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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
25/39

実戦に勝る訓練はない

来週も投稿するとしたら、火曜日です。

 ここはトロア・王都間におけるトロアから一番近い町だ。昨日の襲撃を退けた俺たちは日が暮れる前になんとか辿り着いた。現在は町の入り口付近で別れの挨拶をしている。


「それでは我々は先に向かいます」

「はい、気を付けてくださいね」


 俺とエミリーとおっさんたちはここからは別行動だ。付け焼き刃な技術を確かな技術へと昇格させるために、人里を離れた行程で王都を目指すのだ。


「はっ、お嬢様こそお気を付けを」

「はい、と言ってもおそらく大丈夫だと思いますけど」


 そう苦笑しながらこちらへ目線をくれるエミリー。その様を見て護衛隊の隊長は、はっはっはっ、と笑う。


「確かにそうですな。これ以上頼もしい護衛もなかなかいますまい」


 うむ、確かに。屋敷の人間の一部から悪魔と罵られる俺と、トロア(いち)の猛者であるおっさんたちがついているのだ。町の外で遭遇する脅威の九割は排除可能だ。


「しかし、何事にも絶対はございません。くれぐれもお気を抜かれないように、お心がけくださいませ」

「……はい」


 ふむ、やはりこの隊長は出来る奴だな。先程までは気の良いおじさんだっが、最後の忠告だけは戦士のそれだった。纏う気配の変化に気づけない残念な奴には意味の無い忠告であったが、どうやらエミリーには意味のある忠告になったようだ。


「なに、クロエ殿たちの言に耳をお貸しになられるうちは、万が一なことなど起こりますまい! 適度に力は抜くものですぞ?」


 はっはっはっ、と朗らかに笑う様子を見て、エミリーも無駄に入っていた力を抜けたようだ。いや、良い指揮官だ。彼の部下は最高のパフォーマンスを発揮することだろう。まあ、それは道中で証明されていたが。


「では、これにて」

「はい」


 挨拶を終えた隊長は隊列に戻って行った。あの人の指揮する隊ならば、一行も無事に辿り着けるだろう。だが、先程も言っていたが、この世に絶対は無い。無事に辿り着けることを祈ろう。


「では、我々も出発しましょう」


 この町から王都へと続く街道は森を避ける形で続いている。俺たちは敢えてその森を突っ切って行く予定だ。直線距離では俺たちの方が短いが、整備されていない道なき道を行くため恐らく俺たちの方が遅く着く。


 俺にとってはホームと言っても良いぐらいに慣れ親しんだ場所である。この森のことはよく知らないが。おっさんたちにとっても活動範囲に入っている場所だ。違う森だが。しかし、エミリーにとっては不慣れな場所である。


 エミリーは元々ただの町娘だ。当然ただの町娘が森に出掛けるようなことは無いので、森歩きの経験など皆無だ。俺とおっさんたちだけなら隊長たちよりも早くつけるだろうが、未経験者を連れていては到底無理だ。


 さらに今回は元町娘に加えてお坊ちゃんまでついているのだ。歩みは遅々として進まないだろう。休憩も多く取らないと駄目だし、足を挫く奴も出るだろう。はぁ、面倒臭い。


「なんだその目は。お嬢様をお守りするのが、私の仕事だ」


 何も言っていないじゃないか、チェリー君。被害妄想はやめたまえ。


「だいたいその者たちは信用できるんだろうな」


 おいおい、おっさんたちが信用できるかだって? 出来ない相手を男爵が雇う訳が無いじゃないか。何を言っているんだ、お前は。


 だが、初対面の人間を信用するのが難しいのはわかる。そこでだ、おっさんたちがどのような人間か知ってもらうとしよう。


「ん」

「うん? ああ」


 見よ、この筋力を! この俺を軽々と持ち上げてしまうのだ! しかも片手でな! さらに肩の上に俺を座らせながら歩くことまで出来るのだ! ……なに? そんなに凄くない? はっ、馬鹿めと言って差し上げよう! おっさんが歩いている間に、俺は腕組みをしているのだ! これが何を意味するか教えてやろう! 俺の座っている方に体が傾いておらず! 歩く際に発生する縦振動は俺の太腿をしっかりと押さえることにより、無に等しいのだ! 見よ、この体幹力を! びくともしないわ! やっちゃえ、バーサーカー!


