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魔女の生まれた日

作者: 日文

シリーズ物の前提の話となります。

これでもまだ説明不足だなぁとは思うのですが……どう組み込めば違和感がないか判りませんでした。

とりあえず遠い遠い昔の、失われた記録の当事者達の話?

 遠い遠い昔、世界は人が覆っていた。

 数と知恵と力により、人は世界が自分たちの物だと思っていた。

 人はより多くを支配しようと、武器を発明し、開発し、殺傷能力を上げていった。

 そうしていつの間にかボタン一つで世界を滅ぼせるような武器を作り上げてしまった。

 それも一回ではなく、数十・数百という回数で。

 そこまでやってようやく、人々は危ないことをしているのではないか、と思い始めた。

 人間は各国から代表を出し、武器を、平気を減らす方向で会議を始めた。

 しかしどの国も自分の国の武器を減らすことを良しとしなかった。

 減らしたとたんに侵略でもされたらどうするんだ、と言うのが彼らの言い分でした。

 自分たち以外の国の武器を減らすことに躍起になり、とうとう減らそうと言う話をしていた武器を互いに向け、誰かがボタンを押した。

 世界を巻き込んだ戦争。

 兵士という人を駒にした殺し合いではなく、遠隔操作で都市の人間を殺せる武器でのやりとり。

 あっという間に世界から人は減り、大地は荒廃し海は干上がりかけた。

 世界が終わる。

 そう思わせるだけの環境に変質していた。

 人は生きることに必死で、人として積み上げてきた数も知恵も力も無くし、それこそ獣とそう変わらない状態に陥っていた。




 一人の少女がいた。

 世界が変わってから生まれた少女だ。

 彼女は水を願い、雨を請うた。

 雨が降った。

 大地は完全に力を失っていなかったため、雨は大地に吸い込まれ大地に活力を与えた。

 大地は息を吹き返し、緑が芽吹いた。

 少女は偶然かと首をかしげ、場所を変えて再び雨を請う。

 雨が降った。

 なるほど、と思い少女は出来る限り様々な場所に移動し雨を願って大地を潤した。

 歩いていける限りには限度がある。

 走るにしても体力に限りがある。

 どうにか方法はないかと思い、移動を願った。

 少女は知らない場所に移動していた。

 その場所で雨を請い、そして移動する事を繰り返した。

 一年がたち、二年がたち、ようやく世界は息を吹き返した。

 人の手が入る前の状態で。

 大地に残る種が、思い思いに芽吹いただけに。

 それでも、世界が終わると絶望しかけていた人々は希望を持った。

 緑が蘇った大地を耕し、かろうじて残っていた種を植え育てた。

 少女はその光景を見て微笑んだ。




 世界は揚々と息を吹き返し、人は再び増え始めた。

 人が増えれば争いが起こる。

 余裕がない故の争いから、余裕が出来たが故の娯楽的な争いに。

 排他的で享楽的なそれらは、再び世界を蝕んだ。

 回復しつつあった大地は人の手が入ったことで余計に荒れ、増え始めた人口によって食料は足りなくなた。

 そうなればしわ寄せが行くのは弱者だ。

 女達は力有る者達が囲い好きにし始め、子供は使い潰されるか好事家に買われるようになる。

 食べるために親に売られたり、殺すよりはと売られることも始まる。

 人々の心がすさみ、始まり掛けていた復興も停滞どころか後退し始めた頃、介入する存在が現れた。

 それらは先に現れた存在は天使と名乗り、後から来た存在は悪魔と名乗った。

 天使は彼らにとって都合がよい人間を選別し囲い、悪魔は気に入った人間に力を貸し与えた。

 天使達に選ばれた人間には平和で過ごしやすい環境が与えられた。

 悪魔に気に入られた者達はそれなりに上手くやる者もいたが、力に溺れて破滅する者もいた。

 ではどちらにも選ばれなかった人は?

