてっ! それは! それは! 貴方が美味しいサンドイッチを作ってくれたからじゃないっすか! あっ! マスター! 話しはまだ終わってないっすよ!? くそっ! 美味すぎる! 食べるのを止められなくて、追いかけられねぇ! くそっ! 俺は、何て情けない奴なんだっ!


 ……はぁ、美味かった。マスターの男気、礼をもって返さなければ失礼だ。


「御馳走様でした!」


 ああっ! マスター! そんなコーヒーの豆を挽きながら、ん? お嬢さん、何か言ったかな? みたいな態度で返すなんて! マジ格好いいっす! 惚れるっす!


 ……決めたぜ。最初の仕事はこの喫茶店で働く! 給料なんていらねえ! 俺はあのダンディーなマスターに惚れ込んだんだ! タダで良い! 記念すべき最初の仕事はこの喫茶店がいいんだ!


「ふふっ、じゃあ向こうで説明の続きをしましょ? 申し込みの仕方がわからないと仕事を始められないからね?」


 相変わらず察しがよろしい。だが、今は気にならない。なぜなら、最高にハイな気分だからな!

おっさん達「いっぱい食べる君が好き~♪」

クロエ  「美味え!」

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