「どうです、この見事な肉体。貴方が小枝に見えます」

「……いや、そういう意味ではなかったのだが……。まあ良い、その者たちが信用に値することはわかった」


 ふん、どうやら納得したようだ。それにしても良い景色だ。目に入る範囲の人間の全てが俺の目線よりも低い。……素晴らしい、素晴らしいぞ! いつも見下ろされるのは屈辱的だったからな! 久し振りに乗せてもらえたと言うこともあり、大変素晴らしい景色だ!


「分かれば良いのです」

「……。私はケヴィンと言う。剣が使える」


 ほう、無視か。だが、自分から自己紹介を始めたことに免じて水に流してやろう。


「俺はシモンだ。武器はこの鉄仗だ」


 おっさんAことシモン。身長二メートルを越える大男だ。おっさんたちのリーダー的存在である。武器の鉄仗は六角形をしており、鍛造製だ。鉄というより鋼だが。これで木を殴れば、へし折れる。人を殴れば、骨が砕けた上で内臓は破裂するだろう。特筆すべき点は、普通は鉄の棒で木を殴れば手が痺れるが、膂力が木の抵抗力を凌駕しているので、手が痺れることがないことだ。


「俺はイヴァンだ。武器は弓」


 おっさんBことイヴァン。身長は百八十後半ぐらい。頼れる副リーダー的存在だ。武器の弓はとんでもない強弓で、オークの上腕に矢が命中した場合、腕を引きちぎった上でしばらく直進するぐらい。特筆すべき点は、その弓を連射できることだ。


「俺はガスパル、武器はこの剣だ」


 おっさんCことガスパル。身長は二メートル近い。剣とか言ってるけど、ぶっちゃけ大剣。自分とほぼ同じくらいの、分厚い鉄の板を剣の形にしたような代物である。特筆すべき点は、これを普通に振り回すことだ。


「俺はモルガンだ。俺も剣を使う」


 おっさんDことモルガン。身長は百九十そこそこ。剣は剣でもグラディウスを使っている。武器としては、おっさんたちの中で一番短い。他には円形盾を装備し、盾の内側には投げ槍が仕込まれている。ローマ兵とスパルタ兵を足して二で割った感じかな。特筆すべき点は、シールドバッシュの威力はダンプカーに匹敵することだ。


「俺はレイモン。魔術師だ」


 おっさんEことレイモン。身長は百八十ぐらい。徒手空拳の達人だ。このおっさんの拳は岩をも貫く。身体強化に特化した魔術師だが、初級程度の攻撃魔術も使えるので、中距離戦ぐらいなら戦える。しかし、強化された脚力で距離を詰めることが余裕なので、そもそも近接戦しか発生しない。特筆すべき点は、目で追えないぐらい早く動けることだ。


 おっさんEことレイモンは勿論、全員が天然の身体強化者だ。天賦の肉体に魔術師と名乗れる程ではない程度の魔力量を保有する選ばれし存在がおっさんたちだ。


 ま、あくまで俺の総評であって、真実かどうかは知らん。見た目以外は手合わせやらで得た情報で、勝手に推測した物なのであまり当てにはしないように。


 ……改めて思うが、過剰戦力以外の何物でもないな。小さな砦ぐらいなら占領できそう。まあいいか。自己紹介も終わったし、先に進もう。


「そろそろ行きましょう。ぐずぐずしていても時間の無駄です」

「お前はいつまでそこに乗っている気だ?」


 気が済むまでに決まっているじゃないか。何を言っているんだ?


「いいなぁ……」

「お嬢様!?」


 ふっふっふっ、いくらお前でも今回は駄目だ。なんたってお前のための行程だ。自分の足で歩かずしてどうする。……まあ、最後まで辿り着いて、目標を達成したら乗せてやらないこともない。


「乗りたければ、この試練乗り越えてくださいませ」

「え!? 本当に!? やったぁ!!」


 くっくっくっ、高見の見物といこうか。そのテンション、いつまで維持できるかな? 森の見通しは悪く、足元も不確か。木の根に足を取られることは当たり前、物音一つに神経をすり減らし続けるのだ。


 そして森に辿り着いた。森には一歩足を踏み入れただけで、空気が変わる。森に入るということは、人以外の生物の縄張りに足を踏み入れるということだ。


 ふむ、この森は随分と殺気立っているな。四方から気配を感じるが、場所までは特定できない。さすがは相手のホーム、先手を取らせてはもらえないか。


「ク、クロエちゃん、なんだか変な感じがするよ?」


 確かに。これは威嚇なんてレベルじゃなくて、ガチで殺しに来ている感じだ。普通ではない。普通は追い出そうとかそんな感じだ。殺し合いは仕掛けた側も少なくない損害を覚悟しなくてはならない。完璧な奇襲が決まればそうでもないが、こちらが気づいていることぐらい向こうも察しているだろう。