 天使に選ばれた者達をうらやみ、悪魔に力を与えられた者達から逃げ隠れする日々となる。

 天使によって子供を奪われた者、夫を奪われた者、妻を奪われた者、母を奪われた者。

 家族を友を奪われた人は多くいた。

 一家そろって。

 友人一同皆で、と言うことはなかった。

 連れ去られた者達がどうなったのか、それは置いて行かれた者達には判らない。

 力を望み、自分の欲望を叶えようと躍起になる人間であるほど悪魔達は力を貸し与えた。

 その力に溺れるも、願いを叶えるのもその人間次第。

 周りの人と幸せになるために力を使おうとも、暴力で支配していこうとも関係はない。

 ただただ、望みを叶えるためにあがいている者達に悪魔は力を与える。

 それに救われる者もいれば、搾取されるだけになる者も。

 目に見える脅威となっていった。




 少年がいた。

 父はなく、母に愛され育てられていた。

 隣は幼馴染みの少女がいた。

 少女には母はなく、医者のまねごとをしている父がいた。

 彼らは互いに足りない者を補い合い、家族のように過ごしていた。

 年頃になったとき、少女は恋をした。

 恋をした相手は少女を慈しみ、何時しか将来を誓った。

 しかし青年はいなくなった。

 天使に連れ去られたのだ。

 少女は友に行くことが出来ない自分を嘆き、身体をこわした。

 その頃少年は力を求め、理想に足掻く男と知り合った。

 力でねじ伏せられ、無理を強いられることの理不尽さを訴え、何度潰されようとも立ち上がる男と。

 少年は知恵を巡らせ、人と会話し情報を集めることで男の手助けをしていた。

 二人の前に悪魔が現れ、少年は断り男は力を手にした。

 少年は悲しみと自愛で身体をこわし、心を病み始めた少女に気がついた。

 青年を取り戻せないかと考えた。

 悪魔から力を貰わなかったことを、少しだけ後悔した。

 男のためにした行動を、今度は少女のために。

 情報を集め、青年の行方を調べる。

 天使、と言う人とは異なる存在が関わっているからか、中々望むような成果は上がらず、そのまま少女は心を弱らせ命を落とした。

 弱った者が生きて行くには厳しい環境。

 それでも弱い者達が力を合わせて生きていた。

 弱者の中にも優劣や強弱は存在する。

 少女は父親が医者のまねごとをしていたために、他の弱者よりは恵まれていた。

 しかし心が弱り、身体を病んだ状態でも生きていけるほど恵まれてはいなかった。

 幼馴染みを失った少年は天使など要らないと思い、天使の囲いが無くなってしまえと声にして吼えた。

 天使が少女から青年を奪い、その結果少女の命は失われた。

 強くなかったからだと言われればそれまでだが、それでも納得など出来はしなかった。

 その思いと怒りは八つ当たりであろうと天使達に向き、天使がさらった人々を囲う施設に向かった。

 翌日、天使達は居なくなっていた。

 天使達の施設から人々が出てきた。

 彼らは昨夜いきなり天使が消滅したと告げた。

 天使が居なくなったから出てこれたと。

 これで家族の元に帰れる、そう言って帰って行く者もいれば、天使の施設を使えばより多くの人々を救えると食料や医療品の増産が出来ないかと動き始めた者達が居た。

 そして、その施設を占拠して自分たちの物にしようとする人間も。

 得に悪魔から力を与えられていた者達が喜び勇んで動いた。

 しかし悪魔に与えられた力は彼らから消え失せていた。

 天使が居なくなったことで、悪魔もまた姿を消したようだった。

 彼らの与えた力と共に。

 力を無くした彼らは哀れだった。

 力に溺れ、肥大しきった自尊心と弛緩した思考。

 考えることをしないで、与えられた力が自分のだと思いこんで周りを巻き込んだ。

 そのために自分の勢力拡大が行えそうなこの場面で、何もかもを失った。

 天使も悪魔も唐突にいなくなり、破滅を迎える者や、家族にようやく会える者など悲喜こもごもな混乱が起こった。

