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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
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由々しき問題が発覚したな

 由々しき問題が発生した。このままでは、到着予定日に間に合わない。そこでだ、ここは恥を忍んで、この問題を解決させてもらった。


「まあ、なんだ……」

「……気にすることはないさ」

「これは仕方がないことだ……」

「人には向き不向きがあるんだ」

「気にするなよ」


「………………いや、足を引っ張って申し訳ない」


 ねえねえ、今どんな気持ち? どんな気持ち? 「お嬢様は俺が守る」とか言っておいて、付いていけなくなっておっさんに背負われるのってどんな気持ち?


「くっ」


 ぷぷー、悔しそうですねぇ。身の丈に合わない試練に自ら乗り込んで、案の定途中で脱落するなんて、格好悪いですねぇ。お嬢様はまだまだ余裕そうですが、あなたはこれ以上の行軍は無理そうですねぇ。


「嬢ちゃん、それぐらいにしといてやってくれないか」

「男としてこれ以上は見ていられない」

「嬢ちゃんにも何か考えがあってのことだと思う」

「無意味にこんなことをする子じゃないもんな」

「だが、これ以上は逆効果だ」


 ふむ、そんなものか。以前ミセス・オーブリーに頼まれていた、根性を叩き直してくれという願いを叶えようと思っていただけなんだがなぁ。


 だがまあ、おっさんたちがそう言うんだ、そうなんだろう。なら、こんな足手まといに付き合う義理はない。何故ならば、俺は他の事で忙しいからだ。


 ああ、ああ、目につきますねぇ、目障りな(ぶつ)が。見かける端からぶっ潰しているが、そこら中にありやがる。目障りだ、消え失せるが良い。


「……あいつは先程から何をしているんだ?」

「ん? ああ、コボルトの罠を破壊しているんだ」

「……そんな物、あったか?」

「わりと頻繁にあったな」

「全部嬢ちゃんが壊していたが」

「しかもわざと痕跡を残して」

「ありゃ、誘き出すつもりだぞ」


 コボルト、死すべし。あの屈辱の日々、俺はけして忘れない。来る日も来る日も罠に嵌められては、なぶり殺しにされる日々。辛かった。悲しかった。俺はこんな間抜けな死に方しか出来ないのかと、本気で落ちんだ。そして何より許せないのはっと、間抜けにも姿を見せたなコボルトがっ!


「おっ、出てきたな」

「良く見ておきな」

「嬢ちゃんの七割ぐらいの本気を見れるぞ?」

「オーバーキルも甚だしいがな」

「もはやコボルトが可哀想だ」


 この間抜けめが! 罠にかけねば兎すら狩れぬ雑魚が、のこのこと出てきおったわ! その浅慮を後悔するが良い!


「うむ、実に無駄な全力だな」

「まあ、七割ぐらいのだが」

「あれで、七割だと……?」

「まあ、そうだな」

「まだ目で追えるしな」

「嬢ちゃんが本気だしたら、視覚情報は当てにならん」


 クハハッ、頭に血が上っているようだな! そのようなのろまな動きで、正面から戦おうというのか! 罠にかけるしか能の無い雑魚が、判断を誤ったな!


「……何があいつをあそこまで駆り立てるのだ?」

「昔、奴等に煮え湯を飲まされたらしい」

「だが、それはまだ序の口でな」

「何でも相手を嵌めて倒すのが、嬢ちゃんの戦いかたと被ってるらしい」

「真似されたとか言ってたな」

「それでそれが許せないらしい」


 このキャラ被り共が! 終いには俺の考案した罠をパクりやがって! それにかかってしまった俺の気持ちが分かるか!? 俺の作った物よりも洗練されていた物にかかった俺の気持ちが分かるか!?


 ……コボルト、赦すまじ。死で償ってさえ、まだ足りぬ。ああ、この感情のぶつけ先をどうしようか。熊でも出てこないだろうか。サンドバッグになれぃ。


「不味い……!」

「嬢ちゃんが怒りの捌け口を探している!」

「目が合ったら終わりだぞ!?」

「くそっ、こんな時にマリアがいればっ!」

「馬鹿野郎、無い物ねだりしてる場合じゃねぇ!」


 ちょうど良いサンドバッグはいねぇかぁ~。本気で殴っても壊れないサンドバッグはいねぇかぁ~。


「これはヤバい」

「闘気まで出し始めた」

「コボルトは何をしたんだ……」

「な、何が、どうなっている!」

「言えることはただ一つだ」

「祈れ」

「はぁ!?」


『我の森をこれ以上は荒らさないで貰いたい』


「何かいるぞ!」

「いつ現れた!?」

「おい、ヤバくないか?」

「この森の主か!」

「何て神々しい猪だ……」

「はぁ!? え!?」


『気を鎮められよ。森が動揺しておる』


 カハッ、何か来た! 頑丈そうなのが来た!


『うむ、我を失っておる』


 ケハハッ。


『まさに獣よな』


『喝っ!』


 グハァッ!?


「何だ、何が起きた!?」

「嬢ちゃんが吹き飛ばされた!」

「いや、訳がわからん!」

「起きていることは分かるが……」

「状況がわからん!」


 くそ痛てぇ……。何だ、何があった? 今、どういう状況? うおっ、何かデカイ猪がいる! いや、そんなでかくないけど、普通よりはでけぇ! しかも神々しい! 何かやべぇ!


『落ち着かれたか、人の子よ』


 えっ!? 喋れんの!? ますますやべぇじゃん!