 エミリーもそうだが、ケヴィンも殺気に当てられているな。これでは良い動きが出来ない。だが、それも仕方がない。これは普通じゃない。


「どうする、これは予想外だ」

「うーん、取り敢えずあの二人を囲む感じ展開しよう」

「いや、待て。敵が動いた」


 おっさんが手をあげて皆を制止させるとほぼ同時にかなりの数のゴブリン先生が姿を表した。先生方に無傷な者はおらず、全員何かしらの傷を負っていた。


「こいつら、昨日の奴等じゃないか?」

「ああ、あの兵装は見覚えがある」

「時間や場所的にもその可能性が高い」

「ということは、この森が奴等の拠点だったってわけか」

「道理で殺気立っているわけだ」


 うーん、これは面倒だ。いくら先生と言えど、相手は死兵と化している。彼らの後ろには非戦闘員がわんさかといるんだろう。文字通り、彼らが最後の砦というわけか……。


「殺らなければ、殺られる」


 彼らは戦士だ。護る者のために、その命を捨てる覚悟を決めた戦士の目をしている。戦士は戦場で殺さなければならない。敬意を持って相手の命を奪うのが礼儀だ。


 おっさんの肩から飛び降りると同時にダガーを抜く。それが合図になったのか、先生方は雄叫びをあげながら突撃してきた。迎え撃つのは俺とおっさんたち。エミリーとケヴィンは動けない様子だ。だが、それも致し方無し。初陣にはきつい相手だ。


 彼らは一対一ではけして戦わない。数の有利を利用して攻めてくる。彼らは一対一では(かな)わないことを知っているのだ。けど悲しいかな、数で押したところで覆せる戦力差ではなかった。


 一体、また一体と数を減らす先生。どうやら俺と対峙しているこの先生が最後のようだ。他の先生よりも大きくその装備は立派である。恐らく長に相当する存在だろう。


 呼吸は荒く、肩は上下運動を繰り返している。体力は底を着いているだろうに、その目には闘志が未だに灯っている。……良い目だ。視線が合わさったのは、一瞬。次の瞬間には咆哮と同時に突撃してきた。だが、遅い。ただ踏み込んで、ダガーを振り抜いただけで先生は倒れ伏した。


「グッ、ギッ……」


 だが、驚いたことにまだその目の火は消えてはいなかった。明らかに致命傷。しかしその傷を負ってさえも先生は命の火を燃やし続けている。


 ……。


「お嬢様、彼の介錯を」


 俺はエミリーの前に片膝をつくと、右手でダガーを差し出し、左手で先生を指差す。


「……え?」


 怯えた様子で問い返すエミリー。心底訳が分からないといった顔をしている。無理は無いが、やってもらわなくてはならない。彼は一族を護らんと最後の瞬間まで戦っているのだ。今、この瞬間も戦っている。一秒でも俺たちの足を止めるために。


 そしてそんな彼に俺たちは最高の敬意を持って接するべきだ。だからこそエミリーに後を任せる。この中で一番の上位者であるエミリーが止めを刺すべきだ。


「む、無理です……! わたしには出来ません!」

「ヤれ、そしてあの目を忘れるな。生き物を殺すとはあの目をしたものを殺すということだ。それが、お前の選ぼうとしている道だ」


 彼のための行為でもあるが、これはエミリーのためでもある。生き物の命を奪うということは、それ相応の覚悟が必要だ。相手は家畜ではなく、自然界に生息する生き物だ。故に相手は必死の抵抗をてくる。


しかし、エミリーはなおも首を振り拒絶する。早くしなければあの火が消えてしまう。あの火と向き合わなくては意味がない。


「母親を殺した病を無くしたいんだろう。ならばヤれ。既存の薬では駄目だったんだ。ならば未踏の地に足を踏み入れ、新たな薬草を見つけねばならない。その地で何も出来ずに殺されるのか。相手も生きるのに必死だ。理由は数あれど、自分たちの縄張りに入ってきた者は排除しようとするものだ。必死な相手を倒せずにお前の欲する物は手に入るのか」


 エミリーの発する気配が変わった。……もう一押しか?