 こうした混乱が一段落する頃、少年の幼馴染みを捜しているという青年が現れた。

 天使に連れ去られた時に引き離された恋人を探しているのだという。

 もう遅い、そうは思いながらも少女のことを忘れず会いに来たくれたことは嬉しいと、少年は青年を少女を埋葬した場所へ連れて行きました。

 青年は嘆き悲しみ、怒りを覚えた。

 その怒りが向かうべき天使はもう居ない。

 天使の作った施設に八つ当たりできるほど考え無しではない。

 故に怒りをぶつける方向を見失う。

 せめて、と埋葬地に花が有ればと青年は思い願った。

 美しい花など滅多になく、天使達の施設内で初めて見た鑑賞のための花々を見たとき、青年は確かに少女に見せたいと思った。

 だからこそ願った。

 もう遅い、見せることは出来ないかもしれないが、せめて少女が眠っている場所に美しい花々が有れば、と。

 花が、咲いた。

 美しい花が。

 大きな花弁に春を思わせる美しく淡い色を乗せた花が。

 少年も青年もその花々の名は知らない。

 しかし少年は、その花を少女のために青年が作ったのだと言うことを理解した。

 理解できた。

 青年は少年と同じ何かだと。

 しかし少年はそのことを告げず、少女のことを忘れないで居て欲しいと言うにとどめた。

 天使に選ばれた青年が力に溺れるとは思いはしなかったが、それでも共にいられるとは思えなかった。

 幼馴染みの少女にとって唯一と思える相手であっても、少年にとっては知らない人でしかなかったからだ。

 少年は天使の消滅に使った力を、美しい花を少女のために生み出した青年。

 きっとムリだと少年は笑った。

 男は少年に頼み事をしに来た。

 天使の施設を使い、人がより豊かに暮らせる方法はないかと。

 力有る組織や集団が確保に動き、元々天使達に選ばれた人を排除したり取り込みに掛かっている状況だった。

 それらが自分たちの組織のためだけに使うのではないか、施設の能力を使って新たに人々から搾取する方法を確立するのではないかと思い、どうにか出来ないものかと相談し方向を見つけて貰うために。

 少年は男から相談され考え込んだ。

 自分の手には余る、それは確実だがだからといって傍観していても良い問題ではない。

 しかし天使の施設について何も知らない。

 だが、知っている人はいる。

 少年は少し迷ったが、青年に話を持って行くことにし、そのことを男に話した。

 男は頷いた。

 少年に話を持って行くと決めたときから、他の人間が話にはいるだろう事は予測していた。

 以前天使の施設や、連れ去られた人たちについて調べていたことは知っていた。

 だからこそそれなりにつてがあるとは思っていたが、実際に施設内にいた天使に連れ去られた人間にコネがあるとは思っては居なかった。



 この日、初めて三人が顔を合わせた。

 それは後から思い返せば、様々な事柄の始まりだと思えた。

 世界が決定的に変異した。



 少女は世界を巡っていた。

 雨を降らせ、大地を潤し、緑を芽吹かせて。

 今日は東へ明日は南へ。

 そうやって気が向くままに各地を巡り、雨の恵みを与えてゆく。

 少女の願いによって降る雨は慈雨。

 清く美しいその雨は、病に倒れた者を癒し、傷つきうずくまる者を治した。

 狂った世界の歪みをほんの少しだけ元に戻す。

 少女が行っている行動はそれだった。

 死にかけた星に息吹を吹き込む。

 一ヶ所だけではなく沢山の場所で。

 その結果が人が少しだけ生きやすい環境への変化だっただけだ。

 そうした少女的には変化のない日々が、天使や悪魔と言った存在が現れたことで崩れた。

 天使は少女の命を狙い、悪魔は少女を利用しようと甘言を囁くため気を抜くことが出来ない日々が続き、さすがの少女も雨を降らせるためではなく自分を守るために転移を繰り返すようになる。

