ティータイムー1
「ちょっと待った。……って、視線が痛いから。」
占領したオルヴィス王国の議場脇にある、王族専用の休憩室と思われる部屋にロウェル、ハルシュフィード、ルキの3人はいた。
調度品が一目で一等品とわかるものばかりで揃えられていたため、王族の物と考えたロウェルだったが、さすがにここまで揃えられると、見栄を張るばかりの小者に見えてくる。
その部屋のソファに腰掛け、ルイナ女王と顔見知りであった訳をルキに話していたのだ。
「話しの腰を折るなって言いたいのはわかるけどさ、そこで女官長を呼ぶのおかしいでしょ?だって、茶の髪に茶の瞳ってフェリオール王家の血が流れてるってことでしょ?前王の第二夫人レナ・フェリオールの暗殺の事でまだフェリオール王家はエルニスから独立するって騒いでたよね?そこで王城に侵入してしかも、一般人でーす、なんてありえないって。」
「おや、感心ですね。貴方が、その辺りの政に見識があったとは。フェリオール王家の身体的な特徴は、かの一族が選民主義の考えを持つ一因でもあり、有名な話しではありますが、レナ夫人についてや、エルニスの裏で生じていた揉め事についてまで、スラスラと出てくるとは思ってもいませんでしたよ。」
「これでも、伯爵家の跡取り息子ですよ、俺。それに、その時代はオルヴィスの独立運動に便乗して、リリンも立ち上がろうとしてたから、よーく覚えてるよ。」
「ほう。」
と一言、だが、怒気を孕んだ呟きにルキは苦笑いを浮かべる。
「しょーがないですって。今はそんな事、全然ないけど、あの時代はしょーがないんですって。」
ーーーーーあの時代。
それは、まだロウェルが辺境の地に住んでおり前王が栄華を誇った時代から、王位について5年目までの事である。
英雄王とまで言われた侵略の覇者、ハルヤは宝飾と地下資源を盾に独立を守り続けた北国の大家オルヴィス国と、手先の器用さと堅実な探求心を国民性として持つ工業国リリンを掌握し、エルニスの全盛期を築き上げた。
そこで、支配に置かれた国々は地位の向上のために、ハルヤ王やその息子ティールに自国の姫を嫁がせた。
中でも独特の髪と瞳を持つため、人々を率いるべく神々から遣わされたと信じられていた、北の大家オルヴィスのフェリオール王家の血を引く娘が嫁ぐ際には、当然の事ながらティールの側妃ではなく、第二夫人としての地位が用意された。
ここで、第二夫人、レナが子供でも産めば両国の結びつきは強固なものとなり、穏便に事が進むはずであった。
しかし、あろう事かレナは第一夫人により毒殺されたのだ。
これに対し、厳正な処罰ではなく隠蔽を図ろうとした事で、オルヴィスではレナの父親であるギルヴェルトが独立運動を起こしたのである。
これに支配国は便乗。
内乱が頻発し、税は上がり、国民も疲弊。
政治は混乱を極めたのである。
そこでロウェルが王位を奪取したため、内乱は収束を見せたが、エルニスの疲弊を好機と見ていたリリンとオルヴィスは、事あるごとに独立を訴え、武力を整えていた。
血濡れた王家の時代である。
だからこそ、リリンの重鎮、レグナート伯爵家の次期当主、ルキ・レグナートは納得できなかったのである。
「言いたい事はわかる。だが、あの時の瞳は決して策士の目ではなく、本当に命を賭けている者の目だったのだ。」
「オルヴィスの復興にフェリオール王家なら命の一つや二つ賭けるでしょ?」
ふぅっと息をついた王が、お前にはわかるまいと呟き、これまた休憩室に備えられていた温かな高級茶葉をふんだんに使った紅茶を一口啜るのだった。