『落ち着かれよ、人の子よ』


 え? あ、はい。……何だ? 何か急に落ち着いた。


「うん?」

「何だ?」

「急に冷静に……」

「不気味なのに不気味じゃない」

「良くわからん」


「ほっ」

「はっ!」


『落ち着いたか、人の子よ。それで何があって、あのように荒ぶっていたのか』


 えーと、それはですね、かくかくしかじか。


『ふむ、なるほど。どれ、ふむ……』


 あっ、そんなにじろじろ見られると……。


『うむ、やはり心の一部が壊れておる』


 でしょうね。あんな目に遭って、心が壊れてなければそいつは人間じゃない。


『あの御方も無理をさせられる。ただの人の子にさせるような事ではなかろうに……』


 あの御方?


『うむ、我らを造りし御方だ。そなたを鍛えた者は我と同朋よ』


 ああ、なるほど。……え? まじで? おいおいやばくねぇか? とんでもない相手に喧嘩吹っ掛けてたの、俺? ていうか、こんな話を人が聞こえるところでしてもいいの?


『心配には及ばぬ、我はそなたに直接語りかけておる。他の者には聞こえぬよ』


「さっきから何をしているんだ?」

「お互いに向き合って座っているが……」

「まるで対話をしているようだ」

「気にはなるが……」

「近寄り難いよなぁ」


「あんな神妙な顔もできるのか」

「う~ん、うん?」


 うーん、この喋らずとも会話が成り立つ感じ、久し振りだ。


『我もまた神格を持ちし者。この程度は容易い』


 ふーん。で、あんたはこんなところで何をやっているの?


『我はこの世界の文明がある一定のラインを越えないように調整する役目を与えられておる』


 ほう、文明を。


『然り。この森には文明を進ませるのに必要な資源が眠っておる。それを人の手が届かぬようにせねばならん』


 ふむ、確かに。資源なくして文明の進展は望めないな。


『故にこうして姿を表した』


 なぜ?


『この森には侵入者を阻む仕掛けが幾重にも巡らせてある。しかし、そなたの気はそれらを散らしかねん』


 うん? 神格の方が張った結界を乱すような力はないと思うけど……。


『否、そなたは神域の気を取り込みすぎた。リミッターの外れたそなたの気には、神気が少しだけ混じっておる』


 え、神気?


『然り。大海の中の一滴程の量であるが、それでも人は畏怖を感じ、神格に触れ得る資格を有しておる』


 ああ、通りで俺が闘気を纏うと人が萎縮するわけね。まるで化け物を見るみたいな目で見てきていたし。


『うむ、故に我が現れた』


 ご迷惑をおかけしました。


『否、謝るは我らが側であろう。本来、リミッターは容易く外れん。しかし、そなたは心の一部が欠損しておる。故に容易くリミッターが外れる』


 おおう……、そう聞くとなんかヤバそう。


『神気は魂の問題だ。肉体という器の無い状態で、長く神域にいたそなたの魂は軽く変質しておる。魂の問題に我は手出しできぬ。我は所詮は守護者であり、魂のことはあの御方に頼るしかない。ないが……、望みは薄いであろう』


 でしょうね。むしろこの状況ですら楽しんでいそう。


『然り……。心の欠損もまた魂の問題である。なんとも悩ましいことよ』


 要するに、どうしようもないと。


『然り。故に守護領域にはあまり近づかぬことだ。我以外の守護者には、問答無用で消しかねん奴もおる』


 ええ……、どこかも分からないのに?


『案ずることはない。そなたならば近づけばわかる。ここは人が入っても問題ない浅層のそのさらに外郭部分故にわからないだけだ』


 はあ……。


『感覚のこと故に言葉では説明できぬ。それとそなたは森にはあまり近づかぬ方が良い。一見では普通の森と見分けはつかぬし、何より大概の普通の森は守護領域と繋がっておる』


 唐突に活動範囲の制限を食らってしまった。


『うむ、不便を強いて申し訳ないが、我にはどうしようもない問題故にどうしようもないのだ。我には忠告以上の物を授けることさえ叶わぬ』


 いえ、お気遣い頂きありがとうございます。あの野郎なら敢えて他の守護領域に誘導しそうではありますが……、気を付けます。


『うむ、その可能性も否定はできぬ。……これを受け取られよ。我の昔に抜けた牙である。餞別だ。武運を祈る』


 忠告以外はできないのでは?


『ふふふ、要らぬ牙をどこに捨てようが我の勝手である。去らばだ』


 さよなら猪姿の守護者様。大事に使わせてもらいます。


「嬢ちゃん、落ち着いたか?」

「ん? それどうしたんだ?」

「猪にもらった」

「猪? そんなのいたか?」

「いや、いなかったと思うが……」

「いや、うーん?」


 あれ、どういうことだ? 守護者のことを覚えていない? まさか、おっさんたちの記憶を消して行ったのか? でなきゃあんなの忘れられるはずがないしな……。 さすが守護者、人智を越えているぜ。


「まあ、何でもいい」

「嬢ちゃんも落ち着いたことだし、先に進もう」

「そうだな、思いの外に時間が過ぎているみたいだしな」

「そんなに止まっていたか?」

「止まっていたんだろう、過ぎているんだし」


 うむ、先に進もう! 墓穴を掘る前にな!


 ちなみにエミリーは、ずっとあわあわしていた。

クロエ 「どんな気持ち? どんな気持ち?」

ケヴィン「くっ」

エミリー「あわわっ」


クロエ 「パクりがぁっ!」

コボルト「!?」

エミリー「あわわっ」


クロエ 「ケハハッ」

守護者 「喝っ!」

エミリー「あわわっ」



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