やっぱり女の子の服装はヒラヒラしたのが正義だと思うんですよ。
今回は結構喋ります。
ノロノロと着替えを終えると、髪を結ぶ。この世界では女性は髪を伸ばしているのが、普通なのだ。凝った結い方なんて何にもわからないので、肩甲骨辺りまで伸びている髪を、後ろで一つに縛る。ポニーテールですよ、旦那ぁ! これでくっ殺感がさらに上がったよっ! やったねっ!
ふう、何も良くないが、着替えは終わった。今の俺は、訓練時に着用していた物を身に付けている。先程まではそこら辺にありふれている量産型ワンピースみたいなのを着ていた。ちなみに色は、何か濁った赤みたいな色。安物なんだろうね。
今身に付けている戦闘服は、緑色をしている。濃いやつの。活動拠点が森という設定だったので、森に溶け込める感じの色合いだ。あとは、革製の胸当て、手甲、足甲をしている。これには、迷彩柄が施されている。……ええ、個人的な趣味ですが、何か? 先生にも、なに考えてんだこいつ、的な目で見られましたが何か!? でも、美人なお姉さんだったから眼福でした! ありがとうございます!
体にピッタリとフィットしているこの服は、実用一点張りのオーダーメイド制です。戦闘服にお洒落など不要。マフラーみたいなのを首に巻こうかなとも一瞬考えたが、不採用で! 何でかって? ……少しだけ冷静に判断できる部分が残っていたからだよ!
準備も終わったので部屋を出ると、心配そうな顔をした受付のお姉さんが待っていた。……ああっ、すいません! すいません! 情緒不安定ですいません! まだこの体に慣れてないんです! あの空間では怒濤のように予定を消化させられて、そんな暇が無かったんです! 疲労が蓄積されないのを良いことに、休憩無しで続けさせられていたんです! あっ! 言い訳してすいません! すいません!
「着替え終わったみたいね。……? 何だか変わった模様ね」
「私が考えました」
ああ、その困り顔、やっぱり素敵ですね! あっ、でもあんまりこっち見ないでもらえます? 今冷静に考えたら、何か恥ずかしいんで! その場のノリと勢いで決めたんですけど、何か恥ずかしいんで! 何かどや顔してすいません! 嘘です! 考えたのは、昔の人です! すいません! 考えついた人ごめんなさい!
「ふふっ、それにしても、そんなに本格的な装備を持っているとは思わなかったわ」
「か、狩りは私の仕事だったので」
まあ、お気づきかと思いますが、そういう設定です。婆さんと小娘の二人暮らし。狩りをするなら、どっちがする? そりゃ小娘だろ、的なノリで決められました。ええ、神のその場のノリと勢いで。
という訳で、戦闘訓練もみっちりと仕込まれました。あいつも初めての試みだったから、加減がわからなかったんだと思う。だって、ただの小娘にこんな戦闘力必要なの? ってぐらいに厳しかったもん。
そういう訳なんで、微笑ましそうにこっちを見るのやめてもらえます? 皆さん、察しが良すぎませんかねっ! あっ、やめて、そんな目でこっちを見ないで! 余計に恥ずかしいから! 恥ずかしいから!
精神に更なる追撃を食らったが、訓練所らしき所に到着する。ここで試験を行うのだろう。だからそろそろ手をにぎにぎするの止めてもらえます? いや、そんな名残惜しそうな顔をされても困ります。そしてそんな顔も素敵!
「これより実技戦闘試験を始めるっ! 何か武器は持っているか?」
持っているので頷いて返し、何でも入る(ただし、容量制限有り)手提げ袋からナイフを取り出す。手提げ袋の見た目は、小学生が持っている体操服入れみたいな奴。ただ、見た目的には丈夫に作られたよう作りはだから、ゴツく見えるけど。
始めるとか言っていたから、一応は構える。このナイフも戦闘用のナイフなので、今の俺が持つと相対的に大きく見える。
「ふむ、良い構えだ。私は君の攻撃を防ぐだけだからどんどん打ち込んできなさい。私に攻撃を当てるか、私が止めと言ったら試験は終了だ。心配はしなくて良い。回復用のポーションが用意してあるから、本気で攻撃してきて構わない」
なるほどなるほど、遠慮は要らないと……。皮鎧を身に着けて、小盾と片手剣を手に防御態勢をとる教官。そこには一切の隙は見受けられないが、とりあえずイケメンは死ねぇっ!
「!」
ちっ、顔面に向けて放ったファイアーボールは防がれたか。……ところで皆さん話しは変わりますが、この世界には魔法があるんですよ。……大事な事なので、二度と言いますね。魔法があるんですよ! ウキウキワクワクですよね! 他の事に気が回らなくても、仕方が無いよね!?
