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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
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訓練とはいざというときに無意識で行動できるように行うものだ

 見る、ということはとても大切だ。人からの伝聞では情報量に不足もあれば偏りもある。立場が違えば注目する点も違うので人によって語られる部分が違うのも無理はない。立場が同じだとしても主義主張によっては着眼点も異なるのだから尚更である。


 今、目の前では虐殺が繰り広げられている。巨大な壁に猛然と突っ込む魔獣・野獣の群れは、人間が壁の上から統制射撃を行うことにより死体の山へと変わっていっている。


 あれを片付けるのが俺の、死体運搬班の仕事なんだぜ? ……笑えねぇよ。正規兵の皆さんは壁の上から奴等を釣瓶打ちに出来て気分は爽快かもしれないな。射てば中る、中れば倒れる、中らなくなるほど数が減れば射つのを止める。


 矢を射るだけの簡単なお仕事です! 面倒な後片付けと危険な追撃は職斡所の人間に委託! 痛快な気分を我々は保証します! さあ、貴方も正規兵にっ!


 毎年のように襲撃を受けているので市民からは敬意を持って接してもらえるし、無駄飯食らいやら憲法違反やら殺人の訓練をしている集団なんて言われないんだ。本当に自衛戦力は必要無いと思いますか?


 まあ、こんな愚痴は脇に置いておくとして、今日で襲撃を迎え撃って五日目になるんだが、いったいいつまで続くのだろうか。色々な野獣・魔獣が来襲して来たが、今現在はゴブリン先生が襲撃中だ。


 三日目の猪の群れが突撃してきた時は本気で震えた。だって壁に衝突を許したら揺れたんだぜ? 軽く高さ十メートルはある石造りの壁が揺れる程の衝撃力を備えた猪が、地面が三、猪が七の規模で突撃を敢行してきたんだぜ? 終いには白い大きな猪が現れた時には、あいつ祟り神になったりしないよね? と割とマジで危惧したもん。


 他にはオーク師匠の襲撃もあったな。体格、タフネス、パワーどれをとっても人間を凌駕する相手であり、こいつを倒せば一流の仲間入りと言われるお方だ。こちらは何度も攻撃を当てなくてはならないにも関わらず、師匠は一撃当てるだけで仕留めるに足りる攻撃を繰り出して来るのだ。


 パーティーで一体を倒せて一人前のパーティーと言われ、単独で一体を倒せば先程もいったが一流の戦士と呼ばれる。一種の基準として目されており、毎年何人もの挑戦者を屠っている猛者だ。俺も何度挽き肉にされたことか……。


 普段は単独で行動する師匠方だが、この時期は数百の集団を形成して襲ってくる。この驚異が如何程のものかお分かり頂けるだろうか? 残敵掃討とは言え、この集団を追撃するのは少数の精鋭でのみ構成された職斡所の戦闘員しか許可されていない。ちなみにおっさん達は先頭切って突っ込んでいっていた。


 猪、師匠程の脅威は無いが、侮れない相手がゴブリン先生方だ。体格もパワーも知能も人間には及ばないが、集団戦のプロである彼らは唯一攻城戦を仕掛けて来る。


 初めて対多戦を教えて頂けるのがゴブリン先生だ。加えて初めての人型、武器を持った相手でもある。初心者が単独で先生の集団と遭遇した場合、ほぼ百パーセント死ぬ。パーティーであっても良くて半壊だろうか。俺も何回も八つ裂きにされたなぁ……。


 なので最初の頃は先輩パーティーが直卒して討伐に向かう。ここで経験を積み、合格を貰って初めてルーキーと呼ばれる。先生方を単独で討伐できないパーティーは殻の付いたヒヨコですらないし、蛆虫以下の存在と言えるのだ。


 初日の先生方と違い、現在の先生方は精鋭のようだ。だが悲しいかな、如何に精鋭の先生方だとしても人類の頭脳で持って長い年月をかけて構築された防衛システムを切り崩すことは叶わないらしい。う~ん、ここまで一方的だと、あれを言いたくなるな……。


「圧倒的じゃないか、我が軍は」


 ……フラグじゃないよ? 鉄器時代の軍衆が中世の城塞に押し寄せて来ているだけだらね。余裕で弾き返せるんだよ。しかもチートな存在がそれを後押ししている。


「……何か言ったか?」


 おっと、近くに人がいることを忘れていた。俺が配属された死体運搬班の責任者であり、職斡所の副所長であるバルトルトさんだ。通称バルさん。俺がバルさん、バルさんと言っていたらいつの間にか定着していた。


 なぜバルさんがここにいるかというと、未成年であるところの俺を前線付近である死体運搬班に配属するのならば自分を死体運搬班の責任者にして欲しいと嘆願したかららしい。


 へへ、あんたのそういうところ、嫌いじゃないぜ? でもちょっと過保護に過ぎるんじゃないかな。今や単独で師匠を狩れるし、先生方も十ぐらいなら余裕ですぜ? そんな俺に常に張り付いているし、俺が文字通り死体を運搬している時には過剰な程に周りを警戒している。……眉間の皺が取れなくなりますよ?


