これは、予想外だったぜ……
仕事の関係で投稿に間が空きました。徐々に間を縮めたいとは思いますが、月に一回投稿できればいいかなと思います。
かつてこれ程までに自分の発言を後悔したことがあっただろうか? いや、無い。会話の詳細なんざ微塵も覚えていないが自分の発言はしっかり覚えている。そして自分の発言には責任を持つべきだと思う。
「……」
「……」
弟子を取ったからには、弟子のやらかしたことの責任も取るべきだろう。例えそれが訓練場の一画を吹き飛ばすような大惨事であってもだ。
「素晴らしい威力だね……」
「ありがとうございます……」
……どうしてこうなった? 俺は牽制程度の魔術を行使するように言った筈だ。手本も見せた。廃棄予定の鎧を着けた案山子に多少の焦げ目が付く程度の魔術をだ。それが何故彼女の行使した魔術は訓練場に風穴を開けているんだ?
「おいっ、ピエール目を開けろ!」
「あれほど不用意に近づくなと言ったのに!」
「この馬鹿者が!」
「タンカーはまだか!」
「はっ、ここは」
「気がついたぞ!」
隣ではコントが繰り広げられている。まあ、ちょっとした不慮の事故に因り俺が張り倒したんだが。
「大丈夫か?」
「記憶はあるか?」
「たしか、お嬢の胸に手が当たって……胸?」
「あっ、馬鹿」
「それ以上は駄目だっ」
「嬢ちゃんは胸が無いのを気にしてーー」
ほう、もう一度張り倒されたいようだな。
「ぐえっ」
「か、勘弁してやってくれ!」
「これ以上はっ」
「後生だ!」
「こいつに悪気はないんだ!」
「ただちょっとばかり口が滑っただけ……あっ」
成る程、おっさん達も同じ意見と。
「いっ、今のは違うんだ!」
「その通りだ!」
「言葉の綾であってだな!」
「額面通りに受け取らないで欲しい!」
「痛いな、お前ら本気で殴らなくても……ひぃっ!」
ふふふ、何をそんなに慌てているんだ? 俺は胸の大きさなんて気にしちゃいないぜ? だが今日は見比べられることが多くてな、辟易としているのは確かだ。いや、男が胸に目をやるのは生物学上致し方ないことだろう。俺も元男だ、その辺の理解は十二分にしている。しかし片方を見た後にこちらを見て憐れむやら何やらのネガティブな視線を向けるのは許されざる行為だと思わないか? 女にとって胸の大きさとは例えるならば男にとっての筋肉だ。イケメンかいなかでも良いし、身長の差とも言い換えられる。今の俺の容姿は控え目に言っても美少女だ。髪は太く重い黒髪でしっとりしている。もちろん天使の輪も出来ている。まあ、これに関しては毎日手入れしてくれるマリアさんのお陰だが、スレンダーな体型は俺の不断の努力に依るものだ。三食の栄養バランスを考えた食事に、毎日欠かさず行うトレーニングにより全身はしなやかな筋肉で覆われている。無駄な脂肪は無く、なれども女性らしい丸みを損なわない程度の量はキープしている。くびれもきっちりとあり、うっすらと腹筋が浮かんでいる。肋なんて浮いていない。顔に関しては基本的に整っていて、吊りがちな青い目が印象的だ。身長に関しては成長期ゆえにまだ低いが、今後に期待だろう。総評として、幼さは残るものの全体的に高水準で纏まっていると言える。少女から女性への過渡期へと差し掛かり始め故の魅力も合わさり、夜の独り歩きには注意が必要だ。まあ、その心配は杞憂だろうがな。対して弟子の方はどうかと言うと、二つほど年上ということもあり俺よりも高い女性性を獲得していると言える。髪は金髪でフワッとした細く軽い髪質。体型は俺と比べより丸みを帯びているが、くびれはしっかりあってバランスが取れていると言える。抱き締めると柔らかな感触が返ってくることを保証しよう。顔の造形は整っており、目は強いて言えばたれ目ぎみの碧眼。俺が綺麗系ならば、こちらは可愛い系だ。背は平均よりも低い。そして最大の特徴は胸がデカイ。一目でわかる。服を着ていてもすぐにわかる。対して俺は将来肩こりに困ることは無いだろうとだけ言っておく。総評として、女性に一歩踏み出し少女から脱却せんとする時期であり、世の男性の目を惹き付けてならないだろう。結局何が言いたかったかと言うと、双方共に甲乙つけがたいレベルの美少女だが、ある部分には隔絶した差が存在し、第三者連中によってそれを改めて突きつけられることが腹立たしい!
