表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
17/39

良い感じの言い回しが思い浮かばなかった

 本日の襲撃も終了し、現在は職斡所の近くの食堂で食事中だ。


「はっはっはっ! さすがは嬢ちゃんだ!」

「素晴らしい即応性だな」

「伊達に俺達と訓練しているだけのことはある」

「元々動けていたけどな」

「違いない!」


 いやいやそれほどでも、あるかな? ふははははっ!


「……いや、君たち笑い事では無いからな?」


 あのときの顔面蒼白なバルさんは中々に面白かったなぁ。ぷふー。


「クロエ君の咄嗟の機転で有耶無耶に出来たが、下手すれば大問題だ……何が可笑しいのかね?」


 いえ、何でもありません。


「しかし、何て言ったんだったか?」

「えーと、確かだな……」

「『ふっ、決まった……』だったか?」

「いや、そこじゃねぇよ」

「そこも良いが今は違ぇよ」


 なぁ!? 声に出ていたのか!? なんたる不覚……! なんて恥ずかしい言葉を吐き出しているんだ! 穴があったら入りたいとは正にこの事! どこかっ、どこかに穴はありませんか!?


「ふっ」


 あぁ! 今笑ったな! バルさん笑ったな!


「いや、済まない」


 そんな笑いながら謝られたって信憑性が低いんだからな!


「いやいや、副所長が笑うのも無理はない」

「耳まで真っ赤にしてなぁ」

「顔を両手で覆って、プルプル震えていたるんだぞ?」

「微笑ましいったらないぜ」

「いやぁー、嬢ちゃんは可愛いなぁー」


 えぇいっ、頭を撫でるな! こんな辱しめを受けるなんて! 数時間前の自分を殴り飛ばしたい! ああっ、我に時間遡行の術を授けたまえ!


「で、なんだっけ?」

「何がだ?」

「嬢ちゃんの気の効いた一言だろ」

「いやだから『ふっ、決まっ痛い痛いっ、すまん嬢ちゃん! だから蹴らないでくれ!」

「ふははっ、馬鹿な奴だ!」


 このっ、まだ言うか!


「まあまあ、そのくらいで勘弁してあげなさい」


 バルさんはおもむろに立ち上がると、俺の脇の下に手を入れて椅子に座り直させた。


「ほら、このジュースでも飲んで落ち着きなさい」


 ふんっ、子ども扱いしないで貰おうか! うん、おいしー!


「このタルトは絶品だぞ?」


 ふ、ふんっ、た、食べ物で釣ろうなどと、安易に過ぎるのでは、ないか? ……美味いっ! このタルト美味過ぎぃ! サクッとしたビスケット生地に甘いクリーム、酸味の効いた果物がクリームのくどさを中和している。気づけば二口目を食さんとフォークをタルトに向けているではないか。


 お、恐ろしい……。自分の体を制御できないことが恐ろしい! 右手は俺の意に反してフォークをタルトへと運んで行く。一口大に切り分けたそれにフォークを突き刺し、俺の口へと誘う。


 くっ! 止めろ、それを近づけるな! 口が勝手に!? それを受け入れようというのか? 止めてくれ、蹂躙されてしまう。あぁ、口の中へ……!


 美味。


 味覚の暴力が口の中で暴れ回る。なぜこの感覚を拒絶しようとしたのだろうか? 自分が自分で無くなる? 受け入れてしまえばいいのだ。そうすれば全て気にならなくなるのだから。この至福な一時に身を委ねてしまえば良い。


「幸せそうだな」

「一噛み一噛みを文字通り噛み締めているんだろう」

「そんなに美味いのか?」

「さあ」

「嬢ちゃん、俺にも一口く危なっ!」


 グルルルっ、俺からこれを奪おうなどと、例えおっさん達だろうと許さん!


「ははっ、まだあっちに残って……、無いな」


 なら、尚更これを譲る訳にはいかんな。例えここで力尽きようとも死守する。幸せを噛み締めながら死ねるなら本望だ!


「嬢ちゃんが本気だ」

「今の嬢ちゃんに手を出すのは不味い」

「俺たちでも無事で済むかどうか……」

「なんて奴に火を着けたんだ!」

「くっ、まさかこんなことになるとは……!」


 良いだろう。今までの相対者では温ゲーに過ぎたからな。例え勝ったとしても無事では済まない敵と戦うのも心が踊るというものよ。


「あ、あの!」


 なんだ! 新手か!?


「これは渡さないっ!」


「ああ、君はあの時の。怪我は無いと聞いているが、大丈夫だったか?」


 何!? ……誰だ?