だが今は戦闘中だ。気を引き締めなくては。顔面に向けて放ったファイアーボールは防がれたが、それは陽動に過ぎない。放つと同時に駆け出して接近を試みる。……相手はまだこちらに気がついていないようだ。すかさずナイフを一閃! ナイフは教官の左太ももを切り裂く!
そのまま教官の後ろへと駆け抜けた俺は、教官の間合いの外で振り返る。そしたら驚愕の表情でこちらを見ている教官の顔が見えるではないか! ふはははははっ! ざまぁ見ろ! 先生の鬼のような教練を乗り越えた俺には、貴様の構えなど隙だらけにしか見えぬわ!
「な、何だと!?」
「まさか一太刀いれるとは……」
「だが奴は教官の中でも最弱」
「見た目に騙されて実力を計り損ねるとは………」
「鍛え方が足りんようだ」
なっ! 貴様らは受付にいたおっさん達! いつの間にここへ来ていたんだ!?
「あ、あなた達! ここは今、関係者以外立ち入り禁止ですよ!?」
「まあまあ、固いこと言うなよ」
「そうだぞ、マリアちゃん」
「俺達は嬢ちゃんが心配でな」
「だが杞憂だったようだ」
「ああ、素晴らしい動きだった」
リアルに森でサバイバルさせられた俺が、気づかないだと!? 奴ら、さては出来るな!? こんな時間に斡旋所にいるからまるでダメなおっさん達、略してマダオ達だとばかり思っていたが、間違っていたようだ。
「それに引き換え、マルクの野郎は……」
「ああ、まったく情けない」
「そんなことだから、オークごときに遅れを取るんだ」
「咄嗟に動けないでどうする」
「あの程度、反応出来なくてどうする」
くっ、おっさん達からすればあの程度は子ども騙しだと言うことか! ……まあ、子ども騙しだけど。
「面目次第もございません……」
「まったくだ」
「嬢ちゃんを見てみろ」
「俺達の論評を聞いて、悔しそうにしているぞ」
「あれぐらいの向上心が無くてどうする」
「少しは見習え」
なっ!? そんな、ほめるなよ! それぐらい普通だって! いや、でも、悪い気はしないな、うん。チラッ。人の賛辞は素直に受け取らないとな。チラッ。もっと誉めても良いんだぞ? チラッ。
「うんうん、素直なのが一番だ」
「ああ、真理だな」
「年相応で可愛いじゃないか」
「やっぱり女の子は明るくなくちゃな」
「女の子から明るい表情が無くなるなんて世界的な損失だな」
ばっ!? か、可愛いだなんて、誰に向かって言ってんだよ~! チラッ。そ、そんなの当たり前だろ~? チラッ。世界的な損失だなんて大袈裟だって~!チラッ。
「はい! 私も彼女を見習って、鍛練します!」
「ああ、頑張れよ」
「怪我、しっかり治せよ」
「ちゃんと飯食えよ」
「睡眠はしっかりな」
「体を大事にしろよ」
そう言って立ち去って行くおっさん達。おっとこっちに手を振っているではないか。笑顔で振り返してあげよう。断じて誉められたからでは無い。断じてな!
「ありがとう。実に実り多きものだった」
手を差し出しながら、兄ちゃんが近づいてくる。……ふむ、悪くは無いんじゃないか? 先生と比べると、象と蟻だが。だが、まだ貴様に心を許した訳では無い。手は握ってやるが、笑顔は無しだ。
満足気に立ち去る兄ちゃん。よく見たら右足を引きずっているではないか。対峙した際に悟らせなかったとは、中々やるな。少しだけ評価を上げてやろう。……少しだけだぞ?
「ふふふっ、次は筆記試験よ。着替えて少し休憩したら、始めましょうか」
な、なぜ、その様な可愛いものを見るような目で俺を見るんだ? た、確かに? 今の俺は可愛いけども? そんな、そんな目で見ないで! そんな慈愛に満ちた目を向けないで! 聖母マリアのような! 聖母マリアのような! だ、断じて違うぞぉ! 誉められたから上機嫌なのではない! 断じてな! そ、そう、試験を! 試験を良好な形でパスしたからだ! か、勘違いするなよぅ!?
ドナドナされていく俺。……ああっ! だからにぎにぎしないでぇ! そんな柔らかい手で、にぎにぎしないでぇ!
マルク 「えっ、あの女の子が試験者? やりにくいなぁー。何か泣き腫らしたみたいな目をしてるし……」
クロエ「死ねぇ!」
マルク「うぉっ、危ねぇっ! 何の戸惑いも無く顔面を狙って来やがった!」
マリア「デレデレしたクロエちゃん、可愛いっ」