折角魔術のある世界に来たんだから、必殺技っぽいものを考えたって良いじゃないか
ドラクエしてたので、間が開きました。
あと執筆熱が下がっているので、しばらく更新停止します。
再開予定の時期は、九月の後半です。
※予告無く変更する可能性もございます。
ちなみに次回から王都編です。
あれからも順調に行程は消化され、あと一週間もあれば先発した連中との合流地点である町に到着するだろう。しかし、ここで新たな問題に直面した。
「そろそろ肉が食いたいな……」
「言うな、余計に食いたくなる」
「時間的に無駄な時間は使えないからな……」
「狩りに回す時間は無いから山菜だけだもんな……」
「肉を食えないのがこんなに辛いとは……」
普段入ることのない森で狩りをするのは非常に困難だ。森にも個性があり、ひとつとして同じ植生の森は存在しない。一言で森と言っても、場所が違えば棲んでいる生き物もまた違う。例え同じ種族でも棲む場所が違えば、習性も異なるだろう。同じ国に暮らしていようが、関西人と関東人では違う様にだ。
何よりも行動を縛るのが、土地勘が無いために下手に離れると合流することが難しいことだ。もちろん不可能では無いが、距離に比例してその難易度は跳ね上がっていく。
太陽や星の位置を確かめられる程度の浅さの森を移動しているので方角を見失うことは無いが、獲物を追いかけた後に元の場所に戻るのはいかにおっさんたちや俺とはいえ非常に困難である。
加えてこの行程事態がかなりの無理の上に成り立っている。魔力行使の不自由なエミリーを連れて、戦闘もさせながら、必要最低限の休息を挟んでギリギリの日程である。俺が考えた。
……ええ、百パーセント俺が悪いことはわかっていますよ。肉なんて道すがら狩れんだろと、軽く見ていましたとも。実際は派手な戦闘を行って以来、小動物は近づかなくすらなりましたがね。……あれ、これも俺のせいじゃね?
と、兎に角、肉を手に入れる機会に恵まれなかった俺たちは、もう一週間ぐらい肉を食べていない。豊かな森なので空腹に喘ぐことはなかったが、心がひもじいと叫んでいる。
「まあ、あと一週間ぐらいの辛抱だ……」
「一週間か……」
「結構あるな……」
「これは以外ときつい……」
「魔物の巣に突撃する方が余程に気楽だな……」
くっ、俺の計算がガバガバだったが為に、おっさんたちに辛い思いを……! おっさんたちの肉体を維持するためには、大量のタンパク質が必要なはずだ! 俺は何てことを……! マッスルじゃないおっさんたちなんておっさんたちじゃない!
「はっ!? い、いやそういえば肉を食わずにこの体を維持する方法を探しているところだったんだった!」
「はぁ? お前は何を言っ、い、いやそうだったな! 俺としたことが忘れていた!」
「お前こそどうした。そんな話し聞いたこと、あったなぁそう言えば! うっかり忘れていた!」
「何だお前ら、とうとう頭がおかしく、ん? い、いや、最近物忘れが激しくてな! 参っちまうなぁ!」
「お前ら大丈夫か? そんなはぶらぁ!? 何しっ、てんだ俺は! この程度は試練の内にも入らんわ!」
……本当に?
「本当本当!」
「見よ、この肉体を!」
「旅の汚れでくすんでいるが」
「内なる輝きに曇りはない!」
「この程度で萎むなど、それは筋肉ではない!」
ふふ、おっさんたちがそう言うなら、そうなのかな?
「よしっ」
「ふうぅ」
「しゃぁっ」
「おらっ」
「しゃぁおらっ」
ん?
