何かと縁のある一族のようだ
お久し振りです。思いの外に間が開きましたが、再開致します。以下あらすじです。
あらすじ
森を突っ切った。
次回
今回のも含めて説明会。
ちなみに二話同時投稿の一話目です。
突然だが、人はどうなった時に死を迎えるのだろうか。病により機能不全に陥った時? 大量に血液を失った時? それとも頭部と胴体が切り離された時だろうか……。
今、我々の前には血溜まりに倒れ伏す一人の騎士の姿がある。その飛び出んばかりに見開かれた瞳から見える瞳孔は開ききっているように見える。加えてその開かれたままの口と合わさり、心底驚いたまま死を迎えんとしたようにしか見えない。
音が消え去るとは正にこの事を言うのだろう。風のそよぐ音やその風に揺らされて擦れ合う木々の葉の音などなど、自然の営み以外の音が見事に消え去っている。
「いや~、見事な死にっぷりですね~」
なのですこしばかり気の抜けた言葉を呟いてみる。するとどうか、固まって身動き一つしなかった人達が時間を取り戻したが如く動き出した。
「なっ!? 何故ここに! 先程までっ、いや、それよりもだっ! モルガン!」
「ちょっと何てことをしてるのよ!」
皆さん、見事な慌てっぷりですねぇ~。内心ニヤニヤが止まりなせんなぁ~。ギョッとこちらを見るも倒れ伏す騎士に駆け寄る者もいれば、詰問してくる者もいる。未だに固まっている者もいますねぇ~。……おっと、まるで化け物を見るかの如くこちらを見ている奴までいるじゃないか。喧嘩を吹っ掛けて来たのはあちらではないですか。
「いえ、やっちゃいなさいと言われましたので」
「確かに言ったけど!」
とりあえず、質問には答えよう。聞かれたことに対して自分なりの答えを返すのは、円滑な人間関係を築く第一歩だからな!
「まあ、心配はありません。皆さんが思っているほどのことは起こっていません」
「はあ?」
まあまあ、そろそろネタばらしをしなくては嘘から出た誠になりかねないから行きますよ? 王都に到着早々に問題が起こるのは面倒くさいでしょ。俺はもう休みたい、ベットにダイブしたい。
「止まれっ! これ以上近づくことはっ!?」
ああもう面倒な、退けよ。
「ぐっ」
受け身も取れず地面を転がる騎士A。でぃすいずざぱわーおぶざだーくさいど。
「……何をしに来た」
えぇー、まるで俺が悪者みたい。喧嘩吹っ掛けて来たのそいつじゃん。
「ネタばらしをと思ったのですが、不要ですか。そうですか」
「待ちなさい」
帰ろうと思ったら止まられたでござる。
「ご隠居様、どうか最後までお待ち下さい。この者はまだ事を終えていません」
真面目な姉御は凛々しいねぇ。これで男勝りじゃなければ引く手数多だろうに……。あっ、すいません何でもないです。睨まないでください。
「どういう意味だ」
「この者、気分屋ゆえにこのままでは最悪の事態に。どうか最後までお待ち下さい! もうそろそろこの場への関心が消えてしまう頃です!」
「わかった。続けなさい」
「ありがとうございます」
やれ、とばかりに顎でクイッとやる姉御。いやぁ~、わかっていますねぇ~。俺の離れかけた関心を見事に繋ぎ止めてみせるとは、このクロエ感服いたしました!
んん、ここは姉御の顔を立てて最後までお付き合い致しやしょう。やることは簡単! 手の平と平を打ち鳴らすこと二回! たったこれだけ!