 でもバルさんはすごいんだ。俺や周囲に注意を払いながらも部下に指示を出し、死体の運搬もこなしているんだ。そんな姿を見せられては周りも感化されて、かなりの効率で作業が進んでいる。


 現在の俺がいる場所は壁の上だったりする。……特権階級とのコネは持っているものだな。今回は特別に壁の上でゴブリン先生の襲撃を観戦している。当然バルさんもいる。風がすんごい強いので、ボソッと呟いた声は聞き取れなかったようだ。


 それにしても魔術師の火力は半端無いな。一撃放つだけで先生が十は吹き飛んでいる。それが一人じゃ無いんだぜ? 地上で作業しているときに至るところにクレーターがあって、俺は一次大戦の戦場にいるのだろうかと思ってしまったほどだ。まあ猪やらの死体を見て違うわとすぐに気付くのだが。


 とはいえ壁からの攻撃も散発的になってきており、そろそろ追撃部隊が出撃する頃合いだろう。下で待機するためにそろそろ移動しなければならないかな。


「クロエ君、そろそろ下に移動するぞ」


 バルさんも同じ事を考えていたようだ。同意して移動を開始しよう。


 下に着くとちょうど出発するタイミングだったらしい。先生に利用価値のある部位は存在しないので解体するために町中に運ぶ手間は無いが、装備は鋳潰して再利用できるので出来るだけ集めなければならないのが面倒だ。


 おうおう、見事に地面が耕されているよ。こんな中を突撃してくる奴らはどれだけ追い詰められているのやら。はあ、手近な先生から装備を剥ぎ取って、装備はその場に、死体は火葬するために適当なクレーターに運ばなければならないな。


 むむ、あの先生はまだ息があるな。……貴方は守るべき者の為に戦ったのでしょう。飢える者を救うために地獄とも形容される戦場へ突撃した貴方に敬意を表します。もう、苦しまなくてもいいのです。今、楽にしてあげましょう。……安らかな眠りを。


 ザシュッ。


「……ずっと聞こうと思っていたのだが、どうしてそうも平然と止めをさせる?」


 何を悩んでいるかと思えばそんなことか。


「そんな繊細な感情は遠の昔に失せた」


 それにまだ息のあるのに止めを差すのも仕事の内だ。


「っ」


 何をそんなに衝撃を受けたみたいな顔をしているのか。……いや、俺の過去を知らないだけか。あの精神と○の部屋で俺の中の価値観は全ロストしたからな。人間死の淵に立たされると否応なく能力は開花するもので、でもその代わり何かを失う。まあ俺の場合、現実世界なら何回死んでいるかわからないけど。


「きゃああ!」 


 なんて気を逸らしていたら悲鳴が聞こえてきた。こんな戦後処理のような場で悲鳴? 悲鳴のする方に目を向けると、今にも女の子に襲いかからんとする先生の姿が見えた。


 女の子と言っても中学生から高校生くらいで、この世界なら成人していてもおかしくない年代だ。魔術師然とした装いで尻餅をついている。どう見ても近接戦闘が出来るようには見えない。


「危ない!」


 バルさんが駆け出すが間に合わないだろう。サッカーではなぜパスが多用されるかわかるかな? ドリブルよりも早く前線にボールを運べるからだ。メッシのドリブル突破よりも俺のロングパスの方が早く前線にボールを送り込める。


 なので俺は魔術を展開する。俺にとって最速で殺傷能力の高い攻撃のイメージは銃撃だ。なのでイメージするのは弾丸を撃ち込む様。人差し指と中指のみを伸ばして先生を指し示す。


 先生は左腕が吹き飛び、複数の矢が体に突き刺さっており長くは持たないであろうと思う。仲間の死体に紛れて一矢報いようとするその精神は見事だが、少し間合いを計り損ねていたようだ。おそらく視覚にもダメージがあるのだろう。その距離はバルさんには短すぎる距離だが、俺にとっては遠すぎる距離だ。要するに余裕で間に合う。


 すでに先生に命中するイメージも終了している。因果の逆転を引き起こせる訳ではないが、追尾機能程度は付加されているんじゃないかな。つまり今回は必中。


 (セット)ち方、(ファイヤ)め!


 タンッ、タンッ、タンッと魔力で生成された弾丸が先生に向かって放たれる。拳銃をイメージしたので魔力弾は九ミリ弾の形状をしているんじゃないかな。初弾は剣を握り、振り上げている拳に命中し、剣を弾き飛ばす。二弾目は右脇腹に命中。三弾目は頭部に命中し、そのまま慣性の法則に従い先生を押し倒す。


 ……ふっ、決まった。会心の魔術行使だった。構築から発動、結果までもがイメージ通り。これらが一秒かかるかかからないかの時間でだ。完璧に近いな。


 先生の動きを追っていた女の子の顔がこちらに向く。どうやら俺が行使した魔術だと気づいたようだ。ニヤリと笑みを作り、ウインクを飛ばす。今の俺は最高にご機嫌だぜ?


 さあ、仕事に取りかかろうか。この死体の山を片付けるのが俺達の仕事だ。


「総員、仕事に取りかかれ!」


 パンッパンッと手を鳴らし指示を出すバルさん、思考停止から立ち直ったようだ。バルさんの指示を聞いて機能停止していた面々も動き出した。さすがバルさんだ。だが、その表情は苦虫を噛み潰したかのようだ。あっ、でも俺の近くにいるのは変わらないんですね。

クロエ(薙ぎ払え!)

着弾

先生方「ギャー」

クロエ(フハハハハッ、まるでゴミのようだ!)


***


バルさん(あああっ、未成年に戦闘行為をっ!)

クロエ (いやっふぅ~! イメージ通り!)

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