「何でもない」
「気にしないでくれ」
「些細なことだ」
「おかわりはどうだ?」
「果物もあるぞ?」
うむ、では果物をいただこうか。糖度はあまり高くは無いが、それでも貴重な甘味だ。……うまい。
「……楽しそうだな」
「ケヴィンさんは楽しく無いですか?」
「っ! い、いえ、私には辿り着けない場所だな、と」
「ふふっ、あの人たちは特殊ですからね」
「特殊……」
「特異かも、同じ道を辿ってあそこに行ける人はいないんじゃないかなぁ」
「そうですよね……。彼らは特別です」
「でも」
「でも?」
「彼らと同じ場所に立っている人はいますよ?」
「……その人も特別ですか?」
「いいえ、普通の人です。マリアさんって言うんですけど、あの人たちもマリアさんの言うことには素直に従います」
「普通には聞こえませんが……」
「んー、そう言われると、普通ではないかも?」
「やはり……」
「マリアさんはあの人たちを特別扱いしません。近所のおばさんと同じように接します」
「は?」
「それに対してあの人たちも普通の反応を返します」
「はあ」
「そしたら他の人たちもあの人たちに普通に接する様になりました」
「……」
「職斡所の人たちは皆同じ場所で笑っています」
「そう、ですか」
「はい」
むむ、あちらが何やらいい雰囲気になっている気がする。よし、水を差しに行くか! 特に理由は無いが、甘酸っぱい空気がこちらまで流れてきていてな。
「くっ、これ程とは……!」
「この歳ではとても耐えられん!」
「奴等は化け物か!」
「茶化したい!」
「だが、そんな野暮なこと……!」
おっさんたちはもう限界だ。ここは俺が行くしかあるまい。特に理由はないがっ! リア充爆破しろと、心が叫んでいるのでなっ!
「なっ!? 奴を見ろ!」
「あの野郎、手に触れようと!」
「これは致し方ない……」
「男爵命令だ、阻止しろ!」
「嬢ちゃん見せてやれ、フラグクラッシャーの力を!」
ヒャッハー、フラグはへし折るためにあるんじゃい!
「貴様、何をする!」
「例えお天道様が沈もうと、あまねく星々が貴様を見ているのだ」
「何が言いたいのか、さっぱりわからん!」
「平たく言うと、男爵より密命を帯びている。「娘とのフラグは全てへし折れ、誰が相手でもだ」と」
「くっ!」
ふははっ、空気が読めないのではない! 読まないのだ! あえてな!
「クロエちゃんは急にどうしたんですか?」
「うーん」
「この娘はこの娘で……」
「なかなかの者だな」
「俺たち必要か?」
「まあ、何事にも絶対は無いし……」
と、まあ昨夜はなかなか愉快な戯れあったのだが、問題の根本は何一つ解決していない。……そう、肉不足だ。
ぶっちゃけ俺も肉が食いたい。マリアさんに世話になってからはバランスの良い食事を食していたが、肉食偏重の時間の方が圧倒的に長いのだ。
「し、何かいる」
そんなことを考えていたら、進行方向に肉の気配だ。幸いこちらは風下、相手はまだ気づいていないようだ。この機を逃す理由はない。狩りの時間だ。
「ほう、ダイアモンドタートルか」
「また厄介な奴だな」
「甲羅に籠られたら、面倒極まりない」
「まあ、ほぼ確実に籠られるな」
「悟られずに遠距離で倒すのは困難だからな」
ふっふっふ、この場に俺がいることをお忘れか? ざっと二百メートルはあるが、この距離なら造作もない。奴は今夜のメインを飾ることは既に決定しているのだ。
「! その構えは」
「出すのか、あれを」
「久し振りに見るな……」
「嬢ちゃんの真骨頂」
「『想像上の兵器』を」
この距離から奴の頭を吹き飛ばすのは簡単だ。だかしかし! それでは面白くない。故に! 敢えて奴の甲羅越しに致命傷を与えようではないか!
