人は知名度だけでなく見た目からも判断すべし
第三話です。
早速ですが、新キャラ兼重要キャラ投入です。
伝説の最強プレイヤーからいきなり声をかけられた。
これはもしかして夢か?
それとも街中で歩いていたら芸能人に話しかけられたくらいの奇跡なのか?
そもそも仮想現実の技術自体が夢のようなものだし、この世界の中では幻覚などというものはまずありえない。(戦闘中の敵の特殊攻撃でもない限り)
だが、何の接点もない最強プレイヤーのほうから俺に話しかけてくるなんてことがあるだろうか?
そういえば、何か『頼みごとをしたい』的な内容を言われた気がする。
もしかしたら、その『頼みごと』というのが『そこの棚の商品見たいからどいて』とか、『そこの商品とって』という内容だったら何の接点もない俺でも十分に話しかけられる可能性はあるかもしれない。
「ちょっと聞いてる? 君に話があるんだよクロードくん」
クロード?
クロードとは俺のプレイヤーとしての名前だったはず。
つまり、『俺』狙って話しかけてきたのか?
この有名人が?
「俺ですか?」
「うん。同じ名前のプレイヤーはほかにいないはずだけど?」
「……ですよね」
人違いではない。
だったら余計わからない。なんで俺に話しかけてきたんだ?
俺はトップランクのプレイヤーとは言っても大会成績ではベスト16に入っているくらいで何か特別有名になるようなことはしていない。
この人と大会で当たったこともない。
この人から見たら『その他大勢』のうちの一人のはずの俺の名前なんてなんで知ってるんだ?
「……ああそっか、ここで話してるとほかのお客さんの邪魔になるし営業妨害になるね。外で話そうか」
どうやら俺の沈黙を『店を慮った行為』だと思ったらしい。全くそんなことはなくただ単に混乱していただけだったのだが……
最強のプレイヤー『オレンジ』は悠々と出口のほうに歩いていく。
買い物は?
もしかして、俺に声をかけるだけ為に入店したのか?
いまだに事態に確信が持てずに動けない俺をよそに、勝手に話を進めてしまう。
その後姿には隙が全くない。
仮に今、俺が後ろから襲いかかっても勝てる気がしない。
この『オレンジ』は本物だ。
逆に、もし今不意打ちされたら俺は後ろ向きの彼女に負ける自信がある。
出口に立って振り返ったオレンジは振り向いて、俺に微笑みかけながら言った。
「早く来ないと、無理やり連れて行っちゃうぞ」
俺は半ば強制的に、自分の意志で連行された。
店の外に出たオレンジは何も言わず俺を『闘技場』に連れてきた。
このGWOというゲームは『プレイヤーVSモンスター戦』『アイテム取得』『クエスト』などのさまざまな遊び方があるが、一番のメインは『プレイヤーVSプレイヤー』だ。
むしろ、他の全ては他のプレイヤーとの試合で勝つために行われるといっても良い。
このゲームでプレイヤーの強さを決めるのは装備の性能、スキルの割り振り、特殊能力の選択、そして何よりもプレイヤー自身の戦闘技術だ。
このゲームではレベル制はなく、モンスターとの戦闘やクエストというのは『特殊な技の習得』か『アイテムまたはアイテム購入のための資金集め』そして『自身の戦闘技術の向上』という役割を持つ。
そして、大会以外でも自分の磨いた戦闘技術を確かめるために町のそこかしこに『闘技場』が配備されている。
闘技場といっても、半径10mほどの石の円盤が置いてあるだけだ。
使用用途もたった一つしかない。つまり……
「頼みごとって試合ですか?」
それなら少しは解る。この最強のプレイヤーがランキング上位のプレイヤーを見つけたら手当たり次第に試合を申し込む戦闘狂だったらこの状況も頷ける。
だが、俺の安易な納得をオレンジはあっさりと打ち破った。
「違うよ、試合じゃなくて賭け試合。私が勝ったら私の頼みごとを聞いてくれない?」
それはほぼ強制だ。頼みごとというかただの命令になってしまう。
全く勝てる気がしない。
「……勝てるわけないじゃないですか」
情けない言葉だが、言わずにはいられない。
「ハンデをつけるわ。私は武器も≪炎帝カグツチ≫も使わない。これで対等な賭けになるんじゃない?」
「!!」
≪炎帝カグツチ≫とはプレイヤーが選択できる特殊能力の一つ。
オレンジの代名詞と言っていい必殺技だ。
このゲームの設定ではプレイヤーは古今東西の神々の『加護』を受けて神々の代理人『神官』として、特定の神の特殊能力を行使できる。
基本的に知名度の高い『大神』は強力だが扱いが難しい。
知名度の低い神は地味だが扱い易い。
≪炎帝カグツチ≫は能力発動の超困難な一撃必殺の能力。最上級の『大神』だ。
今までのオレンジの勝利はほぼ全てこの≪炎帝カグツチ≫によるものだといっていい。
その≪炎帝カグツチ≫を使わないオレンジの戦い方がみられる?
誰も見たことがないかもしれない戦い方を?
「それとも逃げる?」
『逃げの一手ですか?』
何故か、目の前の背の高い最強プレイヤーと現実世界にいるはずの小さな妹の言葉が俺の中で重なった。
今まで怖気づいていた俺の闘志に火が付いた。
この世界で逃げたらもう逃げ場はない。
「わかりました。その勝負、受けましょう」
≪炎帝カグツチ≫については次回詳しく解説するつもりです。
展開が速くて分かりにくいかもしれないですが、できれば十話以内には完結したいと思っているので、それまでの間ご容赦ください。