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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
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戦場では予想しえないことが起きるものだ

「聞け、ひよっ子ども」


 木箱の上に立った俺は、目の前で整列する受講生たちに語りかける。


「畏れ多くも王太子殿下より、来る大襲撃を迎撃する軍へ参列せよとの下知があった」

「「「おおぉ……!」」」


 ははは、何を浮かれているのだ。この俺が朗報を伝えるためにこんな演出をするとでも思っているのか?


(はや)るな童貞ども、……おっとすまない、お前たちの中には女もいたな。この処ぶっ」


 バルさんの平手打ちが後頭部に炸裂する。


「このヴァージぶっ」


 ふふっ、そのように当意即妙なツッコミがあったら愉しくなってくるではないか!


「このへぶっ」


 ……ぶたれた。平手で頬をぶたれた! マリアさんにもぶたれたことないのに! バルさんがぶった!


「いい加減に君も淑女だということを自覚したまえ」


 あ、あれ? 本気で怒っていらっしゃる? え、えへ、お茶目なお約束ってやつじゃないですか……! 少しばかり調子に乗ったのは事実ですが、小粋なジョークってやつじゃないですか!


「君にこれ以上の言葉は不要と思っているのだが?」

「はひ、すいはへんへしは」


 くっ、必殺・上目遣いが効かないとは……! さすがはバルさん、おっさんたちとは格が違ったかっ。……それはそれとして、なぜ頬を引っ張る。俺を叱るときに頬を引っ張る決まりでもあるの?


「では続けたまえ」


 仕切り直しと言わんばかりに両頬を勢い良くサンドして行くバルさん。へへっ、良い音がしたのとあまり痛くなかったことをかんがみて不問としようじゃないか。


「んんっ、聞け! ウジ虫どもぉ!?」


 バルさん! なぜ台にしている木箱を蹴るのですか! 目が真面目にやれと訴えかけて来ていますが、俺はいたって真面目にやっています! 少なくとも今さっきのは!


「……」

「……」


 バルさんは静かに平手打ちをかましやすい構えをとる。


「ひゃぁ」


 対する俺は「もう、ぶたないでくださいっ」と言わんばかりに木箱の隅に丸くなってやったぜ! ふははっ、小鹿のようにプルプルと震えるおまけ付きだ! さも怯えているように見えるかろう!


「はぁ」


 ふっ、さしものバルさんとはいえ、チラチラと怯えた目を向けられるのは堪えたと見える!


「小芝居はもういいから先に進めなさい」


 俺にだけ聞こえる声量でバルさんは言った。……いや、止めたのバルさんやん。だが俺も一時期は社会に出て働いていた経験を持つ者だ。ここは空気を読む場面だな?


「お前たちが地面を這いずり回っていた成果を発揮する機会であったが、とある高貴な方より横槍が入った。曰く、学生風情にそのような大任を申し付けられるだけの実力があるのかとな」


 くくっ、目の色が変わったな。要するに嘗めておられるのだよ。そしてこいつらもそれに憤りを感じる程度には自分たちに実力が付いたと考えているのだろう。面白くなってきましたねぇ!


「そこで先方とここにおられるバルバドス教官との協議の結果、御前演ぶる!?」


 グーで殴った! グーで殴った!! ちょっと真面目な空気をぶち壊そうと思ってふざけただけなのに、グーで殴った!!!


「もう少しだけで良い、真面目でいられる時間を長くは出来なかったか?」


 ふっ、誰に聞いているんだ?


「無理です」

「あぁ……、そうか」


 疲れたように目頭を揉むバルさん。心なしかくたびれたように見える。なお、バルさんの宮廷での風当たりはかなり和らいだ模様。


 というわけで、御前演習である。設営のため幾日か日は要したが、王都近郊の平原に場は設けられた。我ら四十名と相対するは、最近新編された大隊の選抜メンバー四十名である。


 新編大隊の隊長は、俺らの参戦に異を唱えたとある侯爵の嫡男だ。構成メンバーは主流派有力貴族家の子弟である。つまり俺は宮廷の主導権争いに巻き込まれてしまったと言うわけだ。


 聞くところによれば、我が教え子どもは非主流派の子弟と言うではないか。……はぁぁぁぁぁっ、これだから政治は嫌いなんだ!


 だが、よくよく考えてみると、調子乗ってきた主流派を掣肘(せいちゅう)したい非主流派とそれに乗っかった王族の公認で相手をぶん殴っても良いということである。


 そう考えると非常に愉快なので、敢えて乗っかってやることにする。なに、相手は重装歩兵だ。こちらは戦列歩兵である。ふははっ、勝ったな! 安心しろ! 砲兵もいる!