「自分で探すと宣言したのはお前だろう。人に任せず、自分で探すと言ったのはお前だろう。覚悟なき宣言など戯れ言だ。戯れ言に付き合う時間など持ち合わせさていない。今、覚悟を示せ。示せないのならば、お前との師弟関係はここまでだ」


 これで駄目なら、本当にここまでだな。他人のために自分の時間を使うには、それ相応の理由が必要だ。これを出来ないならば、俺がこいつに使ってやる時間なんざ無い。


「……ます」


 ……ほう?


「ヤります……!」


 ククッ、そうでなきゃ面白くない。俺はその目を見て、お前の夢に付き合うと決めたんだ。最初はその場のノリで答えたが、ノリだけでここまで付き合うほど酔狂ではないさ。


 さあ、小芝居に付き合わせてしまって悪かったな。まだ火は消えてはいないな? その覚悟、こいつにぶつけてやってくれ。


 エミリーは先生の左側に両膝をついて、両手でダガーを持つ。逆手に持ったダガーを少しだけ上に持ち上げると、キュっと目を瞑ると見開く。


「……わたしは貴方を乗り越えなくてはならないっ!」

「グギャァッ!」


 アハッ、最高だよ、先生! あの時間で手繰り寄せていた剣を掴んで最後に一撃を見舞うとは、素晴らしい! ……だが、すまない。そいつばかりは横槍を入れさせてもらう。エミリーにとっては必殺の一撃だからな。


 俺が先生の剣を蹴り飛ばすと、驚愕に目を見開いて固まっていたエミリーも動きを取り戻した。振り下ろされたダガーは先生の胸に突き刺さり、小さな呻き声を残してその火は消えてしまっう。


「戦乙女の導きが在らんことを」


 ……。やはり、先生は大切なことを一杯教えてくれる。


「えへへ、腰が抜けちゃった」


 たく、そんな情けない笑顔をするんじゃないよ。


「良く、やりました」


 まあ、こいつにしては良くやった方だろう。いつもニコニコ笑っているような奴だが、なかなか肝が据わっている。


「……クロエちゃんもそんな顔できるんだね」


 ……。そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をするほど驚くような顔かい? 思っているよりも余裕があるみたいだな。


「ここにいては彼らを埋葬する邪魔になりますね」

「……あの、どうして荷物のように担ぐの?」

「はて、今のお嬢様は荷物以外の何者でもないでしょう?」

「酷い!」


 ぐへへ、形の良いお尻が顔の横に。少しだけ揉んでもいいかな。俺のお尻とどう違うか試してもいいかな。……よし試そう。


「きゃぁっ、どうしてお尻を揉んだの!?」

「いえ、私のとどう違うかなと思いまして」

「そんな理由で揉まないで!」

「しかしお嬢様、もう少しお鍛えになられたほうが……。お年の割りに張りが……」

「やめてっ! 言わないで!」

「あ、私よりもお年を召していらっしゃいましたね」

「クロエちゃんの意地悪ぅ」


「何やってるんだか……」

「嬢ちゃんらしくて良いじゃないか」

「眼福眼福」

「良い尻だ」

「いやぁ、良いもん見れたな」

「……」

Side ゴブリン


ゴブA「大変だ! 昨日の人間が追って来たぞ! しかも完全武装だ!」

ゴブB「なに!? 本当か!」

ゴブC「どうする、我らは数を大きく減らしているぞ」

ゴブD「どうするもこうするもない、我らは戦うしかないだろうが」

ゴブE「族滅だけは避けなくてはならん」

ゴブ長「……女子供と戦えない者は避難させよう。戦えるものは手に武器を持ち、できるだけの時間を稼ぐのだ」

ゴブE「族長、避難民を指揮する者は誰に」

ゴブ長「……倅に任せようと思う」

ゴブ若「父上っ、私も戦えます!」

ゴブ長「一族には率いる者が必要だ。お前だ」

ゴブ若「しかしっ!」

ゴブ長「しかしもかかしもない! お前しかいないのだ……」

ゴブ若「くっ、父上……」

ゴブE「若、息子を頼みます」

ゴブC「妻や娘をどうか」

ゴブA「お頼み申す」

ゴブ長「東に向かえ。そこには私の兄がいる」

ゴブ若「……はい」

ゴブD「後は万事我らにお任せくだされ」

ゴブB「若は未来(さき)に行かれませ」

ゴブ若「……委細、承知した」

ゴブ長「うむ、……では我らは我らの役目を果たそう!」

ゴブ達「「「「「応!」」」」」

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