 しかしある日からぱったりと天使の姿を見ることはなくなり、悪魔は悪魔で酷く丁寧な招待状と迎えをよこされ、話し合いの場を持たざるを得ない状況に追い込まれた。

 断るよりも出来たら情報が欲しい、少女はそう判断して前向きに話し合いに応じた。

「最後の最後ですが、話が出来て幸いです」

 案内された先で待っていたのは美しい男。

 魂を吸い取られる、と言う表現が納得できるなと少女は密かに思う。

 言葉一つ、仕草一つが魅了する。

 存在するだけで惹き付けるというならば確かに悪魔だと納得しつつ。

「我々は撤退します。この世界から天使が消滅しました。貴女以外の存在が、貴女と同じ力を発揮して消滅させたようです」

 何を言っているのだろうか。

 少女は首をかしげる。

 少女は自分が特別だと思ったことはない。

 ただ他の人とは違うと言うことだけは判っていた。

 年を取らない。

 他の人には出来ないことが出来る。

 その二点だけが異なるだけで、基本食べなければならないし、眠らなければ身体が持たない。

 きっと刃物で刺せば死ぬだろうと思っている。

 いくら年を取らなくても死ぬのは怖い。

 だからこそ人ではない存在である天使や悪魔達から逃げていた。

 知らないモノは怖い。

 自分が人からそう見られていると判っていたも、天使や悪魔と名乗る存在を受け入れようとは思わなかった。

「貴女のように人を逸脱する存在を自陣営に引き入れる事が最上、出来ないならば抹消させることが役割でした」

 逸脱。

 人を逸脱。

 つまりは人の範疇と言うことなのだろうか?

 自分たちを天使や悪魔と称する存在であれば、確かに人の範疇でしかないように見えるのかもしれない。

「貴女を追っていたら新たに誕生した存在に天使どもを消滅させられましたよ……これでは我々も撤退せざるを得ない」

 力をばらまき、契約でもって縛った駒が無意味になった。

 そうは言われても少女には関係がない。

 ただただ、今まで何故か追われて、それから逃げていただけなのだ。

 その行為がなにがしか良い方向に働いたというのであれば、少しいい気味だと思えた。

「あなた方魔女達に祝福を。人から外れ天使でも悪魔でもない、そのくせ人からしか生まれぬ魔女達に」

 苦々しくも愉快そうに嗤いながら悪魔は消えた。

 最後、とはそう言う意味かと少女は思い、そして自分以外の自分と同じような存在がいると言うことに心躍らせる。

 ずっと一人だった。

 知られないようにしていた。

 だからこそ、同じ存在がいると言うことが嬉しく、それ以上に哀れだとも。

 年がとれない。

 百年以上生きているはずなのに、肉体的にも精神的にも衰えが感じられない。

 出来ることが増えている。

 死ににくくはなっている。

 でもきっと死ぬ。

 それはどういう風にかは判らないけれど。

 そして、明らかに人外の存在達が手に入れたがる……手に入れたかったらしい。

 今はもう撤退したようだが。

 知っているのだろうか?

 きっと知らないだろう。

 話して、友達になれるだろうか?

 それともやはり拒絶される?

 心が躍る。

 心が揺れる。

 こうして期待に動くことがあるとは思いもしなかった。

「悪魔なんかに祝福されたのだから、それだけでも教えてあげても良いよね?」

 こうして少女は魔女と呼ばれたことを受け入れ、自分以外の同じ存在を探すことを目的とした。


今書いている話の舞台装置の説明的な感じ?

読み切り短編で書こうとしたら、読み返したらあらすじというかプロットにしか思えなかったために、最後まで書いた後必要な前提とか話にいれれないなぁと思ったらこれが出来ていました。



少女

一番最初に生まれ、悪魔に魔女であることを教えられた。

少年

天使を消滅させることで魔女になった。

青年

無き恋人のために花を作ることで魔女になる。

悪魔に貰った力を完全に自分の物にしていたために力をなくさなかった。

幼馴染みの少女

その死を契機に少年と青年を魔女にしてしまった。

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