 お互いに目視できる距離で相対し、合図の鏑矢が放たれることで開始された。まずやることはお互いに距離を詰めることだ。相手は近接戦仕様だし、こちらも有効射程まで近づかなくてはならない。


 見た目レギオンな奴らが盾も構えず行進してくる。こちらも小銃チックな杖を肩に担ぎながらの行進だ。スネアドラム、所謂小太鼓のリズムに乗っての行進さ。


「全隊止まれ」


 先に攻撃体勢に入ったのはもちろん俺たちだ。


「射撃用意」


 目算で百メートルの距離まで縮めた地点。


「第一射始め」


 短距離選手が十全の状態で走って十秒はかかる距離を完全武装の重装兵は一体どれ程の時間で走破出きるのだろうか。ましてやこちらからは射撃中である。盾を構えては走りにくいぞ?


「第二射用意、撃て」


 こちらの攻撃で相手に与えた損害は軽微。相手も貴族の子弟、障壁の一枚や二枚は張れて当然な上、金属製の盾を貫通しなくてはダメージは入らない。演習仕様の魔力弾では貫通は無理だ。しかし、衝撃は伝わる。現に奴らはゆっくりとした歩みでのみ距離を詰めて来ている。


 相手との距離が五十メートルを切った所で新たな指示を出す。


「砲撃用意、撃て」


 貫通こそしないもののそれなりの衝撃を与える波状攻撃が続く最中に、先程とは段違いの質量、運動エネルギーを正面からぶつければどうなるでしょうか? 正解は隊列が崩れます。というか崩れるレベルの質量をぶつけた。


「歩兵隊突撃用意。砲兵隊は歩兵隊の突撃後に再度砲撃し突撃せよ」


 ふははっ! ここからが本番である! 隊列の崩れたレギオンなど恐れるに足らず! 制圧こそが歩兵の本領なり!


「突撃!」

「「「うおおおおっ!!!」」」


 敵目掛けて駆ける我らの横を魔力塊が追い越していく。隊列も糞もない状態に追撃を食らった相手は完全に隊列が崩壊する。相互に援護の出来ない乱戦では勢いの勝っている方が有利、すなわち我らが優勢!


「とうっ」

「ぐぼぉ!?」


 隊長らしき奴にドロップキックをくらわせる。さすがに体重の軽い俺の一撃は、不意打ちとはいえダメージが浅いようだ。なので追撃の膝蹴りをくらわせる。


 相手を沈めてから周りを見てみる。タックルをかます奴、ストックで殴り倒す奴、銃剣突撃よろしく突っ込んで行く奴と色々いたが、概ね制圧は完了しているようだ。こっちも何人か倒れている奴はいるが、どちらが勝ったかは一目瞭然だろう。倒れた奴の顔を踏みにじっている奴もいるが、うん、良い表情してるし問題なしだな!


 だが、このままでは審判が来るまで暇である。なので遊ぼう! おら起きろ!


「ぶっ」


 強化した平手打ちを一発。起きなければもう一発いけたのだが、残念起きてしまった。


「おはようございます」

「なっ、えっ!?」


 やれやれ、現状に理解が追い付いていないようだ。優しい俺は彼に現実を教えて差し上げよう。


「貴隊は我が隊の攻撃により全滅いたしました」

「ば、馬鹿な! 我々が貴様らごときに敗れるなどーー」


 ふひ。


「よくご覧になってくださいな。例えばあそことかどうーー」


 視線を向けた先ではご令嬢が上半身を起こした(起こされた)男の顔面を蹴り抜いていた。


「おい、あいつ何したんだ?」


 たまたま近くにいた男子生徒に尋ねる。


「え? たしか浮気した上に、婚約破棄されたとか……」


 あぁ……、どうしようもねぇ奴か。


「止めてこい、さすがにあれ以上は死ぬ」

「え、はい……」


 気持ちは分かる、だが逝ってくれ。武運を祈る。


「てな感じです」

「あ、ああ……」


 いや、お前が引いてんじゃないよ。何かよく知らんけど、あんな感じで好き勝手やってたんじゃろ? まあ別にいいけど。それよりもだ。


「兜借りますよ」

「ああ……」


 おいおいいつまで呆けているんだ。どうでもいいけど。こっちはこっちでしっかりと締めないとな。何か落ちてた棒の先端にくくりつけてっと。


「敵将討ち取ったりぃっ」

「えいえいっ」

「「「おーっ!」」」

「えいえいっ」

「「「おーっ!」」」

クロエ「おい、なんだあれは」

生徒A「あー、えっとこの前のあれであいつに彼女を止めさせたじゃないですか」

クロエ「ああ」

生徒A「その時あまりにも止まらなかったらしくて、抱き締めたら止まったらしいんですよ」

クロエ「それで?」

生徒A「そしたらそれを親御さんに見られていたらしくて……」

クロエ「ああ……」


クロエ「……婚約おめでとう」

生徒B「うっ、はい……」

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