「え? はい、大丈夫です。えっと、そのことでお話があって……」

「そうか。まあ座りなさい」

「し、失礼します」

「で、話とは?」

「は、はいっ、危ないところを助けてーー」

「あれは君を危険から助けたのではない、瀕死のゴブリンに止めを差しただけだ。いいね?」

「あ、はい」

「話はそれだけかね?」

「え? あっ、違います! あの! わたしを弟子にしてくださいっ!」

「……一応聞くが、誰の弟子に?」

「あっ、クロエちゃ、さんです!」

「断る」


 そもそもお前は誰だ。なぜ俺を知っている。それと見ず知らずの奴を弟子に取らなくてはならない理由は? それに今は忙しいんだ。最後の一口をどちらのベリーにするか、……悩ましい。


 ぷちっと噛み潰した瞬間に果汁がじわっと口中に広がりクリームの甘さと絡み合うハーモニーを楽しめるブルーベリー系か、より酸味が強く噛む度に味覚の小爆発を楽しめるストロベリー系か……。


「あのっ、これは出された瞬間に人が殺到したタルトです!」

「弟子入りを認めよう」


 さあ寄越せ、今すぐ寄越せ、さっさと寄越せ! これで悩む必要が無くなった。食べ比べてどちらが最後の一口に相応しいかはっきりとさせようではないか!


「あ、ありがとうございますっ、師匠!」


 師匠、悪くない響きだ。だが今は黙れ。今は繊細な作業をしているのだ。少しばかりの雑念が入るだけで感覚が狂ってしまうのだよ。


「今の嬢ちゃんに話しかけるのはやめた方がいい」

「ああ、先程の発言を取り消されたくは無いだろ?」

「退くのもまた最善の策となり得るんだ」

「そして今がそれだ」

「さあ行け」

「は、はい!」


 う~ん、美味。


「彼女は君達に良くなついているな」

「へへっ、そうですか?」

「まあマリアには負けますがね」

「俺達にとっては娘みたいなものですよ」

「ほっとけないと言いますか」

「目を離すと何をするかわかりませんからね」

「……それには同意する」


 ああ、食べ終わってしまった……。


「そう悲しそうにするな」

「簡単に食べられないからこそ価値があるんじゃないか」

「美味しければ尚更な」

「また機会はある」

「先の楽しみが増えたな」

「……うん」


 悲しいことだが、おっさん達の言うとおりだ。簡単に手に入るものに喜びは感じないものだ。例えそれが世界一美味しい物だとしてもな。


「それはそうと、君はどうして言葉を探してから話すんだ?」


 な、何を、言ってるの、カナー?


「いや、どうも不自然にことばが途切れているように感じてな。たが、さっきの彼女との会話からはそれを感じなかった。そのときの君は関心がタルトにいっており、自然に言葉を発していたように思う」


 そ、そんなことないヨー。普通だヨー。


「何か理由があるのか?」


 な、何も? ありませんが?


「そうだな」

「俺達も感じてはいたが」

「今まで気にしないようにしていた」

「だが良い機会だ」

「話してみてくれないか?」


 お、おっさん達……。そう、だな。今まで目を瞑っていてくれていたんだ、腹を割って話してみるのも良いかもしれない。


「じ、実は……」

「実は?」

「女の子らしい話し方がわからない……」

「は?」


 いやだってそうだろ? つい半年前ぐらい前まで男として生活していたんだ。女の子言葉で話したことなんて一度もありません。


「俺、いや私って控え目に言っても美少女じゃないですか」

「え? あ、うん」

「やっぱり期待すると思うんですよ、見た目に相応しい言動を」

「まあ、そうだな」

「なんでせめても話し方ぐらいはそれに答えようかと……」


 男言葉を話す女の子を受け入れられるのなんて特殊な教育を受けた日本人ぐらいだと思うんですよ。それに今は女の姿なんだから女らしくしなければいけないと思ってもいる。


「まあ男性みたいな話し方をする女性は少ないな」


 そうでしょうとも。


「だが、いない訳ではない」


 うん?


「つまり、品を損なわない程度なら許容範囲というわけだ。少なくとも私は、な?」


 バ、バルさん……。


「そうだぞ嬢ちゃん!」

「嬢ちゃんの魅力は見た目だけじゃない!」

「言葉遣いの一つや二つで損なわれるものでもないしな」

「それにこの職斡所でそんなこと気にする奴なんていないさ」

「そうだろ皆!」


 えっ、皆?


「その通りだ!」

「そんなこと気にするなよ!」

「今さら取り繕うような仲でもないでしょう」

「ありのままの自分でいいんすよ!」


 お、お前ら……。また勝手に話しを聞いてたな!? 


「う、うるせぇ! 勝手に話しを聞くな!」


「なははっ、怒っても可愛いだけだぞ!」

「鏡で顔を見て来な!」

「容姿の良さは彼女も自覚していますよ」

「お嬢は可愛いなぁー!」


 お、おのれ……!


「くくっ、まあ今さらというわけだ」


 バルさん、さては知ってて話しを振ったな!?


「そう怒るな。実はここにもう一つだけタルトがある」


 な!? 下さい! お願いします!!


「だが三つは食べすぎだな」


 そ、そんな無体な! ご慈悲を! 何卒ご慈悲を!


「さてどうしようか」


 そんな! 少しだけ! ほんの少しだけでいいから!


「……君が女性らしい言動を覚えたら、悪女にも成れそうだな」

マリア「最近クロエちゃんと話せてない気がするの」

クロエ「え? 毎日話してーー」

マリア「触れ合いも少ない気がするわ」

クロエ「はあ……」

マリア「という事で、一緒にお風呂に入りましょう」

クロエ「!?」

マリア「……嫌?」

クロエ「嫌じゃないです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