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女にされて異世界へ!?  作者: ゆりかもめ
12/39

甘く見ないでもらおうか

ストックが切れたので、毎日更新は今日で終了です。

 諸君、私は二度寝が好きだ。朝になり人が活動を開始する時間に一度だけ深い長い眠りから意識が浮上する。しかし全身に力は入らず、すぐに強烈な眠気が襲いかかってくる。これに抗わず再度意識を手放す瞬間が最高に快感だ。


 仕事の日はこの快感を味わえない。社会人は朝から活動を開始しなければならないからだ。もちろん全ての社会人がそうではないが、そんな人はそれほど多くないと思う。多分。それは異世界でも同じと言えた。


 俺は睡眠時間が長いタイプだ。長ければ長いほどいい。最低でも十時間は寝たい。それ以下の時間だと体が起床することを拒否してくる。それを強い意思力でねじ伏せて毎朝起きていた。


 だがそれは前の世界の話だ。こちらの世界は暗くなる前に仕事は完全に終了する。光源はあるが費用の問題で長時間の使用は非常に困難である。超金持ち以外は遅くても夕方には終業している。なのでみんな寝るのが早い。俺も早くなった。


 そうすると長時間睡眠など自然に出来る。朝もすんなりと起きられる。っていうか自然と目が覚める。この世界は天国かなと思う。


 前の世界で年末年始に十八時間勤務を二十連勤を経験したが、こちらの世界には労働基準法も無いのにホワイト企業しか無いのだ。


 こんなに素晴らしい世界だが、二度寝の快楽を味わうことは出来る。前の世界ほどの快感は無いが、気持ちいいものは気持ちいいのだ。


 二度寝という快感の余韻に浸り、体も覚醒しきったので布団から出る。頭は比較的早く覚醒するのだが体は遅々として覚醒しない。だが今日は休みの日、布団で時間を浪費しようが何の問題もない。


「あら、おはよう。本当に昼近くまで起きて来ないのね」


 リビングに知らない人がいた。


 ……ふう、どうやらまだ寝ているようだ。たまにやたらとリアルな明晰夢を視ることがあるのだ。夢の中で目覚ましを止めた直後に現実世界の目覚ましが鳴るなんてことも良くあった。


 こういうときはすぐに現実世界に揺り戻される。俺は詳しいんだ。さあ来い! この場合の覚醒は爽快な目覚めが確約されている! それもまた良し!


「何してるの? 顔を洗って来たら?」


 ……ん? おかしいな、夢じゃないのか? 覚醒までの間が長すぎる。ふむ。


 パンっ。


 痛い。どっちかというと叩いた手が痛い。乾燥肌なんだ。叩かれた頬はポカポカしてるね。


 うん、まあ、でも今ので目が覚めたわ。ちゃんと起きてるね。じゃあなんで知らない人がいるんだ?


「……もしかして、マリアから何も聞いてない?」


 聞いてないな。マリアさんの知り合いか? カップを片手に持ち、テーブルに座るその姿はこの部屋に良く馴染んでいる。まるで我が家かの様にリラックスしているとも言えなくはない。


「あちゃ~、やっぱりそうか。あの子、普段はしっかりしているのにこういうところは抜けてるのよね」


 マリアさんをよく知っているかのような物言いだ。だが気を抜くな。ペラペラとそれっぽいことを話せる人間は存在する。この部屋に入る方法なんぞ幾らでもある。……と思う。


「私はマリアの姉でアンナって言うの、あなたはクロエちゃんでしょ?」


 本当か? よく見れば似てなくもない気がするが、俺は人の顔を覚えるの苦手だからよくわからんな。全体のシルエットや声、話し方、仕草なんかの雰囲気で個人を判断してるから、各パーツの詳細を覚えて無いんだよなぁ。


「訳あってしばらくここでお世話になるからよろしくね」


 え、一緒に暮らすの? マリアさんと暮らし始めた時は少し特別な事情があったからすんなりと受け入れられたけど、いきなりよく知らない人と暮らすのは嫌だなぁ……。


「さあ、そんなところに突っ立てないでさっさと準備しなさい、朝……て言うには遅いけど何か食べるんでしょ?」


 え? あ、はい。


「え、それだけしか食べないの? 少食過ぎない?」


 いえ、あの、朝はそんなに食べられないです……。


「食べ終わったなら着替えて来なさい」


 え、なんで?


「早く!」


 はいっ!


「たくっ、あの子はどんな教育をしているのかしら」


 ……全然寛げない。知らない人がいるのもそうだけど、寝間着以外だとゴロゴロ出来ないから落ち着かない。……そうだ、訓練所に行こう。そうしよう!


 ……ん? なんだ? 何かに服を引っ張られたような。


「あそぼ?」


 振り替えると子供がいた。……今まででどこにいた?


「おにんぎょう」


 お人形……。


「だめ?」


 ……。し、仕方がないな~! お人形で遊んでやろうではないか! けしてお前が泣きそうな顔になったからではないぞ? 気紛れで慈悲をかけてやっただけだからな? 勘違いするなよ?


 人形を受け取ってやるとパアッと笑顔になって駆けて行った。あ、ソファーの裏にいたのね。


 しかし、お人形遊びか。……やったこと無いんだが? これまでの人生で子どもと遊んだ経験なんて自分が子どもの時だけだ。それも何も考えずに走り回ってた記憶しかない。


「こんにちは」


 お人形を片手に挨拶してきた。目線は人形にある。その目線が俺に向けられる。


 ……ふむ。


「こんにちは」


 人形を少し揺らしながら挨拶をし返す。すると合っていたのか会話が進められる。


「きょうはいいおてんきですね」


 正直、この女の子の真似をしただけだったんだが正解だったようだ。


 ふむ、なるほどなるほど。人形劇の要領でやれば良いんだな? しかも即興劇とは中々に高度な遊びではないか。ふはははははっ! よろしい! 我が演技力を堪能するが良い! 即興劇と難易度は高いが、よいその方が面白いと言うもの! 加えてこの幼女、幼稚園児ぐらいと見た! 言葉回しや表現、シナリオもそれ相応に設定しなければならないが、受けて立とうではないか!


