PKは合法的マナー違反
新キャラ出ます。(といってもレギュラー化するほど長く続きませんが……)
「あーにーしょー、あーそーぼー」
「またか……」
「わーん、お……」
「やめい!!」
場所は俺の部屋の前、目の前にいるのは俺の妹である大倉友。
俺は引きこもりのはずだ……なのに、こいつの侵略は容赦がない。
こいつの持論としては『部屋から出てくる気がないなら自分から部屋に侵入したほうが早い』ということらしいのだが、いつも拒むのに失敗し続けてまここまで習慣化してくると、ちょっと心が折れそうである。
「相変わらず、禁断の書はどこにもないですねえ」
「(すぐ見つかるようなところに)あってたまるかそんなもん」
約一週間前、俺は友が理解できないだろうと思って遠まわしに感謝の意を伝えた。
だが、友はそれを言質を取ったと解釈し……
『じゃあ、もっといっぱい私と話せば兄将の役に立つ言葉もたくさん出てくるかもしれませんね』
と言い、毎日俺の部屋に強引に入ってくるようになった。
鍵をかけても緊急用のマスターキーを持ち出してくるし、ドアの前に家具を置くにしても部屋の扉は外開きであまり意味がない。
そして、俺の部屋に侵入した友は毎回引き出しやベッドの下を漁る。
それが終わると、決まって言うのだ。
「ねえ兄将、ゲームしましょうよ!!」
「またかよ……今度はどんなの持ってきたんだ?」
「にゃはははは、驚かないで下さいよ……『難解、日本人より日本に詳しい外国人が選んだ難問3!!』です」
「驚かねえよ……昨日はそれの第二弾だったしなぁ」
こいつは、あれから毎日新しいゲームをダウンロードして来て俺と対決する。
ゲームと言ってもVRゲームではなく、もっと旧式の携帯端末を使った二次元のゲームだ。
しかも、俺との『実力差』が出ないようにという配慮なのか、俺に更生を促したいのか、はたまた俺と遊ぶついでに勉強的なこともしたいのか、それともその全部で一石三鳥くらいを狙っているのかわからないが、友は得意な将棋やチェスではなく知識量で勝負する勉強系ゲームを選んでくる。
まあ、それでも七歳児と十八歳の俺の知識量が拮抗するというのはおかしな話だが……
こんな調子で、俺は最近なかなかGWOにログインできていない。
もちろん、オリーブとの約束の時間にはログインしているが、他の時間にはほとんどログインしていない。
人に教えるのは自分の一人でプレイするのと比べて疲れるということもあるが、もっと直接的な原因は別にある。
いつ友が強行突入して来るかわからないからだ。
何とか交渉してオリーブとの約束の時間帯には入ってこないようにしてあるが、他の時間は迂闊に無防備な体をこの世界に置いていけない。
ある意味、友は俺のVR中毒を治療したといってもいいかもしれない。
かなりの荒療治だったが……
「あ、そろそろ時間だな」
「どうしました? 二次元の彼女に会いに行く時間ですか?」
「いや、VRゲームだし二次元ではないぜ? それに実在する人間だし」
もちろん彼女でもない。
「アバター越しで実在するとか言われても困りますね。それに、本当はすごい不細工かもしれませんし」
「嫌なこと言うなよ……いつかリアルで会うことがあってすごい美人だったら俺に謝れよ」
「その時はお詫びに『ゴムの袋』を私のお小遣いでプレゼントしますよ」
「R18指定されかねない話題を持ち出すな!! てゆうか、その歳で何つー言葉知ってんだよ!?」
「何を想像してるんですか? 私、バルーンアート得意なんです。チワワとか作りますよ」
勝ち誇った笑みを浮かべる友。
なんということだ、変な想像をした俺が変態みたいじゃないか。
「まあ、リアルで会えるようになるまでにまともな自己紹介ができるようになっておくべきですね」
「う……痛いところを……」
オリーブのリアルでの姿がどうであれ、確かに堂々と会えるようにはなりたい。
だが……それにはまだ抵抗が強すぎる。
いままで引きこもっている間に、三城と俺の間に重大な亀裂が入っているかもしれない。
もう、俺の引きこもり卒業は望まれてないかもしれないと思うと足がすくんでしまいそうだ。
「お姉ちゃんも、兄将のことを嫌ってなんていませんよ……なんて言っても、信じられないんでしょうけどね」
「悪い、疑ってるわけじゃないんだけどな」
不安が消えない。消したいのに消えない。
すると、友は少し黙り込んで……微笑みながら言った。
「大丈夫ですよ。いざとなれば妹のために動いてしまうのが『お兄ちゃん』という存在ですから」
七日目。
今日はマンツーマンの教育ではなく、他のパーティーに混ぜてもらってのクエストとなった。
大規模の多人数参加型VRゲーム、つまりVRMMOをプレイするならやはり俺意外のプレイヤーとも一緒にプレイできなければ困るからだ。
といっても、『門限』を考えると受けられるクエストは限られてきた。
GWOのゲームには『クエスト掲示板』なる機能があり、クエストメンバーが揃わないときに条件を提示して補充のメンバーを探すことができる。
この時、俺はそこまで意識しなかったが昨日聞いた噂に影響された。
昨日PKが現れた『仏門地区』を無意識にクエストの場所の条件として考えていた。
二日連続で『神出鬼没』と呼ばれるPKが同じ地区に出るわけがないという考えのもと動いた。
神出鬼没とは、『絶え間なく動き続ける』という意味ではなく……『予測不能』という意味だということは受験生や浪人生でなくとも知っているべきことなのに。
俺とオリーブが入ったパーティーは、一時間ほどただただモンスターを借り続けると強力な武器が手に入るというごくありふれたクエストをする予定だった。
パーティーメンバーは俺とオリーブを加えた七人。
俺は槍持ちなので前衛の中距離担当。
オリーブは後衛の回復担当。
他には盾持ちの前衛剣士が二人、回復役がオリーブのほかにもう一人、遠距離の攻撃役が二人とバランスは悪くなかった。
だが、場所とタイミングが悪かった。
そこが仏門地区で、偶然にもその日のPKの活動時間とかぶってしまったのが拙かった。
「このクエストの報酬は山分けでいいよな」
「ああ、ちゃんと働いてくれたらな」
「じゃあ俺らは無傷で戦ってれば回復役二人の分の分け前が増えるわけか」
「意地悪はやめてくださいよー」
そんな軽口をきいているとき、唐突に『そいつ』はある程度密集していた俺たちのど真ん中に現れた。
全身の革装備のコスチュームも黒で統一し、さらに黒く染めた目出しの頭陀袋を被った男。
その手には高難易度クエストに一人で挑み、報酬の魔獣の骨から作ったのだと噂される黒塗りの短刀。
トレードマークのように紅く『DEATH』の文字が染め抜かれたスカーフを左手首に巻き、尋常じゃない殺気を放つ危険人物。
俺はその人物の名をつい先日、噂で聞いたばかりだった。
「マスクド……ジャック」
頭陀袋から覗く目を笑いで歪めながら、彼はくぐごもった声で言った。
「全滅の時間だ」
一応、主人公の意識の中ではまだ引きこもりです。