ダイアモンドタートルとは、その名の通り物凄く硬い。奴の甲羅は三層構造になっていて、まず一番外側の六角形の板みたいやつ。この板は中心を頂点とした傾斜が施されており、一枚一枚がタイルのように並んでいる。こいつは傾斜装甲及び第二層に沈み込むようにして衝撃を逃がすことが可能なのだ。次に真ん中の第二層目、ここは衝撃吸収素材で構成されている。詳しいことはわからん。一層目で受けた衝撃を吸収する役目を持っている。最後に一番内側の三層目、亀で言うところの背甲にあたる。二層目で吸収仕切れなかった衝撃を受け止める所だ。ここはめっちゃ軽い。一層と二層は反対に結構重い。多分カーボン的な構成をしているにちがいない。
その他の身体構造も含めて極めて防御にステを振った様な生き物だ。その上、障壁まで張れる立派な魔獣だ。普通は見かけても狩れないので無視される魔獣である。
しかし、防御力はとんでもなく高いが攻撃力は無いに等しい。全高は一般男性の腰ぐらいなので質量もそんなにないし、スピードもないので威力がでないのだ。
狩るには非常に面倒な生物だが、基本草食なので食用として堪えうる存在だ。おまけにその防御偏重から自分から動くのは食事の時ぐらいだ。ならば狩るしかない。
俺の突き出された右手には光の粒子が集まり、徐々にある姿へとなっていく。今回の俺が選んだ武器はこちら、M107軍用対物狙撃銃モドキ。
個人携行が可能で装甲貫通能力の高い武器はこれかなと思ったので採用。RPGとかの方がそれに適しているとは思うが、見た目が格好良くないから不採用。
何はともあれまずは地面にバイポットを立てる。マガジンに弾が入っているか確認して、リロード。違うけど。後は色々と微調整を繰り返して、しっくりくる姿勢になったら狙いを付けるだけだ。
弾は既に装填済み、スコープを覗くときは両目とも開けたまま、息を軽く吸い込み止める、トリガーは絞り込む様に、弾は発射され目標に命中、目標からは断末魔が聞こえて来るが、こちらは発射時に巻き上げられた砂埃で不明瞭、排夾、不明瞭なれど目標は健在の模様、砂埃が落ち着き次第次弾発射、目標に命中、初弾命中時よりも弱々しい反応を確認、目標に動きなし、砂埃が落ち着き次第戦果を確認、……、目標の沈黙を確認、これを持って今作戦は終了とする。
ふぅ~~、疲れたぁー。狙撃は神経を使うから異様に疲れる。でも止めない。またいつかやるだろう。だって何か格好いいから。
「か~、すげぇな」
「甲羅越しとは」
「どうなってるんだ?」
「外側に甲羅が捲れてるぞ」
「まるで内側で爆発したみたいだ」
ふふ、その通り。今回使ったのは徹甲榴弾だ。装甲を貫き内側で爆発する。ダイアモンドタートルの甲羅がどれだけ硬かろうが圧力を一点に集中させれば抜けるはずという発想を基に度重なる失敗にも諦めず、成功するまで試行錯誤し続けた結果よ。
「何だ、今のは……」
「甲羅を貫通し、内側で爆発させました」
「いや、そっちではなく、……そっちも気になるが、それは何だ?」
「ああ、これですかーー。」
説明しよう! 一言で言えば全てただの幻である! 見た目、発砲音、マズルフラッシュの全てが幻視、幻聴の類いである! 頭の中で思い浮かべた兵器、今回の場合は対物ライフルを現実世界に投影しただけのものだ! ただそこにあるように見えるだけで実際には存在などしていない兵器、それが『想像上の兵器』だ!
要するに、装甲を貫通し内部で爆発する魔術と頭の中で思い浮かべた兵器を映像として現実世界に映し出した魔術を同時に行使したのだ。この同時行使はかなり難しい。映像と音声、さらに攻撃魔術を連動させるには長い時間が必要だった。でも俺は頑張った。さらに攻撃魔術が奴の装甲を抜けないという問題点も重なってきたが、俺は挫けなかった。何故なら綺麗に決まると格好良いと思ったからだ。実際格好良い。……格好良いよね?
超リアリティーを追究したごっこ遊びと言った方がわかりやすいかもしれない。自己満足の塊であり、無駄に過ぎる行為である。……だからどうした、浪漫を求めて何が悪い!
「と、まあこんな感じです」
「いや、うん、理解はした……、と思う」
考えるな、感じろ。さすれば自ずと見えてこよう。
「あまり深く考えるな」
「効率だけが正解じゃない」
「本人にとってそれが正解なら」
「それが正解なんだ」
「オリジナリティってのはそんなもんだ」
ーーその兵器は幻で出来ている。音は幻で、光も幻。幾度も試行錯誤を繰り返し。一度目で成功することは無く。一度目で失敗したことも無い。彼の者は常に独り森の中で妄想に酔う。故に、その研鑽に意味は無く。その兵器は、幻で出来ていた。
パパパッ
パパパッ
ギャリッ
クロエ 「ちっ、ジャムった」
天界の先生「妄想の産物なのにですか?」
クロエ 「仕様美です」