 しばらくの間シナリオ、脚本、演出、役者が全て俺と女の子のアドリブの人形劇が開演されていた。女の子はお人形遊びには満足したのか次はお話を聞かせてと言ってきた。


 ふむ、次は声劇をご所望か。……良いだろう! その要望に応えてやろうではないか! 題材は何が良いだろうか。ぱっと浮かんだのは桃太郎。設定やら名前やらをこちら風に変えなければ内容はさっぱりだろうな。うーん、止めよう。


 女の子に桃太郎系っていうのも何か変な気がするのでシンデレラはどうだろうか。いや、これも微妙か。貴族とか魔法とかをこちらの観点から聞いたらどう思うか想像できないしな。


 こうなったら白雪姫しか思いつかねぇな。そもそもお姫様の話をそんなに知らないし、最大の懸念は鏡だが悪魔で押し通せるだろう。


 では行くぜっ、一人声劇!


「むかーしむかし、あるところに白雪姫というお姫様がいました」


「こうして白雪姫は王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


 ふうっ! 内容はうろ覚えだったが、まあいけただろ!


「へぇ~、上手ね」


 拍手をしながら知らないお姉さんが話しかけてくる。女の子も真似したのか拍手をし始める。


 ふふ、そう褒めるな。何百、いや下手したら何千時間と演技指導させられてきたんだから当然だ。どんな大根役者でも上手くなる。演技が下手なのは恥ずかしがるからか、自信がないから、あるいはその両方かだ。俺もそうだったが、あれだけやらされれば最早どうでも良くなる。


「……ありがとうございます」

「上手くやるコツとかあるのかしら」

「……」


 ……グイグイ来る。あの、いきなり話しかけられても困るっていうかぁ~。


「う~ん、まだ慣れない?」


 俺がそんな簡単に心を許すと思っていたのか?


「うーん、どうしたものか……」


 フシューッ! グルルルル!


「ただいま~」


 あっ! マリアさんだ!


「ちょっとマリア、ちゃんと説明しといてよ」

「え? 何を?」

「私のことよ」

「あら、話してなかったかしら。クロエちゃん、この人は私のお姉ちゃんよ」


 マリアさんの、姉というのは、事実のようだ。


「さっきからこの調子で全然仲良くなれないのよ」

「うーん、クロエちゃんは人見知りって言うか、警戒心が強いから……。前に話したでしょ?」

「想像以上よ……」


 ふんっ! マリアさんの姉というのは信じよう! だがあなたはマリアさんではない! あまり遠慮なく距離を詰めないでいただこう!


「めっ!」


 うん? 何だ?


「あら、エマちゃん大きくなったわね! 私のこと覚えてる?」

「うん」

「エマちゃんは何歳になったのかな?」

「ごさい」


 そうか、お前はエマと言うのか。


「クロエちゃんは何歳なの?」


 ほう、流れに乗じて俺が答えやすい質問を投げかけてくるか。なかなかやるではないか。だが俺はそんなに甘くはないぞ?


「めっ!」


 え、何? 答えろと? ……。ああ、わかったわかった。そんなに睨まなくても答えてやろう。


「……十二」


 ふははっ! そんな苦笑いしても俺の心は痛まないぞ! 家族からも煙たがられた生活を経験しているのだからな!


「だめよお姉ちゃん、クロエちゃんと仲良くなるにはーーをーーしてーーするのよ」

「なるほど」


 小声で相談ですか? いいでしょう、受けて立ちます。俺を懐柔するのは困難だぞ?


「クロエちゃん」


 何だ。


「お菓子をあげましょう」


 なに?


「欲しければ取りに来なさい?」


 ……いいだろう。その挑発、あえて乗ってやろう! けしてお菓子が欲しかった訳ではない!


 ふむ? わざと俺から目を切るとは、誘っているのか? 俺の意識が獲物に向いた隙に仕掛けるつもりか。古典的な罠だ。古典的だが引っかかる子どもも多い。だが残念だったな! 見た目は子どもでも中身は大人だ!


 あれ? 何もしてこなかったな。何も仕掛けてこなかったが、こちらを窺っているのはわかっているぞ?


 だがこの焼き菓子に罪はない。美味しくいただくとしよう。……うん? 何だ、お前も欲しいのか? そうかそうか。どうだ、美味いか?


「おいしい」


 ふはははははっ! そうであろう、そうであろう! この俺が手ずから分け与えてやったのだ! 美味くない訳がない!


「ふふふ、何となくわかったわ」

「あとは時間をかけて、焦ったら駄目ね」

「ふう、それにしてもエマは短時間で随分となついたわね」

「クロエちゃんは孤児院の子ども達にも人気なのよ?」

「へぇ、でもそれは何となくわかるわ。さっきエマの相手をしているのを見てたから」

「クロエちゃんは男の子にも人気なの。上手く男の子のプライドを煽るんですって」

「それはそれは」


 ああ! カーペットの上にポロポロと落としてる! 掃除が大変なんだぞ!?

アンナ「で、あんたはいつ結婚するの?」

マリア「ふふ、秘密」

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