パンッ
パンッ
良い感じに乾いた音が出て満足です。ポイントは一回目と二回目の間にワンテンポあけることだ。意味は特にない。気分の問題です。
今度は何を仕出かすのかと皆が俺に注目していたので、倒れ伏す騎士に向かって手で指し示す。何とそこには血溜まりが無くなっていたのです。
「なっ!? 血溜まりが!! 傷も無いだと!?」
「一体何がどうなっているんだ!」
「大変です、ご隠居様! 脈がかなり弱く、このままでは……っ」
「何だと!?」
そうです、全て私の見せていた幻です。
ここで私は一つ提唱したい。人は最初に上げた死因に加えて、自分が死んだと思ったら本当に死にかねないと。こんな話がある。大海原で沈没した船の乗組員が何日も漂流した後に、救助の船が到着したのを確認すると気が抜けてそのまま沈んでいく話だ。……何か違う気がするが、そんな感じでお願いします。
「どういうことだ! 助かるということではないのか!」
「助かるとは一言も言っていませんが? 痛い」
「真面目にやりなさい」
ブーブー、暴力反対。あっ、やめて、真面目にやります! 比較的!
「ようは自分は死んだと勘違いしているのです。水でもかければ気がつくのでは?」
言い終わるやいなや本当に水を持ってこいと言う爺さん。別に水を持って来なくてもシバくなり、声をかけるなり外からの衝撃を与えれば良いのに。
「何を中空を見つめて……、まさかっ!」
「いえ、こうしていたらどのような反応をするのかなと思いまして」
「その様な悪い冗談は止めろ!」
いや、なかなかに悪くない反応だ。
「手段は、問わないから、やりなさい」
痛いっ、痛いっす姉御! 肩に爪が食い込んでるっす! やります! やりますんで!
ふぅ、とんだ目にあったぜ。これも全てこいつのせいだな。一瞬こいつの顎を蹴り抜いてやろうかと思ったが、そんなことをしたら本当に飛ばして仕舞いそうだな。
仕方ない、これで勘弁してやろう。
「み、水を、持って、来ました……!」
「えい」
「ゴハッ」
「「「…………」」」
ゲッホゴッホしている騎士。ふぃー、良い仕事をしたぜ。さてこれで万事解決したな、では俺はこれにて失礼しやす。
「待ちなさい」
えぇ、もおええやん……。色々と疲れましてん。
「色々と聞きたいことはあるけど、まずは水を持って来させた理由は?」
「ものの例えで答えただけですし、私は頼んでいません」
「ええ、まあそうね。でもなんで鳩尾に思いっきり踏み下ろしたのかしら?」
「最初は顎を蹴り抜こうかとも思いましたが、それは不味いかなっと」
「……」
「? 金的の方が良かったですか?」
「慎みを持った発言をしなさい」
「痛い」
「他にもあったでしょう」
「ビンタも考えたのですが、色々と要らぬ背鰭尾鰭がついて鬱陶しいことになりかねないかなと思いまして」
「……その場面だけを見たら、そうね」
ええ、そうでしょうとも。無責任な部外者は一割の真実に九割の嘘を混ぜて、自分にとって真実で在ってほしい話に変換しやがる。特に外に出ることの難しい奴らだ。俺は見世物じゃねぇ。
「……クロエ、あんたもうこの事に関心無いわね?」
「うん」
「うん、じゃ無いでしょ!」
「いひゃい」
どうして皆俺のほっぺを摘まんで伸ばすのか。これがわからない。
「んんっ、楽しんでいるところを申し訳ないんだが……」
「い、いえっ、楽しんでなど……!」
ええっ!? 楽しんでたの!?
「色々と説明が欲しい。が、とりあえず落ち着く時間も欲しい。後で迎えを寄越すので私の部屋に来てもらうぞ」
「は、はい、わかりました!」
筆頭侍女は大変ですな。まあ、頑張ってください。
「もちろん、君もだ」
うぇ!?
騎士B 「あの嬢ちゃんやべぇ」
騎士C 「一切躊躇無く踏み下ろしやがった……!」
騎士D 「あの筆頭侍女もヤバい奴じゃないのか?」
騎士E 「ああ、何たってあの嬢ちゃんを大まかにだがコントロールしているからな」
騎士F 「やっべ、こっち来るぞ!」
騎士一同「敬礼っ!」
クロエ (あん? 何やってんだこいつら)
筆頭侍女(また何か勘違いされている気がする……)