知ってるわ! 見たらわかるわ! そんなに巨乳の価値が高いのか!? 世の中には貧乳好きの紳士諸兄もいるんだぞ! 第一俺は気にしていない! だからそんな目で俺を見るな! 敢えて言おう! 俺は他人から見下されるのが大っ嫌いだ!!
ちなみに巨乳が好きか嫌いかで言うと、大好きです。同姓ということもあり油断しているのか隙がかなり多い。つい魔が差して手が延びそうになるが、俺は紳士だ。後ろから奇襲したり、前から強襲したりするような卑劣な行為はしない。弟子だから手を出しても良いんじゃないかと悪魔が囁きかけてくるが俺は鉛の精神でもってはね除けた。だって偉い人も言っていたではないか、紳士たれと。ちなみにマリアさんにそんな邪な感情を抱いたりはしない。母親や姉、妹に普通はそんな感情を抱かないだろ? ……おっと勘違いしないでもらいたいが、性的な意味で言っている訳ではない。目の前に触れば気持ち良さそうな物があれば、触りたくなるだろ? そういうことだ。
「何事だ! ……何事だ?」
破壊音に慌てて駆けつけて来たんだろう、普段はしっかりと整えられている髪や服が少し乱れている。軽く恐慌状態入っていただったろうに、目の前の光景で一気に正常な状態に戻ったようだ。
なんせ奥では訓練場の屋根近くに風穴が出来ており、その犯人は目の前の凶事にアワアワと慌てふためいている。最も強烈なのは、チンピラのような風体の成人男性を踏みにじりながらおっさん達に赦しを乞われている少女の図だろうか。カオスだ。
「なんだなんだ?」
「すっげぇ音したぞ?」
「何事ですか」
どうやら暇人どもが野次馬に来たようだ。だが、視線をそちらに向けると回れ右しだした。
「っ! おっと急ぎの仕事があるんだった」
「俺も母ちゃんに頼まれ事があってな」
「そろそろメンテナンスに出していた鎧が仕上がる時間ですね、取りに行かなくては」
おい、こっち見て喋れや。
「……とりあえず足を下ろしなさい」
……まあ、いいでしょう。
「で、何があったのだ」
「ピ、ピエールに辱しめられました……」
しくしく。
「……で、何があったのだ」
おい、無視するな。
「副所長、実は……」
「かくかくしかじかで」
「不慮の事故だったんです」
「ただ今日は嬢ちゃんの気が立っていて……」
「不幸な偶然が重なっただけなんです!」
「いや、その事はどうでもいい。……いや、どうでもは良くないが、あの大穴はなんだ?」
ちっ、誤魔化せなかったか。
「い、いや、えっとですね……。そうっ、壁が老朽化していたんですね! 牽制程度の魔術で壁が崩れる訳が無いんですから!」
「ふむ、まあそうかもしれないな」
よしっ、いける!
「三年前に改装工事が完了していなければ、その言は信じるに値したのだがな」
なっ!?
「そっ、そそそそそれはっ……そうなの?」
嘘だと言ってくれ……。
「すまない嬢ちゃん」
「残念だが……」
「事実なんだ」
「あの時も派手に崩れてな……」
「しこたま怒られたもんだ」
おっさん達……、何をしたんだ? いや、聞くまい。黒歴史を聞かれて気分が良い奴なんていないからな。いつか話してくれることもあるだろう。その時まで待つさ。
「わ、わたしがやったんですっ!」
うおっと、びっくりしたぁー。すっかり存在を忘れていたぜ。
「どういうことかね、エミリー君」
「はい……、わたしは昔から魔力のコントロールが下手くそで、今回のも過剰に魔力が流れたのが原因なんです……」
えっ、この規模で下手くそって言い切るの? 結構ヤバいレベルのやらかしだよ? 蛇口を少し捻った程度の水量で良いところを、消防用のホースで放水する程度の水量だったよ?
「成る程。で、この結果と」
えっ、納得するの?
「あのっ、一生かかっても弁償します!」
「いや、その心配には及ばない。そこにいる君の師匠が弁償してくれるのでな」
け、経費で落ちませんか……?
「そ、そんなっ、クロ、師匠にご迷惑をかける訳にはっ」
「弟子を取るとはそういうことだ。そうだろう?」
「も、もちろんですヨー」
声が震えるのはご容赦願いたい。討伐系や護衛系の仕事をまだ請けれないこの身にとって、壁の修繕にかかる費用などそう簡単に用意できるものではない。
「まあ心配には及ばん、支払いの目処は既に立っているも同然だからな」
んん? どういうこと?
「ちょうどその件で呼び出そうと思っていたところだ、ついて来たまえ」
エミリー「あわわっ」
クロエ 「ひゅ~、でっかい風穴だぜ」
エミリー「またやっちゃったっ」
クロエ 「幾ら掛かるんだろ……」